三章 第十話 家族との再会
2月24日投稿
そして転移魔法にてマグノリア大陸に戻った一行は再び昨日の地点から歩みを進める。
マギリカはヴラムが用意してくれた朝食のサンドイッチをモグモグと食べながら歩いている。
「エーデルちゃんの村まであとどのくらいなのにゃ?」
「大丈夫だよ。もう少しで着く。」
ハチの質問にエーデルが答える。その面持ちは緊張の色に染まっていた。正直な所、両親に会いたくないという気持ちが強いのである。だが、この旅に他の五人を巻き込んでしまっている。そんな事は言っていられない。
エーデルは覚悟を決める。
数時間歩くと村の入り口が見えた。"ガーベラ村"。エーデルの住んでいた村である。
「…あそこが私の家です。」
エーデルが指をさした方向には白い屋根の、少し大きめな家が建っていた。エーデルはその家を久しぶりに見た瞬間に息苦しさを覚える。
「一人じゃない」
ポンとヴラムがエーデルの肩に手を置く。エーデルはヴラムのそんな声と手に少し安心したようだ。そして意を決して、呼び鈴を押す。
すると中からドタドタと足音が聞こえた。
「はーい!帰ってきたのね?アル…。はぁアルスじゃなくてなんで貴方なの?エーデル?」
中から出てきたのは中年の女性だ。あからさまにガッカリした様な顔をして、責める様な声色を浴びせてくる。
そんな女性の様子にベルはビクッと震え、他の面々は眉間に皺を寄せている。肝心のエーデルは
「…ごめんなさい…。わ…私、お母さん達にどうしても聞きたい事があって…」
涙目で声を震わせながら母と思われる人物に要件を伝えている。すると母親はハァとため息を吐き出して、
「私はあんたに用なんかないわよ?落ちこぼれの家の恥晒し…。私が呼んだのは優秀なアルスだけよ。全くお兄ちゃんは優秀なのになんであんたは…」
そう言って兄と比較する発言をしながらエーデルを見下す母。エーデルは顔を下に向け肩を震わせていた。
あまりの様子に他のメンバーが口を挟もうとするがその中でもいち早く動いたのが、
「…あんた…にゃに様のつもりにゃ…」
「はぁ?」
「あんた!エーデルちゃんの母親だろにゃ!どうして自分の娘にそんにゃ酷い事言うのにゃ!」
ハチである。その顔は初めてヴラム達に会った際に見せたシャー顔だ。
「ハチ…」
「吾輩にも娘がいるにゃ!あんた達の家庭事情にゃんか知らにゃいにゃ!でも自分の子供にそんにゃ酷い事!吾輩には到底言えにゃいにゃ!」
「な…何よ!貴方には関係ないでしょ!この家は優秀な勇者が産まれた由緒正しい家なのよ!
そんな勇者の筈なのに魔法も使えない恥晒しなんてこの家に必要無いわよ!」
怒り心頭のハチに対してヒステリックに声を上げる母。またもやハチや他の面々の逆鱗に触れていた。
特にハチは何か他にも思うところがあるのか、まだまだ言い足りない様子でヒートアップしていく。
「エーデルちゃんは確かに魔法が使えにゃいにゃ!だけどとってもいい子にゃん!魔法が使えないなりに頑張って戦ってるにゃ!
にゃんでエーデルちゃんはこんにゃに良い子にゃのに母親はこんにゃにゃのにゃ?」
「こ….この…」
「何を怒ってるにゃ?あんたもお兄さんとエーデルちゃんを比べてたのにゃ。おにゃじ事しただけにゃん。」
するとプルプルと怒りに震えるエーデルの母。すると後ろからパチパチと拍手の音が聞こえた。振り返ると金髪に青い目をした、何処となくエーデルに似た雰囲気を持つ青年が立っていた。
「凄いねぇ。そこのケットシーさん!母さんがごめんね?他の皆さんも。」
と優しげな声をかける青年にポカーンとする一同。するとエーデルがその青年を見て、
「お兄ちゃん!」
目をキラキラさせている。すると青年の方もエーデルを見つけると破顔し
「エーデルー♡!会いたかったよー♡」
すると青年はギューっとエーデルを抱きしめた。しかしヴラムとシュリを見つけると少し警戒心を出し始める。
「き….君たち?妹とはどんな関係だ?妹は嫁にやらんぞ!」
「ちょ!お兄ちゃん!?」
どうやら二人をエーデルを狙っている狼と勘違いしたらしい。エーデルは顔を真っ赤にし始めた。
「俺達はそいつと旅をしていただけだ。それに他にも女子供も一緒に旅しているぞ。」
そうヴラムが答える。マギリカとベルもいる事からちゃんと女性同行者もいる事を確認し、安心したようだ。青年はすぐに誤解と察して謝罪する。
そして青年はその流れで自己紹介も行い、すぐにメンバーに馴染んだ。が…
「アルス!お帰りなさい!待ってたわよ。ほら上がって上がって!お父さんも待ってるわよ?」
母がアルスに笑顔で話しかけてくる。しかしアルスは怪訝な表情を見せ始め、
「だったらエーデルとこっちお客さんも中に入れろよ。じゃなかったら俺は家に入らないから。」
「ダメよ!そんな恥晒しな娘と失礼な客を入れる気なんかないわ!」
と発言する母にアルスはため息を吐く。
「はぁ…所でエーデルの用事って何かな?それって俺でも大丈夫な奴?」
「うん!」
「OK。じゃあエーデル、皆さん!取り敢えず村の食堂にでも行きましょう?俺が話を聞きますから。」
そう申し出るアルスに一同はすぐに肯定の意思を表した。
「な…アルス!」
「用事が済んだら顔出すから…」
そう言って一行とアルスは食堂へと向かった。母親は悔しそうな顔をしていた。
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