46:夢のような状況
夢のような状況に意識が飛びそうになる。
聖女の使う祈りの言葉と光で、全身を覆っていた不穏なオーラが弱まると、アルベルトの意識が戻った。マルクスとミゲルは喜び、私とスノーは、空いている部屋にひとまず案内された。そこで待機していると、身支度を整えたアルベルトに呼ばれた。
通されたのは一階の個室で、そこには……。
アルベルトと三騎士が勢揃いしている。
そう、まだ会っていなかった三騎士「弓の騎士」ルイス・デ・トーレスとも対面することができた。
ルイスは……サラサラの長髪で、その色はミルキーブロンド。ほっそりとした眉毛の下には長い睫毛、そして瞳の色はコバルトグリーン。エルフのような顔立ちで、人智を超えた美しさがある。
他の三騎士と同じ軍服を着ているが、マントは裏地がグレーで、表はエメラルドグリーン。スリムに見えるが、弓を扱うため、肩や腕にはしっかり筋肉がついている。乗馬も得意なので、太股やふくらはぎにも、絶妙なバランスで筋肉がついていた。
そしてここにきて、思い出したことがある。
『戦う公爵令嬢』という乙女ゲーの設定において、ルイスは多少、魔力を使えることになっている。だからルイスは弓を使う時、魔法を使う。その結果、ルイスの矢は一撃必殺だった。
そんなルイスから視線を戻し、改めて部屋を見渡す。
偶然立ち寄ることになった食堂で、アルベルトと三騎士と、出会うことになった。そして今、私とスノーは一通りの自己紹介を終え、彼らと一緒に、昼食をとっていた。
テーブルに並べられた料理の数々。
さっき途中まで食事をしていたが、その時に提供されていた料理とは、あきらかにランクが違っている。なにせトリュフがたっぷりかかったリゾットが出てきて、スノーは大喜びだ。
「聖女殿は各国を巡礼されており、数日前にガレシア王国にやってこられたのですね。そしてプラサナス城のゴースト騒動を聞き、自分に何か協力できないかと尋ねるため、この街へやってきたと。そこで偶然、こちらの食堂の店主に声をかけられ、モンスターゴーストを退治し、御礼で食事をしている時に、マルクスが声をかけた」
ミゲルはそこで言葉をきり、改めて私を見ると、優雅な笑みを浮かべる。
「あの時、アルベルトさまは突然気分が悪くなり、全身が凍りついたように、冷えていました。バスタブに急ぎ湯をいれ、体を温めようとしたのですが……。湯船につかると同時に、意識を失ってしまわれて。聖女殿のおかげで、助かりました。本当にありがとうございます」
ミゲルが右手を左胸にあて、礼をすると、他の三騎士も同じように手を胸にあて、礼をした。
「本当になんと御礼を言えばいいか。聖女オリビア、あなたのことは、わたしがプラサナス城の領主ヘラルドに紹介しましょう。何より、あなたの祈りの言葉と光により、わたしを襲う不調が収まりました。もし可能であれば、ゴースト退治のためにプラサナス城に滞在している間、わたしが不調に襲われることがあれば、また助けていただけないでしょうか。もちろん、あなたが必要とするものがあれば、惜しみなく提供させていただきます」
アルベルトがあの甘い声で微笑みながら、私を見た。
私が悪役令嬢パトリシアであった時には見せたことがない、優しい笑みだ。アルベルトがこんな笑みを女性に向けることが出来るのかと、奇しくもこの瞬間、初めて知ることになる。
記憶を辿ると、私とカロリーナが火花を散らしていた時。
アルベルトは表情を顔に出さず、いつも傍観者だった。
私に対してもそうだが、カロリーナに対しても、こんな笑みを浮かべることはない。
間違いないだろう。
カロリーナも私も、アルベルトの気持ちを置いてきぼりにして、競いあっていたのだ。私は……悪役令嬢だから、仕方ないのかもしれない。でもカロリーナはヒロインだ。それはダメだろうと、思わず思ってしまう。でもまあそこはヒロイン。ちゃんと婚約者の座に収まったわけで。
それにしても。
アルベルトは優しい微笑みを見せているが、力がないというか。突然襲い掛かる不調とやらに、相当苦しんでいるのだと分かる。一体いつからこんな不調が起きているのだろう?
「領主ヘラルドさまに、ご紹介いただけるとのこと。ありがとうございます。王太子さまの紹介があれば、領主ヘラルドさまも、私を怪しむことはないでしょう。もちろん、プラサナス城に滞在中、再び不調があれば、私がお助けします。でも、王太子さまを苦しめているのは、ゴーストではありません。不調の原因に思い当たることは、ないのですか? いつからその不調で、苦しまれているのですか?」
私がアルベルトに尋ねると……。
このあともう1話公開します!



























































