174:独占欲はないわけ?
偶然かもしれない。
でも私はリオンとエネアスが使った夢術を破り、覚醒できた。それはこの体を巡るアズレークの魔力を精神に向けることで、精神――つまりは心が強化された。それが結果として覚醒につながり、夢術を破ることになった。
でも二度目も、同じ方法で夢術から覚醒できるのか。
それは分からない。
それにそんな賭け、したところで意味がないと思う。
夢術を破ることができても、覚醒できても、結局はこの部屋で目覚めるだけだ。
この部屋から逃げるしか、助かる方法はない。
窓は芸術的ともいえる美しい格子がはめられており、そこから逃走は不可能。でもこの部屋の扉に、鍵は見当たらない。扉からなら逃げだせる。
問題は……その扉に向かうには、リオンのそばを通らないといけないことだ。それにリオンは魔法を使える。
違う。そうよ、間違っていた。
扉に鍵がないわけではない。鍵は不要なだけ。魔法で閉ざされている可能性が高い。
そうなると逃げ出すのは、難しかった。
それならば時間稼ぎ。時間の経過と共に私の魔力だって回復するし、アズレークは私がさらわれたことに気づいてくれるはずだ。
時間稼ぎ。
何をすれば……。
リオンと話すことでもできればと思うが、声も出せない。
「ふふ」
リオンが光の満ちるような笑顔になった。
「そうやってなんとか逃げ出そうと必死に思考を巡らせるパトリシア様を見ると……。本当に可愛らしい。逃げ出せないことは分かりますよね。私もエネアスも力を使える。でもパトリシア様は魔法を詠唱できない。逃げるのは無理ですよ」
そこで実に慈愛に満ちた表情になったリオンは……。
「夢術をかけ、精神領域に入れば、パトリシア様にも勝機があるかもしれません。何せ詠唱することなく、君は自身の魔力を使えるのですから。どうですか? 夢の中でもう一度、私とエネアスと勝負をしませんか?」
夢の中で勝負!?
でも夢の中では声が出て、魔法を詠唱できたが、力は発揮されなかった。ただ、アズレークの名前を呼ぶことで、覚醒できただけだ。
勝負も何も、リオンとエネアスに追い詰められた瞬間、夢の中から逃げ出すことぐらいしかできない。
でも……。
時間稼ぎにはなるのかしら?
いや、リオンに言われた通り、残りの魔力は少ないはずだ。時間がなかったから、レオナルドは完全に魔力を回復してくれたわけではない。逃げ出すことに失敗すれば、私の心のガードが落ち、とんでもないことになる。
とんでもないこと……。
そこで気が付く。
そもそものリオンとエネアスの目的は何なの?
心のガードが落ちた私を手に入れたい……これは何を意味しているの?
レオナルドの正体を、アズレークがブラックドラゴンであることも、始祖の先祖返りであることも、リオンは分かっている様子だった。
つまりはリオンとエネアスもまた、聖獣を祖先に持つ者である可能性が高い。……可能性ではなく、そうなのだろう。とても強い魔力を持っているのだから。
聖獣を祖先に持つ者ということは、自身の番を求めている。でも番が見つからず、聖獣を祖先に持つ私に惹かれてしまった……。
これが正解に思える。
でも私とレオナルドが、アズレークが結ばれていると分かっているから、魔法を使い、強引に従わせようとしているのだ。でも人の精神や気持ちを無理やり従わせるような魔法は、そう簡単に行使できない。ゆえに心のガードを下げようとしている。その上で、魔法を使い、私を手に入れようと考えた。
ロレンソは、同じドラゴンを祖先に持つ故に私に惹かれたが、同時に一人の人間として私を好きだと言っていた。だがリオンとエネアスはどうなの? それにそもそも二人で私を求めるってどういうこと? 番に対する独占欲はないわけ?
「その様子だと、一切のヒントがないと、勝負に乗るつもりはない――そう思えます。……強引に夢術を行使することはできますが」
そこでリオンはため息をつく。
「私もエネアスも何も悪党ではないのですよ。基本は善性に基づいて生きています。でも差し迫った状況でもあるわけです。少し理由を話しましょうか」
聖獣を祖先に持つのだ。ロレンソ程ではなくても、善性があるのは当然だろう。
お読みいただき、ありがとうございました!
【次回予告】
11月12日(日)12時半頃
『私がアズレークを拒絶する!?』
いくらブラックドラゴンが来ようが
もはや関係ありません。
君から彼のことを、拒絶していただきます。
【新作スタート】20話以上公開済み
二日前から連載開始したばかりです!
表紙は
『ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス ―Roundabout―』
メダロット探偵物語『メダたん』などでご活躍されている
あかうめ先生の秀麗な描き下ろし♪
ページ下部に新作にリンクしたイラストバナーがあります!
『完璧悪役令嬢は25人に振られ断罪回避に成功する』
https://ncode.syosetu.com/n5742ij/
あらすじ:
乙女ゲームの世界に、悪役令嬢として転生していたことに
気づいたチェルシー。
バッドエンドを回避するため、ある作戦を遂行するが……。
王道の悪役令嬢ものかと思いきや
唯一無二のオリジナル設定満載で
ハッピーエンドなのに衝撃のラストが待ち受ける!



























































