186:迷い
精霊王であるエーテリオンは、当然だが善性が強い。
現村長であるトマスは、ニルスが結んだ盟約を解消したいと思っている――それは娼婦を用意されたことで、当然、気づくことになる。それは怒りよりも、エーテリオン自身に慣習の正しさを、自問自答させることになった。
この慣習を続けることは、正しいことなのか。
魔力が弱まらないように。精霊や聖獣の血が絶えないように。
そうすることは正しいことなのか?
時の流れを受け入れ、この世界から魔力も――魔法使いも精霊も聖獣も、退場することが正しいのではないか?
自身の中にある迷いで、心が痛むことは避けられなかった。
それでいて彼を止めることができるのは、自身と同じぐらいの強さ者であるとも、エーテリオンは分かっている。精霊王である彼が、魔法使いごとき人間の思惑に従い、慣習を止めることは――できない。種としての誇りもあったからだ。
そんな中で出会うことになったのが、アズレークだった。
最初にアズレークを見つけたのは、エネアスだ。
始祖のブラックドラゴンと同格の魔力を持ち、しかも自身の番と共にいるアズレークを森の中で見つけた時。番と共にあるだけでも、始祖の黒狼でありながら、アズレークの方が優れている、彼に負けたとエネアスは思ってしまっていた。
アズレークについて報告するエネアスの表情から、エーテリオンは気づいてしまう。アズレークが自分に匹敵するかもしれない存在だと。
そう思いつつも。
エネアスは、正真正銘の始祖の黒狼。だがアズレークは、先祖返りしたに過ぎない。一種のまがい物だ。相手にはならないだろう。それにアズレークよりも、重要なのは聖獣の、ドラゴンの血筋となる女……私だった。
遥か遠い最果ての地へ渡る日は近い。
終焉の日が、灰色の冬であるならば。今はもう晩秋。二度と戻ることのない遥か遠い最果ての地へ渡る前に。聖獣の血を引く私と結ばれ、強い精霊の力を持つ子種を残したいと思った。
村長の娘の結婚式の前日。
慣習に従い、皆が寝静まった。そして慣習に従えば、教会ではトマスの娘キアラが待っているはず。でもそこにキアラの姿はない。村長は慣習を打ち破ることにしたのだ。
村長がそう決意した理由は、今回ニルスの村には、王宮付き魔術師レオナルドがいるからだ。彼だったら、あの精霊王が動くことがあっても。ロゼノワールの獣が現れても。対処できる――そう信じ、賭けてみることにしたのだ。
教会を訪れたエネアスとエーテリオンは、トマスの裏切りを知ることになった。だが二人が、それで怒り心頭になることはない。前日に花嫁が、儀式に望まないなら。翌日の結婚式の時に、その身を攫う。そういう取り決めになっていたのだから。
それにこの時、エーテリオンの関心は別のこと――そう、私に向かっていた。今回の村人の花嫁は、魔力が相応に強いだろう。でも私はその比ではない。先祖返りし、始祖のブラックドラゴンの番である私からは、彼と同格の魔力を感じたと、エネアスは報告していたのだ。
私と結ばれ、生まれる子供は、聖獣と精霊の力を併せ持ち、その力は神代に通じるものになるかもしれない。なんとしても私を手に入れたい。
エーテリオンはそう思い、アズレークと私が滞在する屋敷へ向かった。
その屋敷を見て、噛みしめる。
まがい物とあなどったが、そんなことはないと。
この屋敷に踏み込むには、かなり手間がかかる。最悪、この村と周囲の森が吹き飛ぶ。それほどの戦闘さえ、引き起こしかねない魔法が屋敷にはかかっていた。
物理的に何か仕掛けるのは危険。私に自発的に、この屋敷から出てきてほしい。だが番であれば、意志が強いことは確実。それを崩すには……。
夢術を使い、私を屋敷の外へ誘導し、心のガードを下げさせることを、エーテリオンは考えた。そのうえで、自身と結ばれるよう魔法を行使する。夢術が作り出す夢には、私の記憶が反映される。そこでエーテリオンは、自身の姿にアルベルトを投影させ、私の心を揺さぶることにした。
丁度この日、私はアルベルトと幼い頃を思い出し、郷愁を感じている。いつもよりアルベルトを意識していたこともあり、夢術にまんまとはまってしまう。あやうくエーテリオンが扮したアルベルトに心を開きかけたが、アズレークに贈られた婚約指輪の魔法で、事なきを得た。
エーテリオンとしては、驚愕することになる。まさかうまくいくと思ったのに、最後の最後でやられたという感じだった。目の前に私がいるのに、まさにお預け状態。しかもトマスは、今宵花嫁を儀式の場に連れてこなかった。
善性が強いとはいえ。怒りと無縁というわけではない。ただ、その負の感情は長続きすることはなかった。冷静になったエーテリオンは、森の中の屋敷に帰り、エネアスには明日、予定通り、結婚式の会場から花嫁をさらうことを指示した。
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