54:青い塔
結局、2回繰り返したが、不穏なオーラは一昨日と同じ、左肩に残ったままだ。
でもこれなら視察に行って帰ってくるまでの間に、全身が覆われることはないだろう。
部屋に戻り、ルイスが来るのを待つことにした。
聖書に目を通していると、扉がノックされ、ルイスと家令のゴヨが現れた。
ゴヨは道案内も兼ね、同行してくれるようだ。
街の食堂で遭遇したゴーストは、日中でも姿を現していた。だがこの城のゴーストは、お行儀がいいのか(?)、なんなのか。日中に姿を現すことはないというが……。
唯一の例外が青い塔だ。
増築で作られた塔は、螺旋階段で最上部へとのぼる構造になっている。そしてここに現れるゴーストは、日中でも出没するという。
その理由は……いくつか思い当たる。
塔には窓がついているが、それはサイズも小さく、残念なことに手前の塔の影になり、陽はほとんど差し込まない。
つまり日中でも薄暗いことから、ゴーストはここに、日中も現れるのではないかと思った。
というわけでパールホワイトのロングケープをまとい、青い塔に向け出発する。
家令のゴヤが先頭を歩き、私の左隣にスノー、右隣はルイスだ。
弓の騎士ルイスは本当にエルフみたいに鼻が高く、そして耳の形も少し変わっている。魔力も多少使えるということで、先祖に本当にエルフがいるのではと思えてしまう。
「自分は魔法を多少使えますが、まだ聖女様が聖なる力を使うのを目撃したことがありません。これから目の当たりにできるのかと思うと、楽しみです」
ルイスはそう言って、キラキラとした笑顔を見せる。対して私は、単純に乙女ゲー『戦う公爵令嬢』のファンとして、この美貌の弓の騎士にときめいてしまう。その一方で、多少であろうと魔法を使えることに警戒心が働き、堅い笑いを返すことしかできない。
ただ、ルイスは魔法を使えるとはいえ、魔力は強くない。よって私がアズレークの魔法で変身していることには、気づいていない。とはいえ、目の前で聖なる力と称し、魔法を使うことになるのかと思うと、やはり心配になる。でも聖女の祈りの言葉は、間違いなく聖女が使うもの。何か疑われても……そこは押し切ろう。
そんなことを考えているうちに、青い塔に到着した。
やはり日が当たらず、塔に入る前から薄暗い。
家令のゴヨは「鍵を開けましたら、下がってもよいでしょうか」と、申し訳なさそうな顔で、ルイスと私の顔を見比べる。ルイスは「構いませんよ。鍵は預かり、終わり次第、自分がかけましょう」と申し出て、ゴヨは恐縮しながら鍵を渡すと、すぐ様、元来た道を戻っていく。
アズレークの魔法のおかげで、私は今、ゴーストを視認できる状態だ。もちろん、昨晩のように動きが速いと、視認できないが。
一般的にゴーストの姿は見えるのだろうか? そもそもこの城に現れるゴーストを、皆見えているのか。それが気になり、食事の席で確認したのだが……。
中庭のナメクジ型のモンスターゴーストについては、視認できていなかった。だが、足元に何かねばっとしたものが触れたり、硫黄の匂いを感じたりしたという。厨房の人型ゴーストについては、昨晩の通り、物が飛んでくる。だから視認できないが、何かいると、皆分かったという。そして今向かっている青い塔については……。
塔の中に入ることができないと、皆口々に言っていた。扉を開けたその瞬間、何とも言えない気持ちに苛まれ、一歩を踏み出せない……と。つまり視認はできない。でも何かがいると感じる。
一体何がいるのか。
「鍵は自分が開けましょうか?」
「いえ、ルイスさま、鍵は私が開けます。扉を開けた瞬間に何かを感じると、皆言っていました。ですから少し離れた場所で、弓を構えておいていただければ」
「分かりました」
ルイスは少し離れ場所で、弓を構える。
スノーと私は、扉の前に立った。
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