三章 第十八話 情報共有
3月3日 投稿
「そういえばご近所さんとか気づかなかったのかな?私の暴走となあの男の人のこと。」
「魔法の件は安全のために人気のない場所でしただろ?だからクララは事故死だって皆認識してる。目撃者がいないからな。男の方も同様だ。見た人がいない」
和解したエーデル達はその後も会話した。世間話も行ったが、やはり気になる話題はクララの死亡した時の様子である。
それに仮に本当にその男がエーデルの魔法を暴走させたとすれば、その男はエーデルにとって姉を殺した仇でもある。
エーデルはギュッと手を握った。自分が魔法を発動しなければ良かった。それが一番の原因
けれどこの男は…面識もない自分達家族を滅茶苦茶にしたのだ。許せる訳がない。
「お父さん、お母さん、私絶対その男の人見つけて真実を問いただしてみせる。」
すると両親が目を見開いた。
「待って!幾ら何でも危険よ!貴方魔法が使えなくなってるのに…」
母が心配の声を上げる。
「元はと行けば、私が魔法なんて使わなきゃ良かった…。これは罪滅ぼしでもあるの。それにどっちみち、私魔法を復活させるためにその男の人を探す予定だったもの。」
エーデルは淡々と述べる。その目には決意が宿っていた。
「…けど…一人じゃ…」
「一人じゃないよ。仲間がいるから。」
シュリ、ベル、ハチ、マギリカ、そしてヴラム。心強い味方がいるのだ。怖くなどない。
「そう…良かった。素敵な人達と巡り会えたのね?…あのね?もしまたあのケットシーの人と会ったら宜しく言っておいて?
結構耳に痛かったから。」
そう母が苦笑を漏らした。だがすぐに別の話をしだした。
「素敵な人達と巡り会えたのは良いとして…。良い人とかいないの?貴方の花嫁姿、早く見たいんだけど…」
その言葉を聞き、父はブホッと飲んでいたコーヒーを吹き出した。エーデルは顔を真っ赤に染めてモジモジしている。
花嫁…エーデルの頭の中ではドレス姿の自分を父がエスコートする。そしてその先には、長い黒髪がよく映える白いタキシードの後ろ姿。
そのタキシードの人物が振り返ると、それはエーデルの恋焦がれる吸血鬼の彼。
"エーデル?綺麗だな…。愛してる…"
なんて甘く囁く彼。
「きゃああ!私ったら何妄想してるのよ!でも…でもそうなったら嬉しいけど!」
顔を赤くし、ニヤけながら身悶えるエーデル。その様子を見て、
「あらぁ♡いるのね?良い人。」
「良い人っていうかぁ…。私が一方的に好きなだけで…」
「良いじゃない!いい?エーデル、恋は戦争よ!諦めたらそこで終わりなんだから!」
ちなみに同時刻、ヴラムがくしゃみをしていたりする。
父は顔を青くしている。
「え…エーデルに好きな人。花嫁姿…」
うっうと泣き始める父。それを若干鬱陶しそうに見つめる母。母は気づいていた。アルスに二人の青年が牽制されていた時、エーデルは、鬼人ではなく、耳の尖ったエルフのような青年の方を赤くなりながら見つめていた。
エルフにしても吸血鬼にしても寿命が違いすぎる。きっと苦しい恋になる。けれど今の娘を見ていると応援したくなる。
せめて自分が娘の一番の味方でいられるように…今まで傷つけた分、沢山の愛情を与えよう。そう母は決意した。
「二人とも!元気でね!また来るから。」
エーデルは仲間達と合流するために二人に別れを告げた。
「気をつけてね?」
「いつでも帰ってこいよ!」
両親はその細い背中をじっと寂しそうに見つめていた。
「お待たせ!皆!」
エーデルは仲間達と合流した。
「どうだったにゃん?ご両親とは上手くいったにゃん?」
「うん。ふふふ…なんか夢みたいだったよ。二人とまた仲良くなれるなんて…」
そう言って微笑むエーデルに満足そうに見つめるハチ。そして全員揃ったのを確認してヴラムは転移魔法を唱えた。一行は拠点へと戻ってきた。
「お父さんにあの男の人の情報聞いていてきたよ。」
エーデルは仲間達と情報共有を行った。
「勇者騎士団ですか…。と言う事は男の人は勇者なのでしょうか?」
「まぁ…その可能性が高いだろうな。」
勇者騎士団はその名の通り、勇者ばかりが在籍する騎士団だ。その可能性は高いだろう。
ベルの考えにシュリも同意した。
「ただ….今勇者騎士団で顔を見せないから当てにならないかも。サクラ大陸に行くしかないみたい。お父さんも手紙はサクラ大陸に当ててたみたいだし…」
「成程ね…次の目的地が決まったわね?男の人の名前は?分かったの?」
「名前は"スカー・クリムゾン"。ただ実名かまでは不明ですが…」
父からはスカーの名前も住所も聞いている。準備は出来ている。
「ここでウダウダ言ってても仕方あるまい。取り敢えずそのスカーとかいう男を探すぞ。」
そう言うヴラムに頷くメンバー。
旅の目的が決まった。後は向かうのみ!
一行は旅立つ明日に備えて、その夜はゆっくり休んだ。
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