184:心の琴線に触れた言葉
アズレークに抱きしめられ、驚きつつも。
私は彼の番なので、すぐに嬉しくなってしまう。
「結局、あそこでエネアスの正体を掴もうと行動したことで、パトリシアが狙われることになってしまった。夢術を使われ、さらわれることになり、危険な状態にさらすことになってしまい……。本当に、申し訳ないことをした」
なんだ。さっきからずっと。なんだか浮かない様子だったのは、これを気にしていたのね。
「アズレーク、大丈夫ですよ。今回、私は、囮になった――ということですよね? でも囮になるのはこれが初めてではないですから。魔法薬の事件の時だって」「違う」
アズレークがさらにぎゅっと私を抱きしめる。
「魔法薬の時は、囮捜査をする前提で動いていたし、私以外も動いていた。万全の体制を敷いていた。でも今回は違う。結果的にそうなってしまった。そしてパトリシアを、危険な状態に追い込んでしまったのだから」
そう言われればそうかもしれない。でも……。
「確かにそうかもしれません。ただ、結果として、エネアスのことも、エーテリオンのことも、確保できたのですよね?」
アズレークは私の言葉に、苦渋の顔で頷いた。
「結果的には確保できた。だが指輪を発見した時は、もう絶望的な気持ちになった。ただ、指輪が外されたことで、追跡魔法が起動するようになっていた。よってここにたどり着くことができたが……。こんな場所に、精霊の屋敷があったなんて。そもそも地図ではただの森だ。さらに幾重にも精霊の力が使われている。パトリシアがさらわれていなければ……発見には多くの時間がかかっただろう」
「それでしたら、怪我の功名ですね」
「そんな言葉で片付けられない」と言いつつ、アズレークは、ブルーダイヤモンドが輝く指輪に口づけする。そしてどうやって指輪を外すことになったのか。その経緯を私に尋ねた。私はあの時、突然現れたヒルについて話すことになった。
魔法なのでヒルは本物ではなかったが、思い出すとやはり鳥肌が立つ。
ヒルについては災難だったとアズレークは私をなぐさめ、エーテリオンの行動について、こんな言葉を口にした。
「なるほど。パトリシア自身にはずさせたのか。でもまあ、そうとしかできないようにしていたから」
「そうなのですか!?」
アズレークと私以外が無理に指輪を外そうとすると、「呪い」が発動するようになっているのだという。エーテリオンがそこまで気づいていたかは分からないが、何かあるだろうと考え、あの手段を使ったのだろう。
「それでアズレーク、エーテリオンとエネアスは、今、どういう状態なのですか?」
「エネアスは無抵抗だった。それでも何かされると困る。眠りの魔法をかけることを提案し、同意したので今は眠ってもらっている。エーテリオンは最後まで抵抗したので、気絶させ、拘束している状態だ」
エネアスは無抵抗……。
そこで夢術にかかっていた状態の時を思い出す。
夢術の中でエネアスは、ロレンソの姿で現れた。そして彼はアルベルト姿のエーテリオンが私にキスをしようとしたのを……止めてくれた。結果、二人は剣と剣での戦闘になっていた。
どうしてエネアスは、私を助けるような行動をとったのかしら?
そこで記憶を手繰り寄せる。
「どうした、パトリシア?」
「エネアスは、エーテリオンを止めようとしてくれたのです。夢術の中で」
夢術の中で起きた出来事を、自分でも振り返りつつ、アズレークに話した。それを聞いたアズレークは、何度か怒りで瞳の色が変わったが……。
エネアスの心境の変化について話し出すと、真剣な表情になった。
夢術の中で、エネアスがロレンソだとは、気づいていない。最後の最後でもしやとは思ったが、あの言葉を口にした。それはこれだ。
「ロレンソ先生は善性が強いはずです。自身の信条に反してまで、ましてや私の心を虚ろにして従わせ、それであなたの気持ちは晴れますか?」
相手がロレンソだと思っていた。だからこれはロレンソに向けて告げた言葉だった。ロレンソの強すぎる善性に訴えるためのもの。でも同じく聖獣であり、根幹は善性の黒狼(ブラックウルフ)であるエネアスの琴線にも、触れることになった。
その結果が彼のこの言葉だったと思う。
「……例え目的が果たされたとしても。わたしの気持ちは……晴れることはないでしょう。後悔をしながら生を終えることになると、思います……」
これはロレンソとして言った言葉ではないだろう。エネアスの、黒狼の本心だ。
きっとこれをきっかけに、エネアスは……あきらめた。いや、止めようと思った。もう、子孫を残すことは諦める。遥か遠い最果ての地に渡り、静かに過ごそうと。
だからエネアスは、エーテリオンを止めてくれた……。
「なるほど。そのパトリシアの解釈で間違いないだろう。これまでそんな言葉をエネアスに投げかけ、止める者はいなかった。言われて初めて、自分が暴走していることに気づけたのだろう」
アズレークがしみじみとそう言った時。
「レオナルド、パトリシア! 無事か?」
アルベルトの声が聞こえてきた。
瞬時にアズレークは、レオナルドへと姿を変えている。
更新時間が遅くなり、申し訳ありません。
完全に筆者のミスです。お待たせしてしまい本当にごめんなさい。
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お読みいただき、ありがとうございました!
ご報告と新作のご案内がございます☆彡
【次回予告】
12月17日(日)12時半頃
『約束』
そんな出来事があったのだ。
当然、エーテリオンは
未だ続くこの慣習について、考えることになる。
【ご報告】感謝&御礼
第二回ドリコムメディア大賞で2作品が一次選考を通過しました!
これもひとえに読者様の温かい応援のおかげです。
ありがとうございます!詳細は活動報告にて。
コンテスト一次選考通過読者様感謝企画で以下新作を公開しました!
『悪役令嬢、ヅラ魔法でざまぁする【読者様の声を反映:改訂版】』
https://ncode.syosetu.com/n9432ii/
断罪終了後に、まさかの前世の記憶が覚醒。
回避行動を一切とれないまま、終身刑で投獄されてしまった悪役令嬢。
しかも無実の罪を着せたのは、元婚約者とヒロイン!
森で伝説の魔女と出会った悪役令嬢は、ヅラ魔法と新たなる魔法でざまぁする。
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常連さんは「まさか!」と思うあの作品の新作。
心の準備ができた方はご覧くださいヾ(≧▽≦)ノ
『婚約破棄の悪役令嬢、断罪回避に成功!しかし
~これ、何エンドですか!?~』
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乙女ゲームの悪役令嬢に転生していると気づいた私。
でも、もう遅い。全部やらかした後。詰んでいる。
前世凡人の私では、断罪回避は無理と思ったが。
雑草魂だけは残っていた!
無自覚に断罪を回避したものの、次なる抹殺の危機!?
ページ下部にイラストリンクバナーを設置しました。
よろしくお願いいたします☆彡



























































