エピローグ
華々しい活躍を褒めたたえられている王太子が光であるなら、第二王子であるテネシーはまさに影。
舞踏会が行われている広間の端で、テネシーはアイリーンと二人、大人しくしている。王族の恥とされ、公務の場に現れる機会がめっきり減った二人は、王太子の帰還に合わせ、婚儀を挙げることになっていた。
婚儀を挙げた後、テネシーは伯爵位を賜り、王室から離れることになっている。通常は公爵位を賜るのが慣例だったので、テネシーがどれだけ今の王室で煙たい存在にされているかが明白だった。
「それでは最初のダンスは……今日の主役であり、英雄のシルヴェスター王太子と、ストラスバーグ公爵家のキャサリン令嬢にお願いしよう」
国王陛下のこの言葉に会場はざわめく。
キャサリンが来ているの?と、皆、驚いている。
ダイエットに成功した私がキャサリンだと、誰も分かっていない。
思わずクスッと笑みが漏れる。
ここは堂々と足を踏み出し、シルヴェスター王太子の方へ向かう。王太子は私に気づき、自身もこちらへと歩み寄る。
恭しく私の手を取ると、優雅に微笑んだ。
「ではキャサリン公爵令嬢、わたしと最初のダンスをお願いできますか?」
力強い男前な声をしている。
「はい。お願いいたします。シルヴェスター王太子殿下」
こうしてダンスが始まると、シルヴェスター王太子は、気さくに私に話しかけた。
「キャサリン公爵令嬢、あなたには本当に驚かされた。二つのことに」
「まあ、それは何のことでしょうか」
「まずは見た目の変化だ。見違えたぞ」
シルヴェスター王太子がくるりと私を回転させる。
ダイエットしたおかげでダンスは、上品に踊ることができるようになった。
「いい機会でしたから。少し運動をしました」
「ふむ。でもあれぐらいのふくよかさが、わたしは好きだったがな。ふわふわと柔らかく、抱き心地がよさそうだった」
「おたわむれを」
私が微笑むと、シルヴェスター王太子は「わたしががっしりしているから、あれぐらいが丁度いいのだよ」と言葉を重ねる。まさかダイエット前の私を評価してくれる人がいたなんて!と少し驚くが、それよりも。
「でももう一つのあれは、殿下にとって、大きな意味がありましたよね?」
「そうだな。大司教のとんでもない性癖。財務大臣の不正。ドネリアン子爵の裏金……。総勢二十三名。よくもまあ、すべて暴いたものだ。どれから手をつけるか……。魔獣討伐の後は、腹黒人間の討伐に追われる」
シルヴェスター王太子は、口では大変だと言っている。だがその顔は、獲物を追い詰めたいと、うずうずしているように思えた。
大司教、財務大臣、ドネリアン子爵……総勢二十三名は、すべて第二王子であるテネシーの取り巻きだった人物だ。かつテネシーが、婚約破棄にまつわる裁判で、証人に立てた人々でもある。それはイコール、彼らの悪事を私がすべて把握した人物。そして彼らの秘密はすべてこのシルヴェスター王太子に、伝えていたのだ。
「シルヴェスター王太子殿下を忙しくしてしまい、申し訳なく思いますわ。でもこれで殿下が王位に就く時は、悪党は一掃され、この国はより導きやすい状態になっているかと」
「そうだな。……しかし、キャサリン公爵令嬢。そなたは怖くはないのか? わたしが動き、一人、二人と悪党が消えて行けば、やがて気づく。次は自分の番ではないかと。そしてこの悪事が正されることになった原因、それはそなたにあるのではないかと」
それは確かにそうだろう。でも準備期間は一年あった。ちゃんと万全の体制は敷いている。わざわざ砂漠の国の、凄腕暗殺者ギルドを丸ごと雇っているのだから。
「命を狙われる可能性は、想定済みです」
「なるほど。テネシーのことも、こっぴどくいなしたそなたのこと。ゆえに心配は不要かもしれぬが……」
そこでシルヴェスター王太子は、実に魅惑的な笑みを浮かべる。
「ベッドの中で一人では、心細かろう。どうだ。寝所の護衛は、わたしに任せてはみぬか?」
未来の国王陛下は、何とも甘美な提案を、私にするのだった。
~ fin. ~
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