1:残念悪役令嬢
残念悪役令嬢。
私が転生したのは、定番悪役令嬢ではない。悪役令嬢と言えば、美女でスタイル抜群、でも性格が悪くてヒロインをいじめ、最後は断罪される。これが定番中の定番。
でも私、キャサリンは違う。
キャサリンは見た目に関して、前世の私と変わらない。
髪はバターブロンドで艶はある。瞳は綺麗な桜色。胸も大きい。でもそれはぽっちゃり系だからだ。
こうなっている理由は、キャサリンが公爵家の令嬢であり、両親が娘を溺愛したから。もう食べたければ好きなだけ食べてもいい。お菓子もジュースも食べ放題。その結果が、今、だ。
もう少し覚醒が早かったら、こうならないよう、ダイエットも頑張ったのに。
だが私が覚醒した時、キャサリンは既に完成形だった。
いい感じのぽっちゃりさんに成長し、父親は家名に物を言わせ、第二王子の婚約者の座も手に入れていた。あとはもう、悪役令嬢街道をまっしぐら状態だった。
悪役令嬢街道……。
この乙女ゲームのヒロインの攻略対象は四人いて、王太子、第二王子、騎士団の団長の息子、宰相の息子であるが、王族の婚約者であるキャサリンは、全員と関わりがある。一方のヒロインは、平民成金上がりで爵位を購入した男爵家の令嬢。宮殿の舞踏会で攻略対象と出会い、恋仲になっていくのだが、キャサリンはそれが納得いかない。
自分と正反対の美人なヒロイン。でも貴族としては三流。それなのに……。生意気だ。ということで悪役令嬢として動き出すのだ。
しかも今回、ヒロインであるアイリーンは、攻略対象として第二王子、つまりはテネシーを選んでしまった。
だがテネシーがモテるのは、分かり切ったこと。ヒロインもテネシーをちやほやする令嬢の一人として、キャサリンは目をつむる……ことはない。
なぜならヒロインは、他の令嬢とは違う。
何せヒロインだから。キャサリンの地位などお構いなしで、テネシーを攻略してかかる。これがキャサリンの逆鱗に触れ、彼女を悪役令嬢へと仕立てていく。
ゲームにおいてキャサリンは、ヒロインに対し、表立ったいじめはしない。筆頭公爵家の長女であるキャサリンは、金に物を言わせる。つまりヒロインをいじめるのは、キャサリンの手下である格下の令嬢。よってヒロインは、キャサリンの悪事の尻尾をなかなかつかめず苦労するわけだが……。
それでも最後は愛が勝つ。
つまりは金に物を言わせていたことがバレ、断頭台へ送られてしまうのだ。
覚醒後の私は、このゲームの流れが分かっていた。よって断罪回避に向け、準備を重ねた。ヒロインが選んだのがテネシーで良かったと思う。彼ほど断罪を回避しやすい攻略対象は、いないと思ったからだ。