健康オタクか
数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございますo(*⌒―⌒*)o
お久し振りです!
ここ暫く偏頭痛に悩まされておりました。あれ、キツいですね。
何でこんなに時間がかかったんだろうって内容ですm(_ _)m
今回、誤字がいつもより多そう(-_-;)
今回は青年の護衛兼侍従視点でお送りしますm(_ _)m
漸く話が本題に戻ってきたかという辺りで、目の前の娘が苛立たし気にカタカタと貧乏ゆすりを始めた。殿下より先に「“火付け”の話は都合が悪いよな」と声をかけると、娘は顔色一つ変えずに答えを返してきた。
「? ……ああ、この脚の痙攣の事ですね? 少し前からこうなのですが、誤魔化しがきかないほど酷くなっているようですね」
「痙攣?」
私をはじめ複数人の声が揃った。殿下は目を眇ただけだったが。
「私は片方の鼠径部周辺がおかしいのです。ずっと立ち続けていると、時折こうなります。今回は、こちら──王都に運ばれる際、文字通り荷物扱いで馬に括り付けられてきたので、心身に負担がかかった為でしょう。ええ、今度は脊椎がどうにかなってしまうかと思いました。ハッ」
娘が説明の言葉を重ねる間にも、ガタガタガタガタと脚の動きが激しくなる。足音その物は絨毯に吸収されているのだが。
「お行儀が悪いのですけど、ちょっと失礼」
娘が断りと共に自身の手足を伸ばした。かと思ったら、(本人曰く)痙攣していた方の脚を後ろに浮かせて伸ばしてみたり。そのまま上半身を捻ってみたり。その度バキッボキッとなかなか景気の良い音が部屋に響く。……うん。考えてみたら眼前の娘は一般的に令嬢と呼ばれる生き物であった。令嬢を荷物のように運び、挙げ句に立ちっぱなしにさせるのは、いささか酷であったか? 但し、本人の証言が真であったならだ。但し眼前の令嬢は普通ではない。幾ら辛いからといって一般的な令嬢は他人の前で(軽く筋を伸ばすだけとはいえ)こんな体制はとらない。更に「伸びろ~」とか言いながらアキレス腱を伸ばしているらしいが、男達の感覚からすると、それで伸びるのか? と疑問に思うほど角度が足りない。にも拘わらず、カキッパキンと不安になるような音がしている。脚の揺れも相変わらず。逆に器用だな。もしかして本当に痙攣なのか? ……!? 痙攣だぞ、大丈夫なのか!?
「……それ、大丈夫なのか? 対処法は知っているのか?」
殿下からの心配の問い掛けに、娘は休めば次期治まるとのこと。
「では泊まっていけ。すぐに部屋を用意させる」
「嫌ですよ、こんな所。休めたもんじゃない」
「……おい」
私は結局我慢しきれず声にしてしまった。
「そもそもの話、一般的に〈王家の森〉と呼ばれている精霊様方のお住まいに接しているというのに、呼吸をしない健在で建てられているお城。私としては人間の在る場所として論外です。なによりこの国の女性の装い文化にも馴染めません。コルセットなぞ、私に言わせれば拷問具ですよ」
色気も素っ気もないという意味で、身体を捻ったりしながら言われてもな。グキンッ!
「君のような文化に馴染めないような人間には、そうかもしれないな」
君は野蛮人、との殿下の嫌味が通じているのかいないのか、娘は見ようによっては冷笑にも見える顔で蘊蓄を垂れ流す。ガキッ!
