序:誰かの夢
暗闇が広がっている。
視界の全てが漆黒で塗り潰されて、何も見えない。
ここは何処だろうかと辺りを見渡すと、ふと闇が消えて情景が浮かび上がってきた。
ぼんやりとした霧の中だ。
少し進むと、寄り添う男女がいた。
長い黒髪を首の後ろで括っている、端正な面立ちの男性と、同じく艶やかな黒髪の女性。
二人とも和服姿で、両手を重ね合っている。
割って入ってはいけない気がして、じっと二人を見守る。
知らない場所、知らない二人だ。
しかしどこか懐かしく感じるのは何故だろう。
そして二人を見る自分の心に、ポタポタとドス黒い何かが落ちていく感覚。これは誰の感情だろうか。
何とも言えない嫌な感覚だ。
しかし、その二人から目を逸らすことができない。
切ない表情で、女が何かを訴えているが、男は痛みを堪えるような顔をして首を横に振る。
その口が、何か言葉を紡ぐ。
それを聞いた女の目から、大粒の涙が零れ落ちた。
「……どうか、気をつけて」
女の声でそう聞こえた瞬間、碧羅は夢から放り出された。
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