176:知っている
眩しさに目を開けると……。
天井から太陽の陽射しがサンサンと降り注いでいた。
ここは……。
ガラス窓に囲まれたこの部屋はサンルーム。
知っている。
ここは氷の帝国と言われるグレイシャー帝国。
そしてここはロレンソが所有する屋敷のサンルームだわ。
自分がローソファに寝そべり、日光浴をしている状態だと気づいた。
真っ白な長袖のシュミーズドレスを着ている。胸元がふわふわとした毛で飾られ、生地も厚手で温かい。
カチャという音にハッとする。
ちらっと音の方を見ると、白銀色のマントをはためかせ、ツカツカとロレンソがこちらへ歩いてきた。
逃げないといけない!
本能が逃げろと告げ、私の体は脳の指令に従い、サンルームから庭に続く扉へ向かう。
「パトリシア様」
ロレンソの呼びかけを無視し、そのまま庭へ出る。
「冷たい!」
思わず叫び、立ち止まりそうになり、でも我慢して走り出す。
雪がなければ、美しい花々が咲き誇っているであろう花壇と花壇の間にある通路を、冷たさを堪え、走る。
靴は履いていない。素足で雪の上を走っていた。
「パトリシア様!」
ロレンソの声が聞こえるが、振り向くことなく、森へと続く道を向かう。
空を見上げると、さっきまで明るかった空に不穏な色の雲が広がっている。青空が灰色の空へと変わっていく。
アズレークが、アズレークが来てくれる。
アズレークに会いたい。
ただその一心で走っているが。
もはや足の感覚がなく、自分がどうやって走っているのか、分からなくなっている。
こんもり雪がつもった木々の間を、息をきらし、とにかく走っていた。
空はどんどん暗くなり、もう陽射しはなく、薄暗くなっている。
さっきまで昼間だったのに。
今は日没後、急速に夜の帳が下りてきているようだった。
木々が途切れ、目の前に、湖底の青みがうっすらと見え、フロストフラワーが咲く湖が見えてきた。フロストフラワー……霜の花。
極寒期、この湖は真っ白に見えるぐらい凍り付くが、今の時期は氷の厚さがかなり薄くなる。氷が薄くなると、湖面からは水蒸気が立ち上り、その水蒸気が凍り、湖面の上でいくつも重なりあうことで、美しい結晶となり……花のようになった。
肩を上下させ、何度も呼吸を繰り返し、そして急激に寒さを感じる。
見上げた空からは、今にも雨が振ってきそうだ。
「アズレーク」
寒さと不安と彼に会いたい気持ちがあふれ、涙がこぼれた時。
「魔法は使わない、と約束したはずでは?」
背後からロレンソに抱きしめられ、声が出ない。
抱きしめられることは不本意だったが、抱きしめられたことで、温かさを感じ、気持ちは「逃げ出したい」なのに、体は動かない。
「こんなに冷えている……。パトリシア様、どうしてこんな無茶をされるのですか!?」
ロレンソはそう言うと、自身が羽織るマントをとり、私の体を包み込む。震えが止まらず、何もできない。ロレンソはそのまま私を抱き上げると、いくつもの魔法を唱える。
感覚のなくなった足に温かみが戻ってきた。同時に激痛も走る。でもそれもロレンソの唱える治癒の魔法ですぐに収まった。さらにもこもこのムートンのブーツで足が包まれる。
湖のほとりにある小さな木の小屋には、ベンチがあった。座面はカチカチに凍り付いていたが、ロレンソの魔法で氷は瞬時に消える。
そのベンチに私を下ろすと、ロレンソは突然、おへその下の逆鱗に触れた。
驚くと同時に、急激に血流がよくなっていくのを感じる。
アズレークが近くに来ていると、本能的に感じているせいか、逆鱗と連動し、心臓がドクドクと大きく脈打っていた。ロレンソの白銀色と白金色の瞳が私を咎めるように見つめ、そして――。
「い、いや」
ロレンソが首筋にキスを繰り返す。
さっきまで寒さで震えていたのに、この何度も行われる首筋へのキスと逆鱗の反応で、体は一気に熱いぐらいになっていた。ロレンソは私の手に触れ「……これなら平気でしょう」と呟く。そしてキスをすることも止めた。
「パトリシア様、足は凍傷になりかけていましたが、もう大丈夫です。体も温まったでしょう。……屋敷に、戻りましょう」
冷えた体を温めるため、わざと私にキスをして、逆鱗の反応を解除したんだ……。
急に逃げ出し、足を凍えさせ、全身を冷やした私を、懸命に温めようとするロレンソは。やはり限りなく善性が強い。拒みたいのにその優しさには、どうしても心のガードが緩みそうになる。
お読みいただき、ありがとうございました!
【次回予告】
11月19日(日)12時半頃
『あなた一人を全身全霊で』
彼の上衣をぎゅっと掴む。
懸命にその瞳を見て「外に行かないで」と訴える。
【ご報告と御礼】
活動報告でもお知らせしましたが
第9回キネティックノベル大賞で、一次選考通過していました!
応援くださっている読者様
本当にありがとうございますヾ(≧▽≦)ノ
ネット小説大賞、HJ小説大賞、そして今回と
日頃の読者様の応援への感謝の気持ちを込め
新作を急遽公開しました♪
●御礼その1:全6話完結済
感謝☆11/18日間恋愛異世界転ランキング6位
『浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は
華麗なざまぁを披露する
~フィクションではありません~』
https://ncode.syosetu.com/n8030im/
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた。
しかも定番の悪役令嬢ではない
残念悪役令嬢だった。
おかげで婚約者であるこの国の第二王子は
私を蔑み、浮気し放題。
ついに断罪されるとなったその時
私は自ら婚約破棄を申し出て、彼の浮気を指摘するが――。
断罪の場で自ら婚約破棄宣告シリーズ第四弾開幕!
●御礼その2:毎日更新!
『聖女ではありませんでしたが
聖騎士様に溺愛されそうです』
https://ncode.syosetu.com/n7262im/
聖女ではないのに魔物が見えてしまう主人公アリーと
自身の生命力で魔物を倒すという美青年聖騎士ランスとの
波乱万丈の旅がスタート!
聖騎士は、聖女に仕え、忠誠を誓い、純潔が求められるのに!
魔物を倒す生命力は、性的な興奮により高まる!?
今もランスがぐいっと私の腰を抱き寄せ
さらに荒々しく顎を持ち上げられ――。
アリーは聖女ではなかったけれど、修道女なのに!
二人の旅はどうなってしまうのか!?
●御礼その3:昨晩完結!
『完璧悪役令嬢は25人に振られ
断罪回避に成功する』
https://ncode.syosetu.com/n5742ij/
表紙は『ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス ―Roundabout―』
メダロット探偵物語『メダたん』などでご活躍されている
あかうめ先生の秀麗な描き下ろし♪
これまでの作品と一線を画す【衝撃】のラスト!
ページ下部にイラストバナーでリンクを設置しました。
お手数ですがスクロールいただき
遊びに来ていただけると嬉しいなぁ☆彡



























































