171:何を言っているの?
私の言葉を遮るように、口を開いたアルベルトは、こちらを見て同情するような顔を見せる。
「どうやらパトリシアは、罪悪感から不思議な夢を見たようだね。わたしの魔力の核を破壊したのかと思い、強く後悔した。それが夢に反映され、そのロゼノワールの獣が現れたのでは? 結婚式の夢は、パトリシアの未来が反映されたのかな? 今は幸せなのに、罪悪感が生み出したロゼノワールの獣に、壊される夢を見たのでは?」
?????
夢?
結婚式もロゼノワールの獣も全部、夢?
アルベルトは輝くような笑顔で私に対し、夢を見たのだといいながら、部屋の中に入る。私の手をとりながら。
「それに確かにパトリシアは自分の意志ではなく、魔術師レオナルドにうまいことのせられ、ここまで来てしまったのかもしれない。それが夢の中で、そのリオン?に連れてこられたと思ってしまったのでは?」
「お、王太子さま、そんなことは!」
「そんな風に焦った顔のパトリシアは……申し訳ないけれど、可愛いと思ってしまうよ」
そう言うといきなりアルベルトに抱きしめられ「えっ!」と声をあげてしまう。驚くが、こんなこと絶対ダメと、その胸から逃れようとすると。
「ごめん、ごめん。焦っている顔を見て、可愛いなんて言ってしまったから、怒っている?」
「!? そうではなく、なぜ王太子さまは私を抱きしめているのですか!? 離していただけませんか!」
「どうしたの、パトリシア? どうしてそんな寂しいことを言うの?」
離すどころか、逆にさらに強く抱きしめられ、目が回りそうになる。アルベルトは一体どうしてしまったの!?
「王太子さまこそ、どうしてしまったのですか!? 私とレオナルドの結婚をお祝いしてくださいましたよね? それなのにこんな風に抱きしめられては、困ります! 私はレオナルドの番なのですから」
私を抱きしめるアルベルトの力が弱まった。そしてゆっくり私から体を離してくれる。
安堵し、アルベルトの顔を見ると。
とんでもなく驚愕した表情に変わっている。
「……パトリシア、誰かに何かされたのかな? 魔術師レオナルドと結婚? 番? 何を言っているの?」
「え……」
「しっかりして、パトリシア。君はついさっき、わたしのプロポーズに応じてくれたばかりだよ。それがどうして魔術師レオナルドとの結婚になるの? それに番? なんの話? 一体全体わたしのパトリシアはどうしてしまったのかな?」
これにはもう、情けないけれど、口をぽかんと開けてアルベルトの顔を眺めてしまう。
アルベルトに好意は表明されていた。確かにこのプラサナス城で。でもプロポーズは結局されずに終わり、そして私がレオナルドの番であると理解したアルベルトは、身を引いてくれたのだ。
それなのに「わたしのプロポーズに応じてくれた?」って、どうしてしまったの?
衝撃的過ぎて、アルベルトの顔を見ていたが、その服を見て気づく。
白いシャツに紺色のタイ、フロスティブルーのジレに同色のズボン、目が覚めるようなシアン色のフロックコートを着たその姿は……。
ニルスの村の広場の結婚式に参列していた時の服装ではない。この装いは、私が廃太子計画を遂行した翌朝のものだ。
え、なぜこれを今、着ているのかしら?
王都に戻る際、この服を置いて帰り、再びプラサナス城に来たので、着替えたということ?
「パトリシア、もしやベッドから落ちて頭でも打ってしまったのかい? それで記憶が混濁しているのかな? わたしのプロポーズを、魔術師レオナルドからのプロポーズと勘違いするなんて。……本当に驚いてしまったよ」
そんなわけはない。
おかしいのは……アルベルトだと思う。彼こそ、頭でも打って、記憶をごっそり失ってしまってのではないの?
お読みいただき、ありがとうございました!
【次回予告】
11月4日(土)21時
『こうしたら思い出せるかな?』
「……覚えていないの?」
覚えているも何も、そんな出来事ないはずだ。
11月5日(日)12時半頃
『完璧な笑顔』
「でもパトリシア様、君はとても美しい声をされている。
その声だけで、殿方の心を溶かすことができそうだ」
それではまた来週、物語をお楽しみください!



























































