無知の知。自覚はあってもね
数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございますo(*⌒―⌒*)o
またしてもお久し振りです(-人-;)
サラサちゃん視点に戻ります。
かなり乱暴な説明になった自覚はあった。
だが仕方がない。元々医学の知識なぞ持ってはいないし、何よりこちらに無い概念を説明できるほど、サラサ自身が物事を理解できていないのだ。
例えばトマトになぞらえて説明する。勿論こちらでは別の名称で呼ぶ事になる。しかしサラサの頭の中では“トマト”で処理されてしまう。まあ、ここまでは良いことにしよう。そうしないと話が進まない。だがサラサから対象者に言葉を発する場合だ。ここで不思議が生じる。サラサ自身が他者に対して“トマト”をこちらの言語のトマトに勝手に訳しているという事実だ。不思議だ。
だが……困るのはその先だ。
サラサは母亡き後、かなり不遇の扱いを受けていた時期がある。一言で言うなら虐待だ。最後は虐待を通り越して拷問だ。今現在は保護され安全であるとはいえ、虐待を起点に社会から遠ざかった。その起点が、ぶっちゃけ早い。母親がしっかりしていた人なので、簡単な読み書き計算と会話は可能だが、物事を知らない。保護された後、すぐに自分のお城──実質は小屋を建てたので。その後、限りなく引きこもりに近い生活なので。
詰まるところ、こちらの言葉やら概念やら常識が、か~な~り~、欠けている。因って、あちらのどの知識がこちらに有るのか無いのかが分からない。そもそも言葉その物が大して成長していない。話し相手となる人間が、かなり限定的なので。
けれども先程の“健常者”のように勝手に言葉が出てくる時がある。相手の反応からして、こちらに無い言葉であろうと判断する。だが日本語でもないのだ。意識としては“健常者”になっているので、自分が何を言ったのかは理解できてはいる。まず相手には伝わらないが。
さて、誤魔化すか。
元々怪しい知識を、更に疎かな概念に当て嵌めるのは、ほぼ無理だ。少なくともサラサには出来ない。
……………よし、デスクワークといったら肩こりだろう。腰にもくるよね!
……………肩こりって何て言うのだろう?
そもそも「肩こり」という言葉が無い可能性もある。前世の地球では“肩こり”なる言葉その物が無い国も多数存在したらしいし。
さて、どうすべ……。
肩こりは忘れるかな。
「あー…………さっきの今なのだが、背中全面が非常に辛いのはどうすれば良いか知らないか? 特に首周りが酷いのだ」
「それ、筋肉の……言葉が分かりません」
忘れようと思ったそばからこれか……。
「今、喋っている言葉は何なんだ?」
「言い直します。症状に心当たりはありますが、それを指す単語を知りません」
「………対処法方は?」
「温めて筋肉をほぐしてください」
「冷やすのではないのか?」
「炎症や怪我の場合は冷やしてください。ただお悩みの症状の場合、患部が広域ならば、もうお風呂に浸かってしまうべきでしょう」
「? 風呂は真冬以外は水浴びだろう。水に浸かると冷えるぞ」
「どうやら私と皆様の湯殿に対する認識が違うようです」
「ゆどの? とは何だ?」
「面倒臭っ」
「何だって?」
「お風呂です。シャワーだけでなく、きちんと湯船に浸かってください」
「しゃわー? とは何だ? あとは舟だと? きちんと説明しろ」
「……言葉が不自由ですので諦めてください」
「面倒臭いの一言で諦めるな。分かるように説明しろ」
「………聞こえていたのですね」
「そりゃあ役職柄──」
──バンッ!!
青年が言いきらぬ間で部屋の窓が全て勢いよく開いた。勿論、室内の人間が開けたのではない。外から見えざる力によっての所業である。
その窓──精霊の森を望める窓から白い鳥が勢いよく突っ込んで来た。
「小娘!」
その鳥がこれまた勢いよくサラサを呼んだ。
「これはこれは梟の。如何なされ……何やら燻し臭いようですが──」
「呑気すぎる! 我等の森が付け火で燃えておる!」
サラサの顔付きも雰囲気もガラリと変わる。
「あ?」
濁音の付いた「あ」の一音は、それはそれは物騒にして不穏な声音であった。