プロローグ
「アデル、諦めるんだな。そこにいる三人も、君が噴水にシシリーを突き飛ばすところを見ていたと言っている。その三人とは、男爵家のコーロ令息、伯爵家のフカフ令嬢、子爵家のホイ令息。みんな名門貴族であり、嘘をつくような一族ではない! それに庭師の男も警備員の騎士も、アデルがシシリーを突き飛ばすところを見たと証言した」
そこで私の婚約者、この国の第三王子のキップ・ジョージ・エンディコットは、制服の赤いタイを手で整え、自身の方へシシリー・ヘイゼル男爵令嬢を抱き寄せる。私と同じ、紺色のボレロにハイウエストのワンピースの制服を着たシシリー。ヒロインらしいピンク色のふわふわゆる髪を揺らし、その琥珀色の瞳を潤ませ、キップに身を寄せる姿は、実に愛らしい。
女性の割には背も高く、メリハリの利いた体の私に対し、シシリーはとても小柄で、思わず守りたくなるような存在だった。髪だって私は氷のようなシルバーブルーで、瞳は金色と、「猛禽類みたいな目の色」と、キップからは散々揶揄された。でもそれはあながち間違っていない。見た目猛禽類で、私は性格もキツイ。なぜなら私は乙女ゲーム『ラッキーヒロイン☆幸せプリズム3』の悪役令嬢なのだから。
悪役令嬢とは、ゲーム内で、ヒロインの恋路を邪魔する存在。その役割を分かりやすくするために、ゲームの制作者は、私の性格をきつく、見た目は氷のような美しさに設定したのだ。そしてこの悪役令嬢アデル・ファルスタックに転生したと、赤ん坊の頃に気づいた私は。今の今まで、断罪を回避すべく、励んできた。
だがしかし。ここはゲームの世界。ヒロインを中心に物事は動き、悪役令嬢の悪あがきには、容赦なかった。
アデルは公爵家の令嬢であり、七歳の時に、キップの婚約者に選ばれている。そこから女王様気質が発揮されるのだが、その原因は、厳しすぎる妃教育のせいだと、体験した私は思う。
これだけの苦労を、幼い自分は耐えているのだ。私はすごい、私は偉いという思考に、アデルは陥る。その結果、実の妹を馬鹿にし、地方領からの転入生であるヒロイン、シシリーのことも「芋臭い田舎令嬢」と見下し、いじめをするのだ。
その流れを、ゲームをプレイしていた私は、よく分かっていた。よってそうならないよう、注意深く生きようとしたのだけど……。なぜだか導かれるのだ。妹やヒロインをいじめるように。
例えば妹が、私の遊んでいた人形で遊びたがった時。こんなシーンまでゲームには登場しないが、私はフラグを察知した。そして気に入っていた人形だが、あっさり諦め、妹に渡そうとすると……。なぜか突然、人形の腕が外れたのだ。それを見た妹は泣き叫び、私が人形を譲りたくないからと壊したと、母親やメイドに訴える。すると母親もメイドも、妹の主張をあっさり信じてしまうのだ。
恐るべし、ゲームの抑止力。見えざるシナリオの強制力。
それだけではない。やっていないことも、やったことになっており、今もこうして証人が現れた。そして卒業式という晴れの舞台で私は、ゲームのシナリオ通りの展開に、身を置いている。やってもいない、いじめについて指摘され、婚約破棄を言い渡される状況に陥っていた。
仕方ない。ここで婚約破棄され、いじめをした卑劣な人間と名誉を貶められ、公爵家の恥と両親から勘当させられるのが、悪役令嬢アデルの役目なのだ。このゲームの世界は前世より、うんと名誉を重んじるから……。もう断罪されるがままに、諦めるしかない。
それに噴水にシシリーを突き飛ばしたとされる日。それは噴水突き飛ばし事件として、ゲームでも有名な事件だった。婚約破棄の決め手となる事件だから、覚えていた。無駄だろうが、せめてアリバイを作ろうと思ったのだけど……。
王都で最近できた人気のスイーツショップ。そこに行こうと考えた。そこになら沢山の人がいるし、私がいたと覚えてもらえる。しかも行列に並ぶ際、名前を名乗り、店員とも会話をするのだ。印象に残る真紅のドレスを着て、向かおうとした。
すると。
カラスに襲われている子猫と遭遇してしまった。可愛らしい赤いリボンをつけている。カラスを追い払うことには成功した。けれどドレスにはカラスの糞なのか、白い汚れがつき、レースもボロボロ、スカートの裾もほつれてしまった。こうなったらもう、屋敷に戻るしかない。
肝心の助けた子猫も姿を消しているし、残ったのは、よれよれの私一人だけ。
屋敷にいた――ではアリバイにならないだろう。もう明日の噴水突き飛ばし事件は、ゲームの力も働き、有罪確定だ。
























































