47:不調について
私の問いにアルベルトは、大きなため息と共に答える。
「聖女オリビア、あなたの言う通り、この不調は、ゴーストによるものではありません。何が原因なのか。それはさっぱり分かりません。それを調べるため、王宮付の魔術師は、調査に出ているのですが……。彼はまだ戻らず、原因も分からずじまい。ただ、不調が始まったのは……一年ほど前からでしょうか」
王宮付の魔術師……レオナルド・フリューベック・マルティネス。彼もまた、攻略対象キャラだ。アズレークからは、外遊に出ていると聞いていたが。アルベルトの不調の原因を調べるため、旅をしていたのか……。この国で一番魔力が強い魔術師でも、アルベルトにとりついている不穏のオーラが分からないとは。そうなると完全に不穏なオーラを取り除き、不調をなくすことなんて、無理なのではないか。
それにしても。一年ほど前から、その不調が出ているのね……。
まるで爵位剥奪、一家離散、修道院送りしたアルベルトに、罰が当たったみたいだ。
そこでふと思い出す。
ヒロインであるカロリーナは、魔力を使えるはず。しかもヒロイン設定で、その魔力は強かったはずだ。
スノーは、不穏なオーラは全身を覆っている、と言っていた。
魔術師レオナルドが不在でも、カロリーナで、なんとかできなかったのか。
あ、そうか。王都からプラサナス城は遠い。
王都にいる間は、カロリーナの魔力で抑えていた。
でも時間が経ち、不穏なオーラが広がったのかもしれない。
でもそれならば、カロリーナを同行させればいいのに。
いや、令嬢が来るには……ここは王都から遠すぎる。
そう、ここは王都から遠い。
体調に不調の不安があるなら、わざわざこんなところまで、視察に来なくてもいいのに。
「一年も不調で苦しまれる中、わざわざ王都から遥か遠いプラサナスの地に来たのは、王太子さまにとって、大きなリスクだったのでは? 今回は偶然、私の力で事なきを得ましたが、もしも私がいなかったら、どうされていたのですか?」
「それはおっしゃる通りです。わたしも自分のこの不調が、ここまでヒドくなるとは、考えていなかったのかもしれません。不調のせいか、魔力も弱まっていて……。甘かったです」
……!
そうだったのか。
アルベルトの魔力は、相応なものだった。アズレークの魔法で変身していると、見抜かれないかと危惧していた。無論、アズレークは「私の魔力は王太子より強い。見破られることなどない」と、少しムキになっていたが。
それでもアルベルトは、王道の攻略対象者。ゲームのもたらす幸運設定で、私のことを見破るのではと、秘かに心配していたが……。
その心配は、不要なようだ。
それにしても。
きっと王都では、カロリーナにより、不穏なオーラは抑えられていた。だからこれぐらいの不調なら大丈夫と、アルベルトは旅立ち……。
弱々しく私に答えた後、アルベルトは静かにスープを口に運んでいる。
容姿の美しさは、確かに以前のアルベルトと変わらない。でも覇気がないというか、明らかに弱っているというか……。
国王陛下は当然、アルベルトのこの状態を知っていることだろう。とても心配し、心を痛めているはず。このままアルベルトの不調の原因が分からなければ……。彼が王位を継ぐことも、困難になる可能性があるのでは?
アズレークは国王陛下を苦しめたいから、アルベルトを王位に就けない状態に追い込むと言っていた。だが何も手を下さずとも、アルベルトが王位に就けなくなる未来も、あり得るのでは……?
だが……。
弱ってはいるが、アルベルトは領地視察のために、この地に来ており、それは政務に取り組んでいるということだ。つまり王太子としての役目を果たしつつ、未来の国王として動いている。
現在の不調が続けば、国王になろうという気持ちも、弱まるかもしれない。
でも、今は違う。
そんなアルベルトから、国王になる可能性を、アズレークは……私は、奪おうとしている。
まさに泣きっ面に蜂ではないが、弱っているアルベルトにする仕打ちとしては、キツイものではないか。
「失礼します。これよりデザートを、お持ちいたしますわ」
女主人のミネルバが現れ、笑顔で告げた。
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次回は本日12時に「潜入成功。早速」を公開します。



























































