182:終焉の時
聖獣であるドラゴンには種類がある。レッドドラゴン、ブルードラゴン、グリーンドラゴン、イエロードラゴン、そしてブラックドラゴンとホワイトドラゴン。
狼(ウルフ)という聖獣についても、銀狼(シルバーウルフ)が代名詞になっているが、種類があった。白狼(ホワイトウルフ)、銀狼(シルバーウルフ)、黒狼(ブラックウルフ)、茶狼(ブラウンウルフ)、赤狼(レッドウルフ)だ。
他の聖獣と同じ。
狼という聖獣も遠い昔に滅びた。
そう思われていたが……。
奇跡的に。
黒狼(ブラックウルフ)がこの世にまだ残っていた。
正真正銘、始祖の黒狼だ。それがエネアスだった。
聖獣も永遠を生きるが、それは精霊と同じで、遥か遠い最果ての地に向かい、そこでしばしの時を過ごし、再びこの世界に戻る。
だが始祖の黒狼であるエネアスは、まだ一度も遥か遠い最果ての地に渡ったことがなかった。この世界に誕生してからずっと、この大陸で生きていた。
リオンでさえ、何度か遥か遠い最果ての地に渡り、その上でこの世界で生きている。なぜエネアスは、この大陸に、この森に、この世界にとどまっているのか?
それは黒狼が、オベロンの祝福を与えられていたからだ。
オベロンは初代精霊王。
この世界が誕生し、草木も生えない大陸に、オベロンと聖獣は降り立った。その時、神にも等しい力を持ったオベロンは、聖獣たちに告げた。「それぞれの思う場所に行くといい」と。
聖獣は大陸に散っていったが、オベロンの元に残った聖獣がいた。それが黒狼のエネアスだ。
オベロンと共に森を作り、仲間を生み出し、精霊の良き友として時間を過ごした結果。
遥か遠い最果ての地に向かうことを決めたオベロンは、エネアスに祝福を与えた。
精霊が与える祝福。
それは自身の権能を分け与えることでもあった。
その結果、エネアスは精霊の持つ力を持つことになる。森を育て、修復し、再生することのできる力だ。さらに老いを遅らせ、より長くこの世界にとどまることができるようになった。
もしエネアスが遥か遠い最果ての地に行き、再びこの世界に戻った場合。オベロンの祝福はリセットされてしまう。よってエネアスはこの世界にとどまり続け、人間が戦禍で破壊した森を再生させていた。そして数を減らす精霊を守るように、リオンに寄り添い生きていたのだ。
精霊は数を減らす一方で、そして聖獣はエネアスをのぞき、皆、遥か遠い最果ての地に渡ってしまった。
神話の時代から生き続けるエネアスは、終焉の時を感じていた。
もう、精霊と聖獣の時代は終わりだと。
この世界には、人間という新たな統治者が現れた。彼らは化学や科学、技術を駆使し、精霊や聖獣の力がなくとも、発展を遂げるだろうと。精霊と聖獣は過去の遺物となり、伝承として、かつてこんな存在がいたと、おとぎ話の一つとして知られるようになると悟った。
遥か遠い最果ての地にエネアスは渡ったら、もうこの世界に戻るつもりはない。他の聖獣や精霊と同じように。遥か遠い最果ての地に留まるつもりでいた。オベロンとも再会したい。ゆっくり久遠の時を過ごそうと。
ただ、すべてを諦めたわけではない。
それに聖獣であろうと本能がある。命をつなぎたい。子孫を残したいという気持ちだ。
そこでエネアスは、リオンとニルスの間で結ばれた盟約に加わることになる。基本はリオンのサポートだ。でも時と場合により、エネアス自身も子孫を残すために行動する――というわけだ。
「ニルスの村は魔法使いの村として知られているが、代重ねを繰り返しても、魔力が弱まらない。それがなぜなのか。国としての関心事でもあった。だが不用意な詮索を、ニルスの村の魔法使いは嫌う。何よりこの村出身の魔法使いは、魔法騎士として多数活躍している。彼らを敵に回したくないし、国としては、これからも魔法騎士として登用したいと思っていた。その一方で、謎も解きたい。その無理難題を……」
「国王陛下から、その無理難題に取り組むよう、王命が下ったわけですね? 王宮付き魔術師であるレオナルドに」
アズレークは私の言葉に頷く。
「王宮付き魔術師であるレオナルドが、これといった理由もなく、ニルスの村に滞在すれば、それはもう最大限警戒されてしまう。でも結婚式なら別だ。元々、王族は代々この結婚式に参列している。そこに護衛を兼ねた王宮付き魔術師が同行する――不自然さはない」
そこでアズレークは私の肩を抱き寄せ、額にキスをする。
「それにレオナルドは自身の夫人を伴っている。護衛で来ているのに。愛妻家ぶりを発揮すれば、村人は完全に、王宮付き魔術師は浮かれ気分だと警戒心を解いてくれる」
なるほど。つまりアルベルトが私の同行をレオナルドに提案したが、それはレオナルドが王命に取り組む観点からも、好ましい提案だったのね。
「ニルスの村の魔法使い達の警戒を解きつつ、この村の謎を解明する。同時に。ロゼノワールの獣。この問題にも取り組むことになった」
「ロゼノワールの獣も王命に含まれていたのですか?」
お読みいただき、ありがとうございました!
【次回予告】
12月10日(日)12時半頃
『彼のすごさ』
でも確かに、キスを終えた時、
行動とは裏腹に目がとても真剣だった。
研ぎ澄まされているように感じたけど……。
【お知らせ】
2本の新作を公開&完結しています。
一気読み、できます!
よろしかったらお楽しみくださいませ~
一転、二転、三転ぐらいします:
『婚約破棄された悪役令嬢
大逆転ざまぁで断罪回避
~不敬罪だ!殿下は反逆罪です~』
https://ncode.syosetu.com/n5260in/
初の〇〇〇作品:
『裏設定アリの推しの婚約者!?
悪役令嬢はヒロインの登場を切望する』
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