189:永遠の平行線
アルベルトの言葉に思わず尋ねてしまう。
「滅びの未来に向け生きるって、どんな気持ちなのでしょう」と。するとアルベルトは、子供の頃を思い出させる、優しい笑顔を見せてくれる。
「パトリシア。悲観的になる必要はないのですよ。滅び、なんて言う方をする必要はない。精霊王も黒狼も、次のステージへ向かうだけです。この世界は、彼らにとって、生きにくい世界となってしまった。だから遥か遠い最果ての地で、第二の生を歩む。そう思いましょう。それに私達はみんな、どのみちこの世界から退場するのです。始まりと同時に終わりに向かって生きている。これは皆、同じこと」
悟りを開いたかのようなアルベルトの言葉に、私はもうビックリしてしまう。
「終わりに向かっているから悲しい。なんて思いながら過ごしては寂しいでしょう。いつかは終わりが来る。でもその終わりまでは楽しく生きよう。それでいいのでは? 楽しいこと。それは冒険をする、大発見をする、名を残す――。そんな大それたことでなくてもいいのですよ」
そこで微笑んだアルベルトは、こんなことを言ってくれる。
「パトリシアは料理が得意でしょう。それならば毎日美味しい料理を作ろう、それをレオナルドとわたしに食べてもらおう。美味しいものを食べて楽しく過ごそう――それでいいと思いますよ。どんな些細なことでも。そこに喜びを見出すことができれば、日々が色あせることはない。ようは気持ちの持ち方次第です」
さりげなく、私の手料理を楽しみにしてくれるアルベルトに、頬が緩んでしまう。何より、アルベルトが日々を楽しく生きようとしていることを知り、ほっこりした気持ちになる。
「わたしはカロリーナの『呪い』に苦しめられている時期がありましたから。あの時は毎日が辛く、心が折れそうになりました。でも日々の中で。どんなに小さなことでも。喜びを見つけ、明日もまたなんでもいい。何か喜びを見つけよう。そう思い、乗り越えてきたので。今もその習慣は変わりません」
「それは……とても素敵な習慣だと思います。私も王太子さまを真似したいと思いました」
アルベルトは「ええ。ぜひそうしてください」とニッコリ笑顔になる。
「ところでパトリシア」
「はい」
「わたしはあなたにとって、背徳感を覚えさせる存在なのですか?」
「え」
「だって今回の話を聞く限り。エーテリオン様は、パトリシアの心のガードを緩めるため、わたしの姿で迫ったのでしょう? そしてパトリシアはそんなわたしわたしに心が揺れた」
これにはもう、盛大に焦ることになる。
「ち、違います! いえ、違わない……? 私は……」
「わたしはきっと、パトリシアの初恋の相手、なのでしょう?」
「! そ、それは……」
でも確かにそうなのだろう。
自分がレオナルドの……アズレークの番であると気づいていない時。パトリシアは確かにアルベルトに恋をして、彼に愛されたいと願った。幼馴染みなのだから。子供の頃に出会い、好きになった相手、それがアルベルト。ならば初恋は……アルベルトだ。
「初恋は実らない。ゆえにずっと心に残る……。でもそれだけですよ。思い出は美しい。もし初恋が実ったら。その瞬間から、知らなければいい相手の一面が、目につくようになる。そうなるとその美しい思い出は……急に色あせてしまう。わたしとパトリシアは永遠の平行線。そのおかげで二人の思い出は、ずっと色あせない」
なんて詩的なことを口にするのかしら、アルベルトは。
吟遊詩人も、これでは真っ青ね。
「番という強力なカードを前に。わたしは成すすべもなく手を引いた……いえ、パトリシアとレオナルドが結ばれることが、最善に思えました。あなたの笑顔が一番と思っていたので、今の状態が正解だと思っています。それでも。わたしはパトリシアの初恋の相手として、あなたの心に永遠に刻まれるのですから。そこはもう、あの王宮付き魔術師のレオナルドに勝った!と、少し鼻が高いですよ」
「もう、王太子さま、そんな言い方なさらないでください!」
「でもあの魔術師レオナルドにかなう人間なんて、いないですから。彼が天狗になりそうになったら、わたしが『パトリシアの初恋の相手はわたしだよ』と言わせてもらいましょう」
なんだろう。アルベルトがこんな風に言ってくれるから、私の中の罪悪感が薄まってくれる。なんだかんだで今回の件で、私はアズレークの番でありながら、それでいてどうしてもアルベルトから目を背けることができなかった。
なぜ、アルベルトに心が揺さぶられてしまうのか。
その答えがよく分かった。
アルベルトと私は永遠の平行線。決して交わることはない。ゆえに思い出はいつまでも美しく、色あせることはない。
あせない思い出に抱く郷愁。
これはもう憧れね。
でもそれはそれだけのもの。
なぜなら永遠の平行線だから。
「さて。お待たせいたしました。そろそろ帰りましょうか」
レオナルドの声に振り返ると。
そこには実に立派な屋敷が見えた。
さっきまでの瓦礫の山が嘘のようだ。
「中断してしまった結婚式の続き。それは我が精霊王の屋敷で行いましょう」
エーテリオンが笑顔で告げた。
お読みいただき、ありがとうございます!
大晦日です。
年内、沢山応援いただいた読者様に、心から感謝です。
いっぱいドジをした筆者を温かく見守っていただき
寛容な御心に頭が下がります。
来年も皆様にとって、幸ある一年になりますように。
【次回予告】
1月6日(日)21時
『その肌が薔薇のように』
お風呂上りのアズレークは
そのワイルドさに色気が加わり
本当に艶やかになる。
【新話公開】
『悪役令嬢完璧回避プランのはずが色々設定が違ってきています』
https://ncode.syosetu.com/n6044ia/
└大晦日特別企画で新話を13時に公開!
【御礼】なろう人生初の快挙
>>月間異世界転生文芸ランキングで4位<<
『悪役令嬢は我が道を行く
~婚約破棄と断罪回避は成功です~』
https://ncode.syosetu.com/n7723in/
腰を抜かしそうになるほど驚きました!
読者様の優しい応援に心から感謝です。
未読の読者様がいたたら、ぜひご覧ください~
心がぽわっと温まります☆彡
【完結】じれじれ溺愛系
『完結●聖女ではありませんでしたが
聖騎士様に溺愛されそうです』
https://ncode.syosetu.com/n7262im/
一気読み派の読者様、お待たせいたしました!
本作完結しましたので、お好きなタイミングでぜひどうぞ!
゜・。*☆*。・゜・。*☆*。・゜・。*☆*。・゜・。*☆
さらに。元日サプライズもご用意しています。
連載中の作品の後書き、活動報告やページ下部のイラストリンクバナーなど、よろしかったら元日にチェックしてみてくださいませ~



























































