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三の矢と箙の矢 小笠原方面増援方

 第3話 



 ◎三の矢と(えびら)の矢 


  小笠原兵団(硫黄島)増援


  硫黄島は、東京から南へ約1,200㎞、小笠原諸島

 の中心である父島からでも、南南西へ300㎞離れた

 絶海の孤島で、戦前は硫黄採掘とサトウキビ栽培が

 行われていたところ、その地理的重要性に着目した

 海軍が飛行場を建設し、陸軍も併せて飛行隊と守備

 隊を配置していた。


  1944年7月、日本はサイパン、グアム、テニアン

 といったマリアナ諸島を米軍に奪取され、米軍はこ

 れらの島々に日本本土空襲を行うB29爆撃機の基地

 を建設した。


  日本陸海軍は、硫黄島を中継飛行場としてこれら

 の米軍基地を散発的なゲリラ空襲をするなどしたこ

 とから、米軍にとってこの島は目障りな存在となっ

 ていた。

  逆に米軍は、硫黄島が、日本本土空襲に参加した

 B29爆撃機の中間着陸場として、また、B29を護衛

 する戦闘機の発着基地として適していることに注目

 し、攻略を進めることとしたのである。


  要するに、日米両軍共に、硫黄島の飛行場として

 の価値に注目したことになる。


  日本陸軍は、小笠原諸島防衛のため、大本営直属

 として小笠原兵団を編成し(兵団長栗林忠道中将、

 第109師団長兼務)、同師団の部隊を隷下に、第27航

 空戦隊以下の海軍部隊も指揮下に置いて、逐次増援

 部隊を派遣していた。


  しかし、米軍潜水艦による攻撃に加え、空母艦載

 機や果ては水上艦艇の攻撃を受けるようになり、ま

 とまった船団での行動が危険になったため、父島、

 硫黄島方面へは、小規模な船団による散発的な補給

 輸送を余儀なくされていた。



  硫黄島補給輸送隊


 1 先発船団

   第4海上護衛隊分派(父島二見湾に集結)

 (1)※丙型海防艦 第83号 

 (2)第百一型二等輸送艦 第九十九号


 2 乗艦部隊等

 (1)三式中戦車      ×3輌

 (2)九七式中戦車(旧砲塔)×3輌

 (3)九五式軽戦車     ×3輌 

 (4)九七式自動貨車    ×2輌→車輛兵30人


   輸送艦は、ほぼ戦車3個小隊と自動貨車トラック及び

  各艦艇に分乗した歩兵1個小隊を硫黄島で陸揚げし、

  入れ替わりに傷病兵を引き取り本土へ連れ帰る予定で

  あった。


 3 後発船団

   第4海上護衛隊分派(父島向け航行中)

 (1)第28号型駆潜艇 第59号

 (2)聯合艦隊直轄 間宮型給糧艦 浦賀

   (九四式水上偵察機、零式水上観測機各1機搬送)


