58:もう少しだけ。一緒にいたかった
「焦らなくていい」
アズレークが、優しく背中を撫でてくれた。
その気遣いに、思わず胸がキュンとする。
キュンとして、さらに心臓がドキドキしてしまったが。
それでもなんとか、呼吸も心臓も落ち着いてきた。
「大丈夫そうか?」
背中を撫でるのをやめ、私の顔をのぞきこもうとしていると分かり、アズレークの顔を見上げると……。
えっ……。
アズレークの頬が、ほんのり色づいているように見えた。
私と目が合うと、その黒い瞳が動揺している。
どうしたのだろう……?
すぐに私から視線を逸らすと。
ゆっくりアズレークが、私から体を離した。
「もう落ち着いたな。私はこれで行くよ」
「あ、あの、待ってください」
「……なんだ?」
思わず、アズレークの黒い上衣の袖を、つかんでいた。
アズレークの視線を受け、慌てて袖から手をはなす。
動揺したからだろう。
何を聞こうとしていたのか、忘れてしまった。
でも何か話さないと、アズレークは去ってしまう。
もう少しだけ、一緒にいたかった。
でも何を話せばいい!?
焦った私は……。
「手紙を、部屋のテーブルに置いてきてしまいました」
う、嘘! 私ってばその件、今、ここで出す必要はないのに!!
あの手紙には、秘めておきたいアズレークへの想いが綴られているのだから。
「手紙? そうなのか? 誰宛だ? 屋敷に連絡し、配達してもらうよう、頼んでおくか?」
なんだ。
手紙、気づいていなかったのか。
でも、そうか。
プラサナス城が見える場所に、アズレークは滞在しているのだ。空になった私がいた部屋など確認せず、そのまま屋敷を出たはずだ。
冷静に考えれば分かること。
それでもなんだか、寂しく感じる。
その一方で、気づかれなくて良かったと、安堵する気持ちもある。
「あ、いえ。その手紙は……もし屋敷のどなたが見つけていたら、破棄してもらって構いません」
この期に及んで恥ずかしくなっていた。
なぜなら。
もう会わないと思って、書いた手紙だった。
それなのにこんな風に再会した。
もしかしたらまたどこかで再会できる……かもしれない。
淡い期待があるから。
あの手紙は、アズレークに見られたくなかった。
「分かった。捨てていい、ということは、たいした手紙ではないのだな」
その言葉にどう答えるか考えていたところで、聞きたかったことを思い出す。
そう、アルベルトの不調について、アズレークは知っているのだろうか?
「その、不調があることを」
「アズレークさま、オリビアさま、誰か来ます!」
スノーの声に、アズレークは……。
「オリビア、すまないが、私は行く。王太子の身に何が起きていようと、関係ない。作戦に変更はない」
それだけ言うとアズレークは、路地の奥の方へと駆け出した。
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次回は本日12時に「美人な婚約者」を公開します。



























































