表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

三人目

数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございますo(*⌒―⌒*)o

お久し振りです(  ̄ー ̄)ノ

今回は少し重いです。長いです。前振り少しだけ長いです。

ネタに関わる話ですが、精神的な学問は、一切勉強しておりませんm(-_-;)m

三人目の考えとしてお見逃しお願いいたします(-人-;)



 先頭を切る侍従兼護衛は元より、周囲を囲む騎士達がチラチラとサラサを見ながら歩みを進める。

 一方サラサは梟型と沈火を目指して打ち合わせの会話が続けられている。


「森の中じゃ土塀は造れないなぁ……梟の、放火されたのはどのくらいの深部ですか?」『外側、森の際だ』「……いやいや、油を撒いたからとはいえ、それでは広がらないでしょう」『地中で火が広がって、人間共が容易に立ち入れぬ場所で再発火して火の手が広がったのよ。忌々しい』


 周囲の男達では『地中で火が広がって』の意味が理解できなかったが、サラサには理解できたのだろう。震えるような深呼吸が一つ。震えの根底は、おそらく怒り。


「………今更だけれど、広葉樹が幾ら火伏せとは言っても、根を焼かれたら一貫の終わり。水は一度に大量投入できなければ、焼け石に水。寧ろ湯立ってとどめになりかねない」


 余程憤っているようだ。焦りもあるのだろう。サラサの言葉が震えたままだ。


『氷ならどうだ?』「氷の化身は居られるのですか?」『……居らん』「居られたとしても、水蒸気爆発の恐れもございますし……やはり空気の遮断と土の圧縮からかと……」


 男達には、もはや会話の内容などさっぱり分からない。


「………いや、もはや爆発させてしまった方が何とかなるかも?」『待て待て待て待て! 要救助対象が居る事を忘れてくれるな!』「っ! それです! いったいどのような方々が取り残されて居られるのですか?」『お主、本気で忘れておったな? まあ今はそれより話を戻して、草木に関わる者共が主だな』「燃えるー!」


 とうとう堪えきれなかったのだろう。サラサが吠えた。

 またこちらも耐えられなかったのだろう。先頭の年長者が足を止めて振り返った。


「ぬしが殿下の前で猫を被って居たのは分かる。だが人が変わり過ぎではないか?」


 サラサは物言う壮年の男に、何度も同じ事を言わせるなとばかりに、黙したまま犬を追い払うように手を振った。歩みを止めず進めと言いたいのだろう。梟型の精霊まで眼光鋭く睨んでくるので年長者は三度(みたび)足を動かす。


「先程おぬしは“三人目”とか、“かわった”とか言っていたな。その……サラサ・フォ・エイビス嬢で間違いないのか?」


「そうとも言えるし、違うとも言える」


 サラサはほんの少し黙り込んだが、あっさり応えた。


「……五、六十年前なら火やぶりにされてただろうな」


「悪魔憑きか!!」


 今度こそ完全に止まり、年長者の断じる声に併せて周囲の騎士達が一斉に抜刀した。


『痴れ者共が! なれば我は悪魔の使い魔だとでも言い出すつもりか!?』


「いや、それは……」


 梟型の一喝に我に返ったのだろう。年長者だけでなく抜刀した騎士達も閥が悪そうに途端に意気消沈して目を反らす。


「今はとにかく時間が惜しい。騎士は剣を抜いたままでいい。さっさと案内しろや、オッサン」


 サラサの要望に応え、ノロノロと歩み出す。騎士達がバラバラに剣を鞘に収め終えた頃合いには、歩みは元のキビキビした速さに戻っていた。その頃合いでサラサがポツリと口を開いた。


