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最悪の事態はならなかった

 キメラ騒動から1週間後、俺は家出をした罰として屋敷で大人しくしているよう言われていた。

 ある程度スピリット達のBPがこの世界にとってどれだけの脅威なのか大まかにだが予想できた。

 一応の基準は出来たので最近は勉強したりして大人しくしていた。

 もちろんスピリット達とキメラが戦っていた事に関しては黙っている。

 母親の心配は尋常ではなく、しばらく俺のそばから離れようとしなかった。

 それでも1週間経てば落ち着いたのか今は普段通りにふるまっている。


「アレックス様、旦那様がお呼びです」


 執事長に呼ばれて俺は父親の書斎に向かった。


「失礼します」


 書斎の父親は何かの資料を見ていてこちらを見ない。

 呼び出しておいてなんだと思いながら部屋を出ようとした瞬間に父親から声がかけられる。


「キメラを倒したようだな。ほぼ無傷で」


 どうやら父親が見ている資料は例のキメラに関しての様だ。


「何か進展がありましたか」

「お前が気にしていたネズミのキメラ、お前が想定していた最悪の事態には利用されていなかったようだが。あのネズミには1つ後付けされた機能があった」

「その機能は」

「念話だ。より正確に言うとあのネズミが見たものをそのままどこかに投影する仕組みになっているのではないかと予想されている。お前の予想通りあのネズミを使って情報収集をしようと画策していたようだ」

「キメラ研究をしていた者の屋敷から何か見つかりましたか」

「奴の研究室からはキメラに関する資料が発見された。どうやら帝国に雇われた研究者らしい」


 帝国……この国よりも大きな力を持っている軍事大国。

 話によれば神様からの贈り物をより重視しており、戦闘に関する贈り物をもらった時点から軍の訓練を受けさせられると聞く。

 剣をもらえば剣士に、魔導書をもらえば魔法使いに。強制的に入団される。

 そこに自由意思はなく贈り物と関係のない職業にはなれないそうだ。

 更に贈り物をもらえなかった大半の者は奴隷同然の扱いを受けているらしく、亡命が後を絶えない。

 既に帝国はこれ以上国民が亡命するのを禁じるために全ての町に城壁という名の檻を用意しているとまで言われている。


「よくあんな危険な国の元で働こうと思いますね」

「あの国は実力至上主義だ。贈り物をもらっていたとしても安泰ではなくさらにその中から優秀な者を選択しそれ以外は雑用として叩き落される。だが上まで上り詰める事が出来ればどのような贅沢をしようが、どれだけの罪を犯そうが問題ないと言われている」

「まさに独裁と言った感じですね。現皇帝はその考えを変える気はなさそうですか」

「ないだろうな。徹底した選民意識が根付いているため奴隷が歯向かおうものならその前に使い潰すという考え方だろう。こちらにも選民意識の強い者はいるが、あれに比べるとまだマシだ」


 この国にだって贈り物をもらえたかどうかで人を判別する人が居る。

 中にはその宗教に入っている者だっている。

 間違いなく神からの贈り物なのは確かだが、それを宗教として定める事でさらに選民意識が強まっている。

 もしかしたらその教団帝国の手先じゃないか?

 まぁここまで来ていないのは帝国とこの国の間にいくつかの国が間に入っているからだ。

 ある程度距離があるが、あの国はいつ強引に突破してくるか分からない。


「それで、俺にどうしろと?」

「どうしろという訳ではない。ただお前が気にかけた事で帝国の動きの一部が分かったという事だけは伝えておこうと思っただけだ」

「そうですか。それじゃそのついでにもう1つ聞いてもよろしいですか?」

「なんだ」

「そのネズミ、他の地域で発見されてます?」


 これが重要だ。

 情報収集専門のキメラチーム。

 その数を正確に特定しなければこの国の危機は避けられない。


「現在各領地で調査中だ。だがネズミという小ささに加えて角も特別大きいという訳でもない。見つけられるかどうかは不明だ」

「そうですか。それじゃ帝国に良いようにされないよう気を付けましょう」


 そう言って書斎を出る俺に対して父親は何も言わなかった。

 全く……帝国も面倒な事をしてくれる。

 そういう悪の帝国みたいなのは正義感あふれる主人公様がいる所でやってくれ。

 俺は身近な連中が幸せに生きてればそれでいいんだよ。


 だがそういう連中にも対策をしておかないといけないのも事実なんだよな……

 いっその事どっかの国が帝国と戦争してぶっ倒してくれないだろうか?

 でも戦争が起きた時点で迷惑被るのはほぼ確実だろうしな……どっちにしても面倒臭いか。


「お兄様怒られた?」


 モンクーと一緒にリリアがそっとこちらの様子をうかがっていた。


「そんな事ないよ。勉強は終わったか?」

「うん!だからあそぼ!」


 不安そうな表情をしていたがすぐに明るい表情に変わった。


「何して遊ぶ?」

「えっとね……わがまま言ってもいい?」

「何だ?おままごととか?」

「えっとね、お兄様の贈り物を使って遊んでみたい……ダメ?」

「カードを?」


 少し、いやかなり意外だ。

 確かにリリアはたまにカードを見て楽しんでいるようだが、それはあくまでも色んなイラスト楽しんでいるだけでゲーム性そのものに興味を持つとは思わなかった。

 それにこの世界にカードゲームはトランプしかない。

 それにトランプと言ってもババ抜きとかじゃくてポーカーとかそういう賭けっぽい遊びがメイン。だから大人の遊びという感じで子供がカードで遊ぶ事は滅多にない。


「やっぱりダメ?」

「ダメって事はないが……本当に意外でな。何でカードで遊びたいって思ったんだ?」

「お兄様いつもカードとにらめっこしてたからそんなに面白いのかな~?って思ったから」

「ああなるほど。でも覚えることいっぱいあるから大変かもよ」

「それでもやってみたい!」

「そうか。それじゃデッキを組むところから教えてやるか」


 なんか意外な形だがプレイヤーが増えるのは悪い事じゃない。

 どうせ俺1人しか持っていないのだから、こうして家族で遊ぶ程度にはちょうどいいのかもしれない。


「お兄様。デッキって何?」


 リリアの純粋な疑問につい笑ってしまった。

 そうだな。本当に最初の最初から教えてあげないとな。

 一緒にカードで遊ぶのが楽しみだ。

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