185:約束
アルベルトと三騎士、魔法騎士たちと合流し、そこに村長もやってきた。この場所はかなり特殊だったので、到着するまでかなり難儀したという。まずは何が起きたのか、レオナルドが整理しながら話すことになった。
それに合わせ、エーテリオンとエネアスも覚醒させることになる。
エネアスは、既に抵抗するつもりがないと分かっていた。
でもエーテリオンはどうだろう。
覚醒させた瞬間、その場にいた全員に緊張感が走った。
しかしレオナルドと対峙した瞬間。
エーテリオンはハッとした顔になり、そして大きなため息をつくことになる。ピンクトルマリンのような淡いピンク色の瞳は、レオナルドのアイスブルーのローブの留め具に向けられていた。
その留め具は、ホワイトゴールドで草花を表現しており、細部まで表現されている。まるでレースのような繊細な美しさ。この留め具についてレオナルドは「これは昔、国王陛下から褒賞で賜ったものなんだよ。なんでもとても希少なもので、ニルスの村の結婚式に参列した際、手に入れたものらしい」そう言っていた。
「フェルナンドとかつて約束した」
エーテリオンが唐突に口を開いた。
フェルナンド……?と思ったが、それは現国王陛下の名前であると、アルベルトやレオナルドの表情で、私は気づくことになる。その一方でエーテリオンは、レオナルドから目を逸らすことなく、その瞳をまっすぐに見たまま、口を開く。
「わたしは自分の身の上を明かしていないが、アイツは……この森を守る。共生を望む。この森だけではなく、この国にある木々を無意味に伐採したり、焼き払ったりするつもりはない、そう言ってくれた。そしてそれは……実際に守られている」
確かにこの国では、森へ火を放つことを固く禁じ、国の許可のない森林伐採がないか、厳しく監視していた。ひと昔前は、自由に森が開拓され、そのために森へ火が放たれることもあったと聞いている。でも現国王陛下の御世になってからは、変わった。
「お前がつけているそのローブの留め具は、フェルナンドと交換したものだ。彼はわたしに秋薔薇の種をくれた。王宮の温室で作られた、新種の薔薇の種だ。その御礼で、わたしから留め具を彼に贈った。友好の証だ。その留め具を持つ者とは……まずは対話する。そう約束していた。精霊王の約束は誓約だ。破ることはない」
つまりエーテリオンは、この場でいきなり力を行使することはないと分かった。
こうして対話が始まる。
私はあらかじめアズレークから話を聞いていたものの。
改めて聞く話、再度聞く話、その中から気づいたこともあった。
それは……。
エーテリオン自身の、本当は誰かに止めてもらいたいという気持ちだ。
彼自身、やがてこの世から消えると分かっていて、焦燥感を覚えていた。神にも等しい精霊王であっても。感情があるのだ。自分自身が、一つの種族が消えゆく未来に、心が痛まないわけがない。
その一方で。
ニルス亡き今、彼が望んだことだとはいえ、魔力が強い者を残すため。また精霊を絶やさないため。続けられているこの慣習が、果たして正しいのか。
そんな風にエーテリオンが考えるようになったきっかけは、ニルスの村の現村長である、トマスからの手紙だった。
自身の娘が結婚する。慣習に従えば、結婚前日に、娘はエーテリオンに身を任せる可能性が高かった。というのも村長の長女であるキアラの父親は、エネアスだろうとトマスは思っている。
なぜならトマス自身が婚儀を挙げる際、花嫁を慣習に従い、エーテリオンとエネアスに委ねていた。その時はエネアスが、花嫁と契りを結んでいる。その後、キアラを授かることになったが……。
トマスの実子かもしれない。でもキアラはとても強い魔力を持っている。ゆえにエネアスの血筋を引く可能性が高かった。よって今回慣習に従えば、キアラは結婚式前日の夜に、エーテリオンと結ばれるはず……。
キアラは知らない。知らないまま儀式を受け、エーテリオンだと分からないまま彼と結ばれ、そしてその出来事は夢だと思うだろう。そして結婚式を迎え、ニコラと結ばれる。子が生まれれば、ニコラとの間の子供だと思うはず。それがいつも通りのこの村の慣習だと、トマスも分かっているが……。
トマスはこの慣習、ニルスの村で続くエーテリオンとエネアスによる初夜権を、もう廃止したいと思っていた。それは自身が村長として、妻をエネアスに差し出したことの後悔が、ずっと残っていたからだ。娘には、ただニコラと結ばれ、幸せになってほしいと思うようになっていた。
そこで王都で買った魔力があるという娼婦を、結婚式の前日より前に、エーテリオンとエネアスに差し出すようにしたのだが……。美しいが魔力が弱い。それに慣習とは違うタイミングで儀式を遂行しようとしている。それもあり、エーテリオンとエネアスは、トマスが用意した娼婦を無視した。
そんな出来事があったのだ。
当然、エーテリオンは、未だ続くこの慣習について、考えることになる。
お読みいただき、ありがとうございました!
昨日は公開時間が遅くなり本当に申し訳ございませんでした。
お詫びの気持ちも込め、急遽新作を一本公開しています。
予告の最後に記載ありますのでよかったらご確認くださいませ。
【次回予告】
12月23日(土)21時
『迷い』
まさかうまくいくと思ったのに
最後の最後でやられたという感じだった。
目の前に私がいるのに、まさにお預け状態。
12月24日(日)12時半頃
『沢山のヒント』
どうしても誤魔化すことができない。
私を手に入れるために策を練ったのに
悪にはなりきれなかった。
【お詫びの新作公開】全7話読み切り
『隣国の年下王太子は未亡人王妃に恋をする』
https://ncode.syosetu.com/n0373io/
突然、転生することになった私。
でも、想像していた転生とは、全然違っている。
神様、これは何かの間違いでは!?
いくら文句を言っても何も変わらないので、自分で何とかすることにしました。
ページ下部にイラストリンクバナーを設置。
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