   間宮型給糧艦は、ネームシップの「間宮」をはじめ、

  海軍将兵の超人気艦で、万一、喪失することがあれば、

  全軍の士気に関わると言われていた。


   本艦型は、1万8千人の3週間分の食糧補給が可能

  であり、様々な専門の職人が乗り組んでいて、アイス

  クリーム、ラムネ、最中、饅頭、羊羹などの嗜好品の

  ほか、蒟蒻(こんにゃく)、豆腐、油揚げ、麩など、日本の食卓に

  欠かせない食品の製造も可能であった。


   その製造能力は、1日当たり食パン1t、羊羹1万

  2千本、ラムネ1万5千本、饅頭4万個と凄まじく、

  しかも、アイスクリームは銀座のパーラーに負けず、

  羊羹は老舗の商品より上等で、贈答品に使用されると

  いうほどの品質を誇った。


   また、医療設備に乏しい小型艦の傷病兵を引き受け

  たり、その特性から、艦隊のパーティー会場として用

  いられることがあったほか、前線への水上偵察機の運

  搬も行った。


   ただ、石炭炊きのレシプロエンジンのため速度が遅

  く、単独航行することも多かったが、今回は、第4海

  上護衛隊から、専属の護衛として駆潜艇第59号が付け

  られていた。


 4 二見湾停泊 秋津洲(あきつしま)型水上機母艦「千早」

   水上機母艦のうち、飛行艇を支援する艦は、飛行艇

  母艦とも呼ばれ、遠距離に進出する飛行艇の修理や補

  給を行うため建造された。


   専用の艦は秋津洲がネームシップであるが、千早は

  その2番艦で、秋津洲同様、工作艦「明石」がパラオ

  空襲で喪われてから、簡易な工作艦兼魚雷艇・大型発

  動艇(通称「大発」。上陸用舟艇のことで、海軍正式

  名称は「特型運貨船」。)運搬艦としても活動するよ

  うになっていた。


   今回は、父島と母島に配備する魚雷艇2隻を横須賀

  から運搬して来たが、敵潜水艦の襲撃を兄島付近でや

  り過ごした後、損傷艦艇の修理と、横浜から飛来する

  二式大型飛行艇の補給と整備を行う腹積もりで、今は

  二見港沖の二見湾内に停泊し、魚雷艇を降ろしている

  最中であった。



 ◎(えびら)の矢


 ・艦上偵察機「彩雲」海中極秘輸送


  伊号第103潜水艦は、「改甲型」と呼ばれるタイプで、

 ゆくゆくは「特型」と呼ばれる伊号第400型と潜水隊を

 組織し、水上攻撃機「晴嵐」を搭載して、パナマ運河

 などの重要目標を攻撃する予定であった。


  しかし、伊号第400型がまだ揃わず、さらには搭載予

 定の「晴嵐」も試験段階であり、今回は特別に高速の

 艦上偵察機「彩雲」2機とその搭乗員、整備員(第131

 海軍航空隊)を、トラック島以遠の偵察を実施するた

 め、同島へ隠密輸送する任務を帯び、父島東方付近を

 航行中であった。



 ・北方飛行陸海軍機


  令川丸以下の、千島方面根拠地隊北東方面艦隊が航

 行中の千島列島上空を、7機の陸海軍機が飛行せんと

 していた。


  元々は、バラバラの出発地から、幌筵島か占守島へ

 向かうはずであったが、道東から千島列島方面へかけ

 ての天候が不良で、いったん帯広の陸軍飛行場で着陸

 待機となったため、航法(ナビゲーション)に優れる海軍の一式陸上攻

 撃機が全機を誘導することとなった。


  これらの機種や目的は、次のような内容であった。

 (1)第701海軍航空隊 一式陸上攻撃機×1機

    三沢飛行場から幌筵島海軍基地への要務飛行中。

 (2)陸軍飛行第53戦隊 二式複座戦闘機屠龍×2機

    千葉県松戸にて帝都防空の任に当たっている

   陸軍飛行第53戦隊の屠龍2機は、千島列島北辺の

   占守島防備強化目的で移動中。

 (3)陸軍飛行第54戦隊 隼Ⅱ型× 2機

  北海道帯広の同54戦隊所属の一式戦闘機隼Ⅱ型

   2機も、千島北辺の占守防備強化名目で移動予定。

 (4)陸軍飛行第62戦隊 四式重爆撃機飛龍× 1機

    帯広の重爆隊所属機として、54戦隊の隼に同行。 

 (5)陸軍飛行第38独立中隊

    百式司令部偵察機Ⅲ型甲×1機

    連絡飛行のため、札幌から占守島を目指す途上。


  

 ・二式大型飛行艇連絡飛行


  小笠原兵団には、市丸少将指揮の海軍第27航空戦隊

 も、指揮下に入っていた。

  横浜市磯子の第801海軍航空隊所属の二式大型飛行艇

 は、長距離哨戒のほか、島嶼(とうしょ)間や南方要所との連絡任務

 にも当たっており、この日も1機が父島への要務飛行の

 ため飛来し、間もなく父島の二見湾へ到着する頃合いで

 あった。



  これら3本の矢と、箙の中の矢が、異世界に放たれる

 こととなる。



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