183:彼のすごさ
ニルスの村の謎に挑む。さらにロゼノワールの獣の正体に迫る。この二つが王命だったのかとアズレークに尋ねると……。
「いや。国王陛下からの王命に、ロゼノワールの獣は含まれていない。だが、この村の謎と無関係とは思えなかった。何しろ『祝いの場を穢されたくないならば、花嫁は結婚式の前日に夜更かしをしてはならない。町民も22時までには床につけ。村の外へは出るな。家にこもり、朝を迎えろと』という言い伝えは、王族でさえ知っている」
それは確かにそうね。
ロゼノワールの獣の話題に最初に触れたのは、アルベルトだった。
「結婚式に参列するために、ニルスの村を訪れるんだ。これを知らずにやり過ごすことはできない。よって王族もこの言い伝えを知り、そして従うことになるのだが……」
私を抱き寄せたまま、アズレークは話を続ける。
「村人全員が強い魔力を持ち、魔法使いなのに。なぜロゼノワールの獣を長きに渡り、放置しているのか。言い伝えはすでに慣習化されており、村では当たり前のように受け入れている。おかしいと思った」
なるほど。そういう着眼点で、アズレークはロゼノワールの獣をとらえていたのね。
「それにロゼノワールの獣には、魔法が通用しないというが、それならばなぜ通用しないのか。そこを突き詰めればいいのに、それもしない。何かあると感じた。そしてそれはニルスの村の秘密と関係しているに違いないと思えた」
そのアズレークの推理は、正解だった。この村の謎と大いに関連していたのだから。
「魔法が通用しない――そこで思いついたのは、聖獣だ。聖獣であれば、魔法は通用しないというより、魔法による影響がほとんどでない。聖獣に魔法の影響を与えるなら、よほど強い魔力を込めないといけない。もしくは。闇の魔法だ。善性に基づく聖獣には、悪性につながる闇の魔法の攻撃の方が、それ以外の魔法より、格段に通りやすい」
「だからロゼノワールの獣が現れた時、闇の魔法を使ったのですね? ……とても体に負担がかかるのに」
アズレークは「そうだ」と返事をし、話を続ける。
「何よりさすが始祖の黒狼だ。動きが早い。それにあのロゼ色の靄。あれは初代精霊王オベロンの加護だろう。それも加わり、スピードが増していた。通常の魔法による攻撃を当てることが、困難だった」
神代の力を持った黒狼と精霊王の加護。その力は並みの魔法使いでは敵わない……。
「魔法が通用しない、というより、魔法の攻撃を当てるのが難しい――これが正解だ。でもあの状況では、あたかも魔法の攻撃が通用しないようにも見えた。結局、手っ取り早くダメージを与えるには、闇の魔法を使うしかなかった。込める魔力も増え、術者にダメージは出るが、一撃でも当てれば、それは確実にダメージを与えられるから」
先祖返りをしているとはいえ、アズレークは始祖のブラックドラゴンそのもの、というわけではない。さらに言えばあの時、彼はレオナルドの姿で始祖の黒狼、エネアスと対峙することになった。
その状況下で闇の魔法を行使したのは……やはり彼はすごい。
「始祖の黒狼……エネアスについては闇の魔法で対処できたが、まさかそこに精霊王であるリオン……彼の正式な名は、エーテリオンだが、彼まで関わっているとは思わなかった。完全に精霊王としての気配を消していた。村長であるトマスは勿論、村人の誰もエーテリオンが、この森で生きていることを明かせなかったから……」
アズレークは、大きくため息をつく。
「ニルスの村に到着した日。森の中を散歩しただろう」
レオナルドに誘われ、確かに散歩した。私はそこでプラサナスの地を思い出し、彼もアズレークの姿になり、とても情熱的な口づけを交わした。
その時のことを思い出してしまい、頬を赤くすると。
「……すまなかった、パトリシア」
「え?」
「あの森の中で、聖獣の気配をわずかに感じ取っていた。そこにいると悟れないようにしていたから、感じ取れた気配はわずかだった。でも聖獣……黒狼の、エネアスの気配を感知した」
私はあの時、鋭い視線を感じたが、あれのことだったのかしら? そう思い聞くと「違う」という。
「あの視線は、私がアズレークの姿になることで、引き出すことに成功した。始祖のブラックドラゴンを思わせる気配に、さすがにエネアスも驚き、全力で私を見ることになった。でもそれだけでは足りなかった。誰が見ているのかを。知りたいと感じた」
知りたいと感じたアズレークがとった行動、それは……。
「パトリシアの存在を示すことだった。逆鱗の反応を抑える魔法を解除し、息を上がらせることで、ここに祖先に聖獣を持つ女性がいると知らしめした。そこでハッキリ、聖獣の存在を感知することになった。それでも完全に正体を見せないのは……さすが始祖の黒狼だ」
私はあの時。てっきりアズレークもプラサナスのことを思い出し、情熱的なキスをしてくれたと思っていたのだけど……。ち、違ったのね。でも確かに、キスを終えた時、行動とは裏腹に目がとても真剣だった。研ぎ澄まされているように感じたけど……。
不意にアズレークに抱きしめられ、驚くことになる。
お読みいただき、ありがとうございました!
●本日公開の新作●の案内がございますので
最後までお読みいただけると幸いです!
【次回予告】
12月16日(土)21時
『心の琴線に触れた言葉』
アズレークがしみじみとそう言った時。
「レオナルド、パトリシア! 無事か?」
12月17日(日)12時半頃
『約束』
そんな出来事があったのだ。
当然、エーテリオンは
未だ続くこの慣習について、考えることになる。
【本日新作公開】心温まるハッピーエンド!
『悪役令嬢は我が道を行く
~婚約破棄と断罪回避は成功です~』
https://ncode.syosetu.com/n7723in/
乙女ゲームとは何ですかね? 悪役令嬢とは何でしょうか?
よく分からない世界で目覚めた私は、ゲームからの指示を一切無視し、我が道を進んだ結果。
無自覚に婚約破棄と断罪回避に成功します。
なぜ彼女はそこまで我が道を進むことができたのか、それは――。
ハッピーエンドのその先に待つ、心温まる本当のラストとは!?
師走の忙しい時期、ささくれた心に、ほんわかと灯る優しさを……!
イラストリンクバナーで並べています。
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