「……王城に居る面子なら分かる奴も居ると思う」


 全員聞いてはいるが、もう振り向かない。

 サラサの声も、いまいち精彩を欠いて響く。


「酷い目に遭い過ぎて、感情が麻痺したみたいになる事ねーか? 自分の事なのに、まるで第三者視点で視てる、みたいな」


「……聞いた事はあります」


 答えたのはサラサの後ろを固める誰かだった。


「それ、割と危ない状態なんだ、精神的に」


 サラサの両肩に両足を掛け背後を守る形になっている梟型が彼女の頭をそっと嘴でかき混ぜた。


「さっきまであの部屋で喋ってたのは“代理人”だ。わっしは三人目な。どっちもサラサの一部だからサラサであってもサラサじゃねー」


 この言に周囲に困惑が漂う。


「“多重人格”とか“解離性同一障害”とか聞いた事ねーか? サラサはそれなんだよ」


「……悪魔憑きの事か?」


 年長者が後ろを振り向かずに反応した。確認の声だろう。


「たぶん、それだ。()()()()は精神的に壊()()た奴だ。原因は、物理的なモンから精神的な問題まで、色々あるらしいけどな。ま、簡単に言えば被害者だな。主人格である元の人格を守る為に別の人格が生まれるんだよ」


「……それは、悪魔とは違うのか?」


「わっしみたいな攻撃色の強い奴はそう言われるかもな。でも攻撃的なのは、根底に怯えがあるからだ。主人格たるサラサがまた傷付けられるんじゃないか、ってな。だからこれ以上壊されないよう、排除に動く。今は精霊の森の一件があるから大人しくしてるけどな、わっし個人はお前等なんかどうでもいい」


「それは、謀反という意味か?」


「謀反とかもどうでもいい。ハッキリ言って、わっしと代理人が一番大事で守りたいのは主人格のサラサだ。でもサラサと同じくらい大切な奴等は居る。精霊達だ。ある意味恩人だし、師匠でもある。だから、梟のの求めに応じて、一番耐久性の強いわっしが出て来た。封じられていたからシャバはマジ久々だ」


「“封じられて”との言葉に不穏な物を感じるのだが……」


「大した意味は無い(ねー)。悪魔憑きとか呼ばれる程の力もねーよ。でも万が一暴れてサラサの身体を傷付けたら大変だ。ついでにわっしは社会に溶け込めねー。忖度とか糞食らえだ」


 全くもって口が悪い。間違っても令嬢とは言えぬ下品な物言いだ。


「一応宣言しとくけど、三人の中でわっしが一番精霊との相性が良いんだぜ」


「嘘だ!?」


『三人目は一番正直で嘘が無いからな』


 梟型の精霊の注釈に、一堂納得してしまった。


「話戻すな。わっしと代理人はほぼ同時に生まれたんだ。暫くの間は、いつ消えてもおかしくない種だったんだよ。母の死後、随分虐められてな。でも姉が守ってくれてる間はサラサはサラサのまんまだった。そういや兄とかいう男は敵でもなかったけど、守ってもくれなかったな。少なくともサラサに届く形で何かしてくれた奴じゃねー」


「お前を、いや、サラサ嬢か? とにかく死にかけていたサラサ嬢を助けてくれたのが兄君だったのだろう?」


「良く代理人の話、覚えてんな、オッサン。でもよ、よっぽどの理由があるなり本人がイカれてんのでもなければ、死にかけてる人間、ましてや妹だぞ。助けようとすんだろ、普通は。

 ま、いいや。話戻すぞ。そんな感じでわっしと代理人はまだ独立した人格として確立はしてなかった。まだ、溶けて消える事だってできたんだよ」


 自分という意識が溶けて消える。それは恐怖ではないのだろうか。


「たぶん“怖いと感じないのか?”とか考えてるんだろうけど、とんだ見当違いだ馬ぁ鹿(バーカ)


 ずばり図星を射されたので、誰も彼も口を噤んだ。


「何度でも言うぞ。わっしも代理人もサラサの一部なんだよ。人間、色んな顔持ってんだろ。喜怒哀楽、公共の場での顔、仲間内での顔、仕事中の顔、一人きりの時の顔。好きな相手と居る時の顔と嫌いな奴を前にした時の顔。成功した時、失敗した時、他にもそれぞれあるだろうが。わっしも代理人もサラサの感情の可能性の一部が極端に突出して勝手に育っちまったサラサの一部なんだよ。そもそもの話、さっきの説明はわっしと代理人がそれぞれ確立する前の話だからな。

