閑話 母は心配症
「…………」
「どうした。難しい顔をして」
「あなた。少しあの子の事を考えていました」
アレックスとリリアの母、アーシェはアレックスの事を屋敷の中から見ていた。
アレックスは今日も中庭で魔力量を上げる訓練を行っている。
その様子を見守るのはメイド長だ。
そんなアレックスを心配しながら夫であるバシレウスに語り掛ける。
「アレックスが何かしたか」
「いえ、毎日真面目に魔力量を上げる訓練を重ねています。それは悪い事ではないのですが……」
「が、何かね」
「……何と言いますか、何故か不安が大きいのです。何か人間の手には負えない存在を召喚してしまうのではないかと」
「そういう意味ではすでにあの子は才能を開花しているのかもしれない。小型とはいえドラゴンを召喚している以上召喚士としての才能は神の言う通り最上級の物なのかもしれない」
「……正直に申し上げますと、あの子が召喚士でよかったと思っている部分もあるのです。力のある魔法使いになった場合、ほとんどの者が軍に所属して戦争に駆り出される事が多くありますから。でも召喚士ならそういう事に巻き込まれないだろうと、安心していたのですが……」
「そういった事に関係なく国に招集される可能性がある、か。確かにその可能性は捨てきれないが、考えすぎではないか?」
「近々戦争があるという話は聞きませんが、それでも力の誇示はどの国も重要です。もし仮にドラゴンを召喚し、使役する事が出来る存在がいると他国に聞かれればどのように感じますか?」
「それは……大々的に宣伝するだろうな。そうすれば敵国は警戒して戦争をしようとは考えないだろう」
「そういった事にアレックスが使われないか心配なのです。そして魔力量が上がれば召喚できる魔物も増えていく。そうなればいずれ……」
「少し考えすぎだ。お前が母として子を心配するのは最もだろう。しかし召喚魔法はそう簡単ではない事はお前がよく知っているだろう。誰よりも魔法を研究し、人々の生活に役立つ物を生み出したお前がもっと分かっているんじゃないか」
「そうですが……あの子はそれすらも軽く超えてしまう気がします。何より召喚に使っているあの神からいただいた本。あれがそういった常識をあっという間に超えてしまいそうな気がするのです」
心配しながら言うアーシェにバシレウスがアレックスに視線を向ける。
だがバシレウスの目には魔法に憧れている子供にしか見えない。
神から召喚士として魔導書をもらった者として真っ当な反応を見せているようにしか見えない。
「そう……なのか?魔法の事はあまりよく分からない」
「それにあの子が召喚士として才能を持っているのは魔法使いとして見れば一目瞭然ですから」
「そうなのか?」
「あの子が召喚したドラゴン。この屋敷に来てどれくらいの時間が経ったか覚えていますか?」
「今日で大体……10日になるか。それがどうした?」
「あの子は10日間ずっとあのドラゴンを召喚し続けているのです」
「な、なんだと!?確かそれはかなり難しい事だったのではないか??」
「ええ、非常に難しい技術です。私達普通の魔法使いにとっては常に魔法を使っているのと同意義です。それはただ強力な魔法を一発使うよりも難しい。寝ている間も魔法を使い続けているのです」
魔法は意識している間しか使えない。
これは魔法使いの常識であり弱点である。
どれだけ強力な魔法使いであっても意識がしっかりとしなければ詠唱を唱える事は出来ないし、魔導書を使って魔法を使う事も出来ない。
あらゆる魔法使いがその弱点を克服しようと自動で発動できる魔法を開発しようとして失敗し続けた。
それをアレックスと言う子供が才能だけで常に召喚した魔物を維持し続けている。
これは魔法使い達にとって革命であり、敗北だ。
生まれてたった数年の子供が魔法使いの歴史を大きく変える事をしている。
これが世にバレればどうなるか分からない。
「それがお前が懸念している事か」
「はい。この領地だって全く争いがない訳ではありません。ですがそれは魔物との戦いであり人同士の戦いではありません。せめてあの子には人同士の戦いには巻き込まれて欲しくないと考えています」
「分かった。私もその事は考えておく。そして他の貴族達の目に留まらないように気を付けておこう」
「ありがとうございます。現状社交界ではあの子が召喚士として生まれた事しか知られておりません。仲の良い者達は同情を、敵対している者達からは見下されていますがその方が都合がいいでしょう。あの子の秘密は出来るだけ外に漏らさないようお願いします」
「ならメイド長や執事長達にも伝えるよう言っておく。アレックスの召喚については口外しないようにと」
「あの子には私の方から言っておきます。表向きは……馬鹿にされる可能性が高いからっと言っておくのが良いでしょうか」
「今はそれでいいだろう。だが時期を見てアレックスがしている事がどれだけ非常識なのかは伝えておくべきだ」
「その時は私の方から伝えます。よろしくお願いします」
「ああ。これは親として、そしてこの領地を守るためにも必要な事だ」