「疑問にも思われない方々には、そのようにも受け取られましょうね。けれども私にとっては真逆です。この国の王公貴族女性って、感情的になり易うございましょう? 特に、ヒステリック。ついでに出産時に命を落とす確率が他の国々よりも高い」
「それもこれもコルセットのせいだとでも?」
「必ずそうだとは申しませんよ。でも、健康を害しているとは言い切れます。だってコルセットによって、本来在るべき場所にある臓物が上下に押しやられてしまっているのですから。だから大笑いするな、とかいう馬鹿らしい教えが出てくるのです。品位の前に、命に関わりますから。確か突発的な笑いや、笑いを堪えようとして臓腑が破裂して、大層苦しまれて亡くなられた前例がございましたよね? ああ因みに、美容にも大変悪うございますよ。臀部が大ブスになりますし、肌荒れ等々も誘発致しますから。私に言わせれば、当然の理 ですけれど」
「……それも狭間人としての知識か?」
「さて、私の知識の拠り所は、大抵は何処ぞの図書館由来かと、ホッ」
娘が片手を腰に当て、そちらに真横目指して上体を倒していく。因みに空いた方の腕は上に伸ばして、上体と共に倒されている。そしてお馴染みのように、ゴキパキンッと派手な音が鳴り響く。もはや怖いレベルでの音だ。
「私を見下しながらも、時折心配してくださっているようでもありますので、一つ余計な蘊蓄を追加しましょう。ずっと、長時間同じ姿勢はよくありませんよ。特に座りっぱなしはエコノミー症候群を発症し易いので要注意です」
「要注意……。では、その何たら症候群とやらの内容を説明してみせろ」
たぶん殿下に対する注意だろう言葉に、殿下も無視し辛かったのだろう。要注意、症候群とくれば、気になるのは分かる。ついでに娘は、あれこれ姿勢を変えるのを止めたようだ。
「フウ…。座りっぱなしという仮定でお話ししますね。座っていると、腿の下側に負担が掛かりますでしょう? 人によって多少は場所が変わっても、お尻から腿にかけて負担が掛かるという条件は変わりません。その場合、負担が途切れる場所辺りに血栓が形成され易い条件が整います」
「ケッセン? とは何だ?」
「血の固まりです。出血した時に止血しようとする肉体の機能の一つです。ですので生体反応の一つです」
「それも狭間人としての知識か?」
「いちいちしつこいですね。もはや、どちらで得た知識かなんて知りませんよ。ただ私にとっては常識であり、事実であるというだけです。宜しいですか?」
「……取り敢えず、承知した」
「もしも血栓ができてしまったら、という仮定での話で続けます。ある一定の大きさに育った血栓は、適当にその場所から離れて流されて行きます」
「適当? そもそも、“一定の大きさ”とは決まっているのか?」
「たぶんですけど、いいえ」
「おい」
「その時の血圧やら血管の柔軟性やら若々しさやら、条件は多岐に渡り複雑ですから。外的要因も色々でしょうし、判明したところで意味は無いでしょう」
「……また分からない言葉が幾つか出てきたな」
「サクっと進めたいので聞こえなかった事にします。とにかく血栓が流れた後の分かれ道です。対象者が若い健常者ならば」
「けんじょうしゃ」
「健康体ならば、血管に詰まり難く、血栓その物も自浄作用よろしく溶ける事もあります。けれども血栓が溶ける事無く詰まってしまえば、詰まった場所で反応が変わります。心臓ならば心筋梗塞、肺ならば呼吸不全、頭ならば脳梗塞で症状も様々。急に呂律が回らなくなったり、手足に痺れや不自由が出たり、左右どちらか半身不随とか、倒れるように眠りこけて大きなイビキをかいたり」
「本当に……多様な症状があるのだな」
「何処が悪くても困るのが身体です。対処法ですが、時々身体を動かす事。できれば数分歩くだけでも違います。会議等で立つ事も儘ならない場合は、脚を上げるだけでも違います。片方ずつ爪先立ちになっての踵の上げ下ろしだけでも効果はあるかと」
「座ったままか?」
「床に足先が届いているなら、自覚できる程度の効果はありましょう」
「…………あるな!」
「お茶の時間には水分も接種しましょう。因みにお茶や珈琲等は体内の水分を排出する作用がございますので、飲み過ぎには気を付けてください」
「何を飲めと?」
「程度の問題です。仕上げに白湯の一杯でも飲めば宜しいかと」
「……お前も飲んでいるのか?」
「たまに無性に欲しくなる時はございますね」
「殿下。話が完全に逸れております」
「!」
今気付いたらしき殿下の反応には気付かなかった事にしよう。
中世のコルセットに関して、大笑いして内臓破裂、は史実として記録されていたと記憶しています。
記・憶、です。怪しいです。
でもお尻ブスは何方かの絵画に残されている筈です。
誰それの、と書けない悲しさよ。
全部、怪しい気な記憶頼み( ;∀;)