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転生ではなく地獄に転職する道を選んだら労働環境が超ホワイトでした  作者: 雪途かす
第三章 呪術師との最終決戦

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弐:樹海

 そこは、鬱蒼としていていかにも不気味な雰囲気の森だった。

 大きな木が別の木に倒れ掛かり、ちょうど門のような形になったところに繋がったらしい。


 人為的に造られた扉や門だけでなく、自然が創り出したそういう形状の場所にも繋がるのか、と妙に感心する碧羅だった。


「……タン!」


 玄が目を閉じ、胸の前で印を組んで唱える。


「……駄目ね、桔梗ちゃんの気配は感じない……少なくとも日本近郊にはいなさそうね」


 首を横に振る玄。探知術とやらはそんな広範囲まで探せるのか。と碧羅は内心驚く。


「とはいえ、天国は天使たちが探してくれているはずだし、私とアイアちゃんは、移動しながら空からもっと広範囲を探すとするわ」

「そうだな……」


 嘆息し、蘇芳も同じように探知術を使って今度は乱鴉の気配を辿る。


「……こっちも乱鴉の気配を察知できない……」

「でも、乱鴉の場合は桔梗ちゃんと違って、気配を感じないからといって、いないとは限らないわ」

「ああ、隠れている可能性が高い。手分けして探すしかないな……」


 玄の言葉に蘇芳が嘆息し、空を仰いだ。


「ちょうど、ここは日本の中心付近だ。西と東に分かれよう。四時間探して見つからなければ、天元城へ引き上げること。また、乱鴉か桔梗を発見した時点で報告し、報告を受けたら全員そこへ急行すること」


 分かれて探す、と言われたユーアが不満そうな顔をする。


「では、私たちは西を……ユーアさん、行きましょうか」


 滅紫が、不穏な表情で碧羅を見るユーアに気付いてさっと促す。


「じゃあ、アタシたちも行きましょうか、アイアちゃん」


 がしっとアイアの肩を掴んで、彼が何か言うより早く、玄が身を翻し、半ば引き摺るようにして空へ舞い上がっていった。


「……俺達も、北東方面へ進みながら都度探知を行うぞ」


 二組を見送って、蘇芳が碧羅を振り返る。

 その時だった。


 どくん、と碧羅の心臓が突然大きく跳ねた。


「っ!」


 心臓が鷲掴みにされたかのような痛みに、思わず胸を押さえてその場に蹲る。


「碧羅? どうした!」


 蘇芳が慌てて屈み、碧羅の肩を掴む。


「く、くるし……」


 息ができない。

 碧羅が喘ぎながら、胸元から勾玉と護符を取り出す。


「っ!」


 護符が、真っ黒に染まっていた。

 昨日、新しいものと取り換えたばかりなのに。


「馬鹿な! 月白の護符が、こんな短時間で……」


 言いながら、蘇芳が印を結ぶ。


ジョウ!」


 唱えて浄化を試みるが、碧羅の呼吸は楽にならない。


「くそ! 乱鴉が近くにいるのかっ?」


 蘇芳は辺りを見渡すが、乱鴉の気配は感じない。


 刹那、碧羅の足元に、六角の星が光った。


「籠目……!」


 蘇芳が目を瞠る。

 これは、籠目と呼ばれる六芒星で、乱鴉ではなく鬼がよく使う術だ。


 では、これは乱鴉ではなく、桔梗の仕業か。

 いや、それを決めつけるのも早計だ。

 今はとにかく、碧羅を助けないと。


 判断は一瞬だった。

 蘇芳が、碧羅を安全な場所に移すため、無理矢理冥府に道を繋げようと術式を展開する。


 しかし。


「遅い」


 声が聞こえた刹那、碧羅の姿がその場から掻き消えてしまった。


「っ! 碧羅!」


 残された蘇芳は忌々し気に歯噛みし、拳を握り締めた。


 それからすぐに、連絡用の水晶玉を取り出して連絡部へ繋ぐ。


「緊急事態発生。現世、流冥門出口付近にて、新人碧羅が何者かに強制転移させられた。足元に浮かび上がったのは六芒星のため、乱鴉以外の者による可能性も視野に入れ、捜索を開始する。至急、現世警備課と防衛部を現世に派遣してくれ」


 戸惑った様子とともに、「了解」の言葉が水晶玉から聞こえてくる。


 蘇芳は、一度息を整えて、両手で印を組んだ。


ベキ


 唱えると、蘇芳の眼に、碧羅の妖力が糸のように細く、遠くへ続いているのが視えた。


 蘇芳はその糸の先を睨むと、脚に力を込めて、大きく跳躍した。そのまま宙へ駆け出し、虚空を駆けていった。

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