175:私がアズレークを拒絶する!?
リオンに善性があってよかったと思う。
今のこの状況について、ヒントをもらえることになったのだから。
「まず私もエネアスも時間がないのです。共に数千年の時を生き、終わりの時が近づいている――。いえ、それは正しい言い方ではありませんね。終わりの時はある程度、調整はできます。ただ力が弱まりつつあるのは事実。共に生を終える前に、命を残したいと願っているのです」
数千年の時を生きる? それって……リオンとエネアスは人間ではない――ということだ。この世界に聖獣が存在していたのは数千年も前のこと。今は……。
え、まさか。
聖獣を祖先に持つ者、ではなく。
もはや滅びたと思われる聖獣そのものだというの、この二人は?
人型を取っているけれど、実際の姿は違うということ……?
それに命を残したい……つまり、自身の血を受け継ぐ子供が欲しいということだ。つまり以前、マルクスが教えてくれた通りだ。
メスの番は器であると。聖獣であるリオンとエネアスは、器が必要だった。だがそもそも聖獣が失われ、代を重ねるごとにその血が薄くなることで、器となれる女性は、この世界にほとんど存在していない。
世界中を旅したロレンソは、言っていた。
聖獣の女性の番は、私ともう一人ぐらいしか知らないと。
器が必要……。しかも残された時間が少ないということは、間もなくリオンとエネアスは死を迎える運命。どう見てもリオンは若く見えるのに。実際は数千を生きている……。
聖獣が現存している。
それはもう奇跡だろう。
かつ自分たちが失われる前に器を求め、子孫を残したいと思っていることを国王陛下が知ったら……。
最悪、アズレークより、リオンとエネアスが優先されるかもしれない。
いや、でもそれは困る。
私は道具ではないのだから。ロレンソのような考え方ならまだしも、自分たちが命を繋ぎたいという理由だけで、利用されるのは「冗談じゃない!」だ。
聖獣の器が必要だというなら、ロレンソのように探せばいいのに! ロレンソは、私ともう一人しか見つけられなかった。でもそれはロレンソが一人だからだ。
リオンとエネアス。
二人いるなら手分けして探せばいいのに。
というか、数千を生きているなら、見つけられなかったの? 一人も。
「うん……。なるほど。なぜ始祖のブラックドラゴンの番である自分を、器として求めるのか……。そう考えているのでしょうか?」
まるで心が読めるのかしら?と思ってしまう。
でもその通りなので睨み返すと。
「私もエネアスもこの地から出られないのですよ。この森で生きることが定められているからです。昔はそれでも問題なかった。器となる女性は沢山いたのですから。それにこの森ももっと広大でしたからね。でも今は違う。仲間は減り、残した子供たちも死に絶えた。この森を出ようとしたために……。仕方ないことです。それがこの世界の流れでもあるのですから」
リオンは同情を求めるような、悲しそうな顔で私を見た。
「自然では淘汰が繰り返される。強いものが残り、弱いものは消えていく。この世界はかつて聖獣が住みやすく、私達も生きやすい場所でした。でも新たな種族が生まれ、その種族は他を顧みず、己の繁栄を優先させました。森は燃やされ、木は切り倒され、そこを住処とするものは、次々に失われたわけです。でも私達は命を愛する。たとえ自分たちを追いやる者であっても、手にかけたいとは思わなかった。それが今の結果――というわけです」
ずっと椅子に腰かけていたリオンが立ち上がった。
「パトリシア様。ヒントはここまでです。始祖のブラックドラゴンが来る前に、君の心のガードは崩させてもらいます。ガードを崩せれば、いくらブラックドラゴンが来ようが、もはや関係ありません。君から彼のことを、拒絶していただきます。それで決着はつきますから」
私がアズレークを拒絶する!?
そんなこと、絶対にイヤ!
リオンがゆっくり私のいるベッドに向かってきた。
逃げられないとは思うが。
それでも。
「――パトリシア様!」
扉へ向かって駆けていた。
「!」
魔法を使われるより前に、全身を抱きとめられた。
誰!?
顔を上げるとそこには――。
クセのある黒髪と黒銀の瞳。透明感のある肌で、彫の深い顔立ち。しなやかな筋肉を持つ肉体で、その姿は戦士だ。
どことなくアズレークを思わせるワイルドな風貌。
ずっと気配もなかった。
まさに突然現れたように感じたが、部屋の死角、暗がりにいたの……?
でもそうなのだろう。彼がきっとエネアスだ。
「!」
あっさり抱き上げられ、抵抗して暴れても、エネアスはビクともしない。
「パトリシア様。無駄な抵抗は止めてください。それともそうやって暴れ、残りの魔力を消費されるのですか?」
リオンの言葉に、動きが止まる。
確かに今、暴れたことで息があがった。
乱れた呼吸から、魔力は逃げていく……。
力を抜くと、そのままベッドの上に戻された。
「もう少し、話してもよかったのですが、パトリシア様はお転婆なので。始めましょうか」
あの薔薇の香りが漂ってきた――。
お読みいただき、ありがとうございました!
【次回予告】
11月18日(土)21時
『知っている』
抱きしめられることは不本意だったが
抱きしめられたことで、温かさを感じ
気持ちは「逃げ出したい」なのに、体は動かない。
11月19日(日)12時半頃
『あなた一人を全身全霊で』
彼の上衣をぎゅっと掴む。
懸命にその瞳を見て「外に行かないで」と訴える。
それではまた来週、物語をお楽しみください!
昨日、新作のタイトルを書き損ねていました(焦)
『完璧悪役令嬢は25人に振られ断罪回避に成功する』です。
https://ncode.syosetu.com/n5742ij/
ぜひ遊びに来てください!!
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それをクリックORタップでも遷移可能です☆彡



























