 おっと脱線しかけたな。さっきの部屋で代理人が少し話したけど、サラサは前回の死を持ち越しちまった。心身も尊厳も面白半分でグチャグチャに砕かれて殺された。本当なら死後に綺麗に落とされる記憶や過去が一部残ったままになっちまった。魂にまで傷が深く刻まれちまったんだよ。だから神々の保護下に置かれた。生まれる場所も、魂が癒えるように選んでくだされた。なのに……寸前であのクズ共が乗っ取りやがった。命が産み落とされるってのは、人間が考えているより大変な事らしい。だから…変更が効かなかった。良くも悪くも母だけは予定通りの場所に居たから、あの乗っ取られた家に生まれる事になったんだ。結果サラサは本来父親になるはずだった伯父には懐き、製造元を嫌い怯えた。たぶんそれが母の不貞を疑う要因になったんだろうな。あんだけガッツリ囲い込んで、どうやって浮気できんだって状態でも疑ったんだろうよ。アイツ等クズだから。で、たぶん、殺された。サラサへの虐めは虐待に発展して、それでもまだ姉が守ってくれてた。でもお嫁に出されて……。一応兄の事は可愛かったんだろうな。万が一にも兄に瑕疵が付かないように、疑いが掛からないように、長期予定で姉の結婚式を理由に留守にした。で、その間にせっせと拷問が繰り広げられた訳だ。誰も助けてなんかくれなかったよ。前回と同じように。使用人達とか、気付いてたはずなんだぜ。その結果、サラサはボロボロんなって壊れた。ま、確かに助けを呼ばなかったサラサも悪いのかもしれねーけど、拷問に発展する前は、毎日かなりの時間、悲鳴挙げてたんだぜ。拷問に切り替わる頃にはもう喉も潰れて声出なかったけど、潰れるまで悲鳴しか出なかったんだよ。その時点で、もう見捨てられてたんだよ。だからだろうな。サラサの最後の思いは、痛い、怖い、苦しい、何で? もう嫌だ。延々それの繰り返し。でも、一言もサラサは“助けて”と願わず、廃人になって沈んじまったんだよ」


 思っていた以上に重い話に、男達は沈み込んだ。


「で、こりゃヤベーってなったんだろうな。そこんとこはわっしも分かんねーけどよ、なんか気付いたら代理人とわっしが浮かび上がってた」


 まさか、この話はまだ続くのか……?


「でだ、いっぺんに出ちまったもんだから、代理人と揉めてよ、(いて)ってなって、知らない内に怪我してたんだよな。つまり、サラサの体に新たな傷をこさえちまった訳だ。あ、ここで訂正と申告な」


 物騒だったり悲しいお報せはやめていただきたいものだが、楽しいものではないのだろう。


「糞ババアに負わされた怪我な、腰から下だけじゃねーから。頭も酷かったから。頭蓋骨ヒビだらけとかマジふざけんな。肋骨とか折れて肺に刺さってたらしいから。刺さったまんまだったから奇跡的に助かったとか言われたけど、マジあり得ねーから。マジ、死にかけたから。本気の大真面目であの胸糞悪ーあのババア、殺してー……」


「……罪に問われるのはサラサ嬢だぞ」


「分かってんよ。だから諸々含めてサラサを傷付けないように代理人が表に出っぱなしだったんだよ。あいつが一番社会性あったし。そんでも人嫌いで引き籠りだったけど。その裏でわっしはずっと、ずうっとサラサに付き添ってたんだよ。サラサ、心の底で本当にボロボロで血塗れで、死んだみたいに眠ってるから」


『すまなかったな。我等が当時から、もっと力になってやれれば良かったのだがな……』


「仕様がないですよ、梟の。サラサは生まれる前からもう壊れてた。そういう子は精霊達の存在に反応できないから……仕様がないよ」


 梟型の精霊が、また慰めるようにサラサ嬢の髪の毛を嘴でかき混ぜたのだった。









“つかい魔”の“つかい”って、「使い」なのか「遣い」なのか???

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