第四話 最強の吸血鬼
現代に戻りますよ
昔の事を思い出しながら、エーデルは思う。力のない自分がなぜ勇者として生まれたのかと、
「あの...ヴラムさん?私...」
「あっれー?だれかと思えば落ちこぼれのエーデルちゃんじゃねーの?」
そう言って声を掛けて来た二人組の男はニヤニヤと馬鹿にするかのようにエーデルを見ていた。
「もしかして勇者諦めて、男漁りでもしてんの?うっわしかも結構いい男じゃん?魔力はダメだけどそっちの方は才能あるってか?」
「なぁなぁ俺らも相手してくれよぉ」
男たちはエーデルを舐め回すかのように見つめながら下卑た笑みを浮かべている。
「うざい!!あんたらに関係ないでしょ?!」
そういって怒声を上げるエーデルに対して余裕の表情を浮かべる男たち
「少し宜しいか?」
ヴラムは微笑みを浮かべながら、会話に割り込んでいった。
男たちは少し不機嫌そうな顔になり
「んだよ?あんたは十分楽しんだろ?さっさと「先程からうるさいぞ?なんだ?意味もなく臭い息を吐くな。周りの空気が汚染されるだろ?会話も気持ち悪いし気持ち悪い笑みは浮かべてるし、なんだ君たちは「気持ち悪い」と言う言葉の妖精かな?さっさと自分の家に帰りたまえ」
「は?」「ブホッ!」
と優しげな微笑みを浮かべながら、マシンガンの如く罵倒を浴びせる美青年に男たちはポカーンとマヌケな顔を浮かべ、エーデルはつい吹き出し、笑いを堪えている。
「聞こえなかったかい?帰りたまえ?まぁ君たちみたいな低脳共が帰る場所など高が知れてるがな」
「てんめぇ!」
そういって男たちのうちの一人が魔法を発動させようとしていた。男たちもまた勇者なのである。
「おやおや?こわいねぇ?しかしここではなんだし少し場所を移そうか」
そう言ってヴラムは白い手袋をはめた細い指でパチンと鳴らす。すると...
「どこここ?」
エーデル達四人はいつの間にか広い草原に居た。一瞬にしての移動...恐らく転移魔法である。
「まっまさかこいつも勇者か?」
「さぁ?どうだろうね?所で君たち一つ私と勝負してくれないかな?」
クスクスと笑いながら男たちに問いかける。
「いいぜ?けど俺たちは強いぞ?あとから泣いても知らないからな」
「アハハ、面白い冗談だね?君たちも後々になってママぁとか言って、粗相して泣き喚いてのたうち回っても知らないよ?全力で他人のふりするからね?」
「しねーよ!?んな事!?」
そう言って、エーデルを除く3人は構え始めた。
エーデルは悩んでいた。そもそも自分が相談しようとしなければ見ず知らずの青年を巻き込む事もなかったのにと、そして話の展開が急すぎてついていけなくなってる事に。しかしそんな考えとは裏腹に3人の男たちのバトルは始まってしまった。
「行け!"ソード・レイン"」
「食らえ!"ロックブラスト"」
無数の刃と岩石が男たちの発動した魔法によって、ヴラムに向かっていく。
「!危ない!ヴラムさん!」
思わず叫ぶエーデル。しかしヴラムは余裕の表情を浮かべている
「風雅障壁」
するとヴラムの周りに風が発生した。そして風は降り注ぐ刃と岩石をスパスパと切り刻んでいく。
「は?」
男たちは思わずポカーンとし出す。するとヴラムは笑みを消し見下すかの表情に変わる。
「勇者とはどんなものか試したかったが質が悪いな。時間の無駄だな。しょうがない。」
するとギュルギュルと先程よりも早いスピードで風が流れ大きな竜巻となる。
「ひ!?」「なんだよあれ?!」「ヴラムさん?」
一同がその先程も強い魔力を感じ、体を震わせた。そして同時に思った男たちはとんでもない化け物を敵に回したと。
竜巻が消え、ヴラムは姿を現した。しかしその耳は先が尖っており、背中には大きな黒い蝙蝠の翼が生えている。
そして何よりもその瞳の色は"鮮血のような赤"だった。
この世界において種の王となるものには特徴がある。戦闘力がずば抜けて高い事。そしてその瞳は"濃い赤い目"を持つ事だ。
そして悟る。自分達が相手をしていたのは、"絶対的な王"にして、生物の頂点に君臨する存在だと言うことに。
「おっおい!ヴラムってまさか!」
「吸血鬼の頂点..."鮮血の大災害 ヴラム・ツェペシ"」
「ほぉ、俺はそれまでに有名になったのか...しかしその大災害とやらは気に入らんな」
フンと鼻を鳴らし男達を見下している。エーデルは混乱していた。先程まで優しく微笑んでいた青年は今は何処にもいない。その青年は今では途轍もない圧を感じさせ、冷たい顔をしているのだ。(え?同一人物?)
正体をしった男たちはいきなり土下座し始めた。
「すっすみませんでした!まっまさかヴラム様だとは思わずつい!」
「ほぉ?随分と良い心がけだな?土下座とは...」
「なっなら!許してくださるのですね!?」
「?いや?断る。"ブラッド・レイン"」
「ぎゃあああああ!」
血のような液体が固まり雨のように男たちの周りに降り注ぐ。頬を掠めて切れたりもした。それを見て愉快そうに笑う吸血鬼。
「なにこの地獄絵図?」
エーデルはボソリと呟いた。
「土下座するならしっかり額を地面につけろ?そして少なくとも10分以上はその体制でデカい声で謝罪を口にすれば許してやらんでもない」
クスクスと嘲笑を浮かべながらそう言い放つ。
(せっ性格クソだ!騙された...)エーデルの芽生え始めた恋心はガラガラと崩れ去っていった。
その後は10分を待つのに飽きたヴラムは男達を放置し、エーデルと共に街に戻ったのだった。
・王
殆どの種族にいる。種の頂点に君臨する存在。瞳が赤という統一性があり、強大な戦闘力を有する。瞳が赤なのは、体に保有する魔力量が多ければ多いほど、体に影響を及ぼす為。そして一番影響を受けやすいのは瞳である。
・吸血鬼
個体数が少ない。耳が尖っており、見た目だけはエルフに近い。そのため耳を隠すのが苦手な者はエルフのフリをする時がある。血を吸血する事で魔力を拡張させる。一方で固形物を食べるのは苦手であり、少し食べると満腹になる。寿命は他種族に比べトップクラスに長い。
・鬼人族
東の国に多く生息する。頭や額に角が生えていて、角を折られるのは最大の屈辱としている。魔力を持つ者は少なく、怪力と優れた運動神経を武器にしている。何故か全員酒豪である。力が強いため奴隷商にはエルフに次いで狙われやすい。