98:君と過ごした10日間
私が頷くのを見たアズレークは……。
頬が瞬時に赤くなり、慌てたように視線を窓の外に向ける。
気持ちが動くかと問われ、頷いた。
その答えに喜んでくれている……?
そう思うと嬉しさで、心が満たされる。
「……君がこの姿を望んでくれていると分かった。二人きりの時は、このアズレークの姿で会おう。だがそうでない時は、レオナルドの姿で会う。お互いに気持ちを抑えられるから、それでいいだろう。呼び方は、その姿に合わせて変えればいい」
大きく息をはき、アズレークは落ち着いた声でそう告げた後。
「……とはいえ、魔術師さま、はやめてほしい」
呼び方……。魔術師さまがダメならば……。
「ではレオナルドさま?」
「……レオナルド、と呼んで欲しい」
「でも、王太子さまも、魔術師さまと呼んでいるのに、呼び捨てにするのは……」
するとアズレークは、曇りのない黒い瞳で真っ直ぐ私を見る。
この目で見つめられる度、胸が高鳴ったが、今も同じだ。
ドキドキが止まらない。
「王太子、三騎士が、揃ってお膳立てをしている。……パトリシアも分かるだろう?」
名前の呼び方の話をしていたのではないの?
それにお膳立て?
アズレークはキョトンとする私を見て、今度は両手で頭を抱えた。
「屋敷にいた時は、ちゃんとコントロールできたのに」
呻くように呟き、指と指の隙間から私を見る。
その瞳がとんでもなく艶っぽくて、心臓がドクンと大きな音を立てる。
「正面の席に座らなくて正解だ。私の心臓が持たない」
まるで私の気持ちを代弁するかのような言葉だ。
それをアズレークが口にしたことに、驚いてしまう。
もしかして読心術?
「その顔だと、何も分かっていないようだな」
アズレークは先程と同じように大きく息をはくと、両手を頭から離し、私を見た。
「みんな、君と私が結ばれるよう、画策している。今もこうやって馬車で二人きりになるように仕向けた。このまま王都に戻ったら、この流れは加速されるだろう。国王陛下夫妻だって、この流れに加担する」
なるほど。そういうことか。
ようやく事態が分かり、分かったと同時に顔が赤くなる。
「私は……パトリシア、君のことが好きだ」
黒曜石のように輝く瞳でまっすぐに私を見て、照れることなくアズレークは私に対し、「好きだ」と告げた。そして……。
「それは君が番だから、というのは否めない。でも例え君が番ではなかったとしても、10日間、君と屋敷で過ごしていれば、好きになったことは間違いないだろう。懸命に頑張ろうとする姿、スノーへの優しさ、意志の強さ……君を好きになった理由は、あげればきりがない」
そこでアズレークは、肩の力を抜いた。
その瞬間、優しい笑顔になる。
心がとろけそうだった。
「パトリシア、君と結婚したいと思っている。だから魔術師さま、なんて呼ばないで欲しい。レオナルドさま、アズレークさま、と敬称はつけなくていい。名前で呼んでくれないか」
こ、これは……。
呼び方の件と同時に、プロポーズをされている……!
心臓がバクバクしてきて、頭の中が真っ白になりそうだ。
「パトリシア?」
「は、はいっ」
「それはイエスということか?」
「!! そ、そうです。……私も、アズレークさ……アズレークのことが好きです。番のこととか知らない時から、好きでした」
「そうか、ありがとう」
そう言ったアズレークの笑顔が、あまりにも可愛らしく……。
クールなイメージのアズクールが、こんな顔をもできるのかと、胸がキュンとしたその時。
ガタンと大きな音に驚いて床を見ると、スノーが悶絶している。
「仕方ないな。スノー、君はどうしても人間の姿になりたいようだ」
そう言ったアズレークはいくつか魔法を唱え、その結果。
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次回は本日12時に「顔を赤くして黙り込む」を公開します。
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