81:核心をつく質問
舞踏会が始まると、私にとっては嬉しい誤算が起きる。この舞踏会に招待されているのは、プラサナスの地に暮らす貴族たち。その中でも王太子であるアルベルトが出席する舞踏会に、足を踏み入れることを許された上流貴族。年頃の上流貴族の令嬢が、最大限のオシャレをしてこの場に臨んでいた。アルベルトはつい最近、婚約解消したばかり。まだ新しい婚約者は決まっていない。
ただ、アルベルトのそばには、かつて婚約者の座を得ようと奮闘していた私がいる。でもそんなことは関係ない。地方にいる貴族にとって、王太子の参加する舞踏会に足を運ぶ機会は、王都に比べれば少ない。せっかくのチャンスを無駄にすることはできない。
ということで令嬢の皆さまが、ここぞとばかりにアルベルトに詰め寄ってくれたのだ。
一曲目のカドリールが終わるや否や、アルベルトとダンスをしたい令嬢が行列を作る。さらにアルベルトと話したい令嬢が、彼を取り囲む。王都では、さすがにここまでのことはない。
アルベルトは相応に舞踏会に顔を出していたし、彼と話すチャンスは今一度きり、ということはなかったからだ。でも今はまさに、今宵を逃せば今度いつ踊れるか分からない、話せるか分からない。だからこその、今の事態だ。
三騎士だけでは制御しきれず、多くの騎士がこの混乱を整理するため、駆り出されている。この状態であれば、アルベルトが私にプロポーズをするのは……無理だろう。
内心安心し、そのまま飲み物や軽食が用意された部屋に、しれっと移動した。夕食会を終えたばかりなので、お腹は空いていない。だからシャンパンを手に、そのままテラスに出た。テラスには沢山の松明が灯され、昼間のように明るい。さらに炎により、寒さがかなり、緩和されている。
「パトリシアさま、外は冷えるぞ」
驚いて振り向くと、そこにはマルクスがいる。
てっきりアルベルトのそばにいるものと思っていたので、驚いてしまう。
「マ、マルクス!? こんなところにいていいの? 王太子さまについていなくて、大丈夫なの?」
「舞踏会でパトリシアさまの護衛につくよう、アルベルト王太子から、事前に言われている。俺はパトリシアさまの護衛で、ラッキーだった。アルベルト王太子に群がるご令嬢は、ごまんといる。あれでは朝になっても、アルベルト王太子とダンスすることは、叶わないだろう。そのことに気づいた一部のご令嬢は、矛先を変更した。ミゲルとルイスは、アルベルト王太子の護衛についたはずなのに、今は沢山の令嬢に取り囲まれ、ダンスや熱烈なアピールを受けている」
ミゲルとルイスも『戦う公爵令嬢』の攻略対象。ミゲルは美しい剣士であるし、ルイスはエルフのような、人智を超えた美貌だ。二人が令嬢からアピールを受けるのも……当然だろう。
「マルクスさまもあの場にいたら、相当モテるのに。私の護衛なんて、ツイていない、の間違いでは?」
私の指摘にマルクスは、金色の瞳を細める。
「俺は打算で近寄る女の相手をするつもりはない。最初から俺に真っ直ぐ一直線でなければ、相手にしない」
そうなのか!
思わず腹落ちしてしまう。
『戦う公爵令嬢』で、マルクスは普通のモードでも、攻略が難しかった。軽い気持ちでプレイすると、攻略できずに終わることも多い。かくいう私も初回クリア(攻略)できず、三度目でなんとか攻略した。
「ところでパトリシアさま。王都にいた頃とは別人だな。聖女さまを演じていたと思ったが……。姿は変わったが、性格は聖女さまの時のままだ」
そう言われると、困ってしまう。
なぜなら断罪後、修道院に送られるとなったその時に。
私は覚醒し、前世の記憶を取り戻したのだから。
人格だけ別人になったと言っても、過言ではない。
「変わったといえば、パトリシアさまは、今もアルベルト王太子を好きなのか? 気持ちに変化があるのでは?」
突然核心をつく質問をされ、ドキリとしてしまう。
思わずその目を見返すと、マルクスは髪をかきあげ、人懐っこい笑みを見せた。
このあともう1話公開します!
 


























































