187:沢山のヒント
だが、もはや花嫁に関心はない。私を得ることが最優先で、花嫁をさらうのは、そのための手段の一つになっていた。先祖返りし、始祖のブラックドラゴンの力を持つアズレーク……王宮付き魔術師レオナルドのそばに私がいる限り。私を手中に収めるのは難しい。
かといって不用意に私とレオナルドを引き離す動きをとれば、疑われる。だが慣習に従い、ロゼノワールの獣が現れ、花嫁をさらおうとすれば、どうか? 王宮付き魔術師なのだ。まずは王太子の安全確保、でもそれが済めば、ロゼノワールの獣と向き合う。
ロゼノワールの獣……つまり花嫁をさらうエネアスを、レオナルドは追うはず。
そこがチャンスだ。
こうしてこのエーテリオンの策は大成功となる。
レオナルドは花嫁をさらったロゼノワールの獣を追い、私から離れた。だがまだ気を抜けない。私の左手には、レオナルドの魔法がかけられた指輪がある。これを外させないといけない。
慎重に。
焦らず、事を進めることにした。
幻影魔法で、ヒルを出現させる。
まずは敵意を悟られぬように。あたかもヒルを追い払ったように見せた。そして私の指に現れたヒル。あれは指輪が隠れる位置に、幻影でヒルを出現させた。同時に質感を与える魔法を行使し、あたかもそこにヒルがいるように私に感知させたのだ。
まんまと指輪を外させ、そして私を自身の屋敷へエーテリオンは、さらうことに成功した。
その後は夢術をかけ、私を追い込もうとしているわけだが。
もし、本当にレオナルドを避けるなら。
花嫁をつれさったロゼノワールの獣……つまりエネアスには、自身の屋敷からうんと離れた場所に向かわせ、逃走を続けさせればよかったのだ。でもそんな指示を、エーテリオンは出していない。
途中で花嫁を置き去りにさせた。しかもそれは、屋敷からそう遠くない場所。これはこうも考えられる。レオナルドを巻いたエネアスが、エーテリオンの屋敷へ戻りやすくするためだった……とも。それはそうかもしれない。でも違う。
なぜなら。
エーテリオンは、自身の胸に飾っていた秋薔薇を髪飾りに変え、私の髪に飾ったのだ。その時に使った力は、まごうことなき精霊の力。レオナルドがそれに気づかないはずがない。
善性の強さ。
それはどうしても誤魔化すことができない。私を手に入れるために策を練ったのに、悪にはなりきれなかった。
つまり、レオナルドに沢山のヒントを、エーテリオンは残していたのだ。
花嫁が置き去りにされた森は、精霊王の屋敷に近い。近いといっても、徒歩ですぐにつくような場所ではなかった。それに私とアズレークが滞在していた一軒家のように、エーテリオンの屋敷や森には、精霊の力がかけられている。そうは簡単に踏み込むことはできない。
でもレオナルドであれば、そこに精霊王の屋敷があると気づける場所に、花嫁を放置させたのだ。さらに私の髪飾り。レオナルドは間違いなく、精霊の力を感知している。そして私の婚約指輪。あの指輪は、落とした場所にそのまま放置されていた。
放置せず、もし指輪を隠していれば、レオナルドは油断したかもしれなかった。私は自身の魔法で守られているから、心のカードが破られるはずはないと。
だが指輪は発見され、私が絶体絶命の状況にあると、レオナルドはすぐ気が付くことになった。花嫁を発見した時、精霊王の屋敷……というより、屋敷を守るために展開されている強大な力も、感知していた。
森の中の強い力、私の髪飾りで感知した精霊の力。聖獣だけではない。精霊が、しかも相当な力を持つ精霊がこの件に関わっていると、レオナルドは即時に理解する。
同時に。レオナルド……アズレーク自身が言っていた通り、ニルスの村の謎を解くにあたり、私は囮のようになっていた。危機にさらすつもりはなかったが、指輪が私の手にないのは由々しき事態。
私が夢術にかかり、夢の中でプラサナス城をさまよい、氷の帝国と言われるグレイシャー帝国に囚われていた時。アズレークは天候を変え、ブラックドラゴンにその姿を変えている。美しい黒いドラゴンへ姿を変えたアズレークは、雷雲にその体を隠しながら、エーテリオンの屋敷へ、物理攻撃を仕掛け、強硬突破しようとしていた。
その攻撃はすさまじく、普通にしていればニルスの村を含め、この一帯すべてが荒地に変わるほどのものだった。だがアズレークはピンポイントで精霊王の屋敷に攻撃を続け、かつ自身で防御魔法を展開。森へ被害が出ないよう、最大限の配慮を行っていたのだ。
精霊王が展開した力と、始祖の力を持つブラックドラゴンに姿を変えたアズレークの総力戦。軍配はアズレークに上がる。だがその時、私はアルベルトを投影したエーテリオンと、口づけ寸前だった。
それはギリギリ、エネアスにより回避されたが……。
本当に。
私がエネアスの良心を呼び覚ますことができていなかったら……と思うと、心底怖くなる。でも最終的にエネアスに助けられ、そしてアズレークが夢術を使うエーテリオン本人を押さえることで、私は覚醒した。
アズレークとも再会できたわけだ。
更新時間遅れ、本当にごめんなさい!
これには理由があるのですがとにかくごめんなさい。
本当にすみません!
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お読みいただき、ありがとうございました!
【次回予告】
12月30日(土)21時
『遥か遠い最果ての地へ』
私の最愛を、番を
あなた達に譲るわけにはいきません。
聖獣にとって番がどれだけ尊いものであるかは
あなたならよく分かるでしょう?
12月31日(日)12時半頃
『永遠の平行線』
「ところでパトリシア」
「はい」
「わたしはあなたにとって
背徳感を覚えさせる存在なのですか?」
それではまた来週、物語をお楽しみください!



























































