60:俺の勘
皆で食事をしている時のマルクスは、とてもお行儀がいい。
パンだって優雅にちぎり、静かに口を運ぶ。
だが今は、とても砕けている。
貴族出身ではないマルクスは、必要とされるからマナーに従っているが、本当はもっとざっくばらんにしたいのかもしれない。だからこそ私の前では、こんなにも気楽に、食事を口に運ぶ。そして本来話さない方がいい、アルベルトとカロリーナの不仲についても、話してしまったのだろう。
というか、二度もゴースト退治を共にしている。
マルクスにとって私はもう、仲間なのかもしれない。
「妃教育は……確かに大変ですよね。それにしても、婚約時から不仲とは……。意に沿わない婚約だったのですか?」
アズレークにさらわれた時。
カロリーナ達の命令で、アズレークは私を殺しにきたのかと思っていた。
王太子であるアルベルトの婚約者の座を射止めるため、カロリーナと私は火花を散らしていた。だがその争いにばかり熱中し、肝心のアルベルトの好感度を上げることを疎かにした。
でも政治ゲームでは我が家は負け、カロリーナのドルレアン家が勝利した。当然のようにカロリーナは、アルベルトの婚約者の座に収まった。だが好感度は上がっていないため、婚約しても、二人がラブラブになることはない。
そこでカロリーナは、勘違いした。
アルベルトが自分に愛情を注がない理由を。
アルベルトが、実は私を好きなのだと思った。
そこで私を亡き者にするため、刺客を送りこむことにした。
結局この想像は間違っていたが、好感度が上がっていない、というのは事実だったのではないか。ゲームだと、それで攻略失敗になるが、ここはゲームの世界とはいえ、現実。流れとしてカロリーナがアルベルトの婚約者になるのは当然だし、それがドルレアン家としても悲願だったはず。だからカロリーナとアルベルトは婚約しているが……いわゆる王族でありがちな、愛のない結婚へと、進んでいる状態なのでは……?
「意に沿わない婚約……。どうなのだろうな。アルベルト王太子は、政務に関しては、三騎士に話してくれる。だが自身のプライベートになると、急に口を閉ざす。女性に絡むことは、一切口にしない。だからこれは、俺の勘だ」
マルクスはそう言うと、手元のワインをゴクリと飲む。
「アルベルト王太子は、きっと婚約者ではない、別に好きな相手がいるのではないかと」
「そうなのですね……。そうなるとお辛いですね。体の不調に加え、意に沿わない結婚……」
アルベルトに他に好きな相手がいる……?
まさか、と思うが。
その一方で。
言い争うカロリーナと私とは無関係の、おしとやかなどこぞの令嬢に心惹かれていたとしても……おかしくはない。
しみじみ思う。攻略対象の好感度上げは重要、と。
いや、もう乙女ゲーをプレイすることなんてないから、関係ないのだろうけど……。
しかし。
私が廃太子計画を成功させれば、アルベルトは王太子ではなくなる。となると、カロリーナとの婚約は……当然、解消だろう。もし、アルベルトの想う令嬢が、彼を心から愛しているのであれば。王太子ではなくなっても、アルベルトを受け入れ、二人が結ばれる可能性も……無きにしも非ずだ。
そう考えると、これから私がやろうとしていることは……。
国王陛下は苦しむことだが、アルベルト自身には、いろいろな意味での解放になるのかもしれない。
そんなことを思いながら、いつもより遅い夕食を終えた。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日8時に「本音と建前」を公開します♪



























































