第三話 エーデルの過去
過去編
今から十年前 当時エーデルは7歳であった。彼女には兄が居る。兄もまた彼女と同じ勇者だ。名前は「アルス」背中にはアルストロメリアの紋様が浮かんでいた。
アルスはその頃15歳、エーデルとは歳が離れていた。そして歳だけではない。魔力の差だってそうだった。兄は天才だった。
「お兄ちゃん!お帰りなさい!」
「ただいまエーデル」
そう言ってエーデルを優しく抱き上げて笑顔を見せる兄。エーデルは兄が大好きだった。
「エーデルにプレゼントだぞ。」
そういって兄はエーデルの髪に花の形の髪飾りをつけてくれた。
「可愛い!ありがとうお兄ちゃん」
エーデルがそういうと兄はニコニコと頷いていた。エーデルは子供心ながら兄になにか返したいと思うようになった。
そして…
「えっと...ここかなぁ」
エーデルは「水晶の洞窟」にやって来た。子供達の間で話題になってる噂、この洞窟にはお宝が眠っているという。
「ここでお宝見つけてぇお兄ちゃんにプレゼントしたいなぁ。ふふふ喜んでくれるかなぁ♩」
そう言ってエーデルは洞窟に入っていった。
「わわ、すごーい」
洞窟内にはその名の通り、水晶が彼方此方に埋まっている。自然の魔力を吸い取った水晶はキラキラと輝きを放っていて、思ったよりも明るかった。エーデルはワクワクしながら、洞窟内を進む。しかし...
「えっと、えっとあれ?」
進んでいく内に行き止まりになった。来た道を戻るが、同じ場所をぐるぐる回ってるように感じる。
一人ぼっち、しかも狭い洞窟内で幼いエーデルは不安に押しつぶされかけていた。
「もうやだぁお家帰るぅ...」
グスグスと泣き始めるエーデル。すると、ドスンドスンという地響きが起こったのだ。
地響きは徐々に強くなり、ぴたりと止まる。エーデルは周囲を見渡し、驚愕した。
「ひ...!」
そこには紫色に輝くゴーレムが居た。この洞窟内には主がいた。今までエーデルがモンスターに遭遇しなかったのはその主が排除していったからに過ぎない。そしてゴーレムが配置されていることから余計にお宝の噂を助長させたのである。
「やっやだ...来ないで...」
プルプルと震えるエーデルは腰を抜かして上手く動けない。逃げられない。ゴーレムは不埒な侵入者を排除しようとその腕を振り下ろそうとする。
「エーーーデルーーー!!」
「!!」
そこには兄が居た。助けに来てくれたのだ。エーデルは遂に安心感ゆえに涙をぽろぽろと流し、兄を見つめる。
するとゴーレムは大声を出した兄の方へ向かう。
「雷鳴大蛇!」
すると白く光る電撃が空間をまるで蛇のように駆け巡りゴーレムへと向かって行った。
ゴーレムに電撃が走り、動きを止めた。その隙に兄はエーデルを抱え上げ、洞窟内を脱出しようと試みる。
するとワラワラと洞窟の奥からゴーレムが湧き出してきた。その様子をみたエーデルは恐怖で更に泣き出していた。
兄は夢中で走り、時には魔法でゴーレムを足止めし洞窟から妹と共に生還を果たした。
「なんであんな場所に入った!?あそこは入るなと言われて来ただろ!」
「ごっごめんなさい」
いつも優しい兄からの怒声にビクッと肩を揺らし涙目で謝るエーデル。すると声を聞きつけた親が部屋に入ってきた。
「あら...やだエーデルってばまた、お兄ちゃんを困らせたの?本当にダメな子ね。あんたは」
「全くだ。ハァ勇者のくせにまともに魔法が使えない出来損ないなんだから、せめて迷惑を掛けないでほしいんだがな」
両親の厳しい、それでいて日常茶飯事の罵倒を浴びて、体を硬直させるエーデル。そんなエーデルを守ってくれていたのが兄なのだ。兄にまで嫌われたらどうしよう。そんな不安がエーデルにのしかかっていた。
「父さんと母さんは黙っててくれ!」
そういってまだ何か言いたげな両親を兄は無理やり部屋から出し、エーデルに向き直った。そして優しく抱きしめた。
「お前が無事で..本当に良かった。」
兄はいつだってそう、優しくて強くて、正に物語の英雄のような兄なのだ。そんな兄がエーデルの憧れであった。
勇者を目指したのも兄への憧れだった。そして兄に並んでも恥ずかしくない勇者になりたいと願うようになった。
・ゴーレム
大昔の人々が宝物庫や神殿を守るために作り出した。人工的に生み出された魔物。動力は魔力。しかしなかなか活動停止せず今でも活動するゴーレムが多数いる。
そのため学者たちはギルドに依頼し勇者や冒険者に、遺跡や宝物庫の調査を依頼するのが定番