エピローグ
「さて。次は殿下、そしてシシリー男爵令嬢。あなた方が罪を認める番ですよ。アデル公爵令嬢に対し、噴水突き飛ばし事件というでっちあげをしました。これだけではありませんよね?」
そう言った理事長は、なんと八つのでっちあげ事件を指摘した。
それはまさにその通りで、私の身に覚えないことばかりだった。私はそれこそ、ゲームの見えざる抑止力、シナリオの強制力で、やっていないこともやったことにされ、諦めるしかないと思っていた。でも理事長は……それを覆したのだ!
もう驚くしかない。
「では、お二人で謝罪をしてください。もうわたくしの持ち時間も少ないですから、手短にお願いできますか、殿下、シシリー男爵令嬢」
理事長に促された二人は、次々と謝罪の言葉を述べた。
それは同時にでっちあげを認めたことであり、二人の証人となったご子息ご令嬢達には、冷たい視線が向けられている。偽証したことが、バレたのだから。
さらに王族であるキップが、でっちあげなどをしていたことを知り、国王陛下はおかんむりだ。この場で何か言うことはない。だが父兄席に用意された玉座に座る陛下の手が、わなわなと震えていることには皆、気づいている。
きっとこの後、呼び出され、こっぴどく叱られるに違いない。
「それでは最後に。この学園で三年間学び、旅立つ皆様に、餞別の言葉を贈ります」
理事長は、卒業生の方に体を向け、背筋をピンと伸ばし、口を開いた。
「罠と言うのは、どこに張り巡らされているか、分かりません。学生として保護されていた期間が終わり、世間の荒波にもまれるということは、いつ何時罠にかけられるか分からない――ということです。そうなった時、助けてくれるような友を、作っておきましょう。そして誰かに助けられたら、自分も誰かを助ける――このことを心がけてみてください。わたくしからは以上です」
一斉に拍手が起き、理事長のスピーチは終った。
◇
波乱を含んだ卒業式も終わり、夜からの卒業舞踏会に向け、皆、一旦ホールを後にする。屋敷へ戻り、みんな、制服からドレスやテールコートへ着替えだ。
私は足早にホールを出ると、付き人の女性と共に前を歩く理事長に声をかけた。
「理事長、アデル・ファルスタックです。先程はありがとうございました!」
「まあ、アデル公爵令嬢。淑女はそんな風に走ってはいけませんよ」
「! 失礼しました!」
理事長はクスクスと笑い、「御礼はね、わたくしが先に言うべきだったのよ。猫ちゃんを助けてくれたのだから」そう言うと彼女は腕の中にいる、愛猫の頭を撫でる。
「まさかこの子が、理事長の飼い猫だとは思いませんでした」
「ふふ。これも何かの縁だったのでしょうね……なんてことはないのよ、アデル公爵令嬢」
「え……?」
「物事に偶然なんて、そうは起きないのよ。あなたもテンセイシャなのでしょう」
不意に言われた言葉に、固まってしまう。
今、テンセイシャ……転生者――と言わなかったかしら……?
「わたくしもね、七年前に。この世界に転生したの。『ラッキーヒロイン☆幸せプリズム』の悪役令嬢クローディア・ナッシュとして」
「……! そ、そうでした! 私、一作目もプレイしていたのに。すっかり忘れていました……!」
「ふふ。そういうものよ。だってゲームをプレイしている時は、ヒロインなんですもの。悪役令嬢なんて、ただの邪魔者でしょう」
そこからクローディアは、こんなことを話してくれた。
自身がこの世界に転生した時、断罪を回避しようとして、とても苦労したこと。私と同じように、でっちあげで追い込まれ、でもその時に助けてくれたのが、今は亡きナッシュ公爵だったことを。
「彼のおかげで、わたくしは修道院送りを免れ、そして結婚することもできたの。子供も生まれたわ。事故は……あれは偶然か必然か分からない。でも彼の父親がこの学園の理事をしていて、その役目は彼が引き継いでいた。そして今度はわたくしが理事長となったの。そうしたらね、目の前で、デジャヴと思える出来事が起きたの」
そこでクローディアは良く晴れた空を眺め、優しく降り注ぐ陽射しに目を細める。
「卒業式での断罪よ。その時はもう、隣国の第二王子に、悪役令嬢が冤罪なのに断罪されかけて……。大変だったわ。なんとか国外追放で収めたけど、危うく火あぶり! そこから理解したわ。ここは乙女ゲームの世界で、まだ物語は続いているのだろうって。『ラッキーヒロイン☆幸せプリズム』は、人気ゲームだったから、パート2が出た。そうなるとパート3が出るかもしれない。もし高位貴族や王族で婚約者がいる子が入学したら、見守ってあげないと――そう思うようになったのよ」
「でもクローディア様は断罪回避でき、ゲームの登場人物たちと関わらずに生きることもできるのに。どうして助けようと思ったのですか?」
するとクローディアは、私のおでこをツンと指で押した。
「あなたはカラスに襲われた子猫を見た時、どうして助けるのか、なんて考えたの? 無我夢中だったでしょう? 同じよ。わたくしも悪役令嬢だったのだから。その大変さが分かる。だから助けたい――というより、見守って、少しだけサポートするだけよ。結局、婚約破棄と衆人環視の中での断罪劇は、ゲームのシナリオ上、避けられないことですからね」
「なるほど……」
ゲームのシナリオに反する行動はとらず、悪役令嬢としての役割は果たし、ただ最悪だけは避けられるように、根回しをするということね。
「クローディア様」
「何かしら?」
「私、婚約者もいなくなり、卒業後は自称花嫁修業中の暇人です。……クローディア様に、協力させていただけないですか」
「まあ、それは頼もしいわね。丁度、理事のお仕事を補佐してくれる方が、欲しかったのよ」
婚約破棄された、見た目美人だが、性格はキツイとされる元悪役令嬢アデル。卒業後は、これまた垂涎ものの美貌とボディの元悪役令嬢の補佐に回ったが……。果たしてパート4は発売されたのか。新たなる悪役令嬢は誕生したのか。
アデルの物語は今、始まったばかりだ――。
~ fin. ~
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第五章は用意でき次第、公開します。
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元日0時に公開した中編新作
『悪役令嬢は徹底して悪女を演じる
~おーほっほっ!は卒業したい!~』
や
『完結●絶体絶命の崖っぷち悪役令嬢
~断罪している場合ですか!?~』
や
ジャンル別月間ランキング4位
『完結●悪役令嬢は我が道を行く
~婚約破棄と断罪回避は成功です~』
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