169:目的は何!?
リオンがどこから魔法を使ったのか。
分からなかった。
村長の親族はかなり早い段階で、私のそばを離れていたのかもしれない。リオンの魔法により。そして彼が魔法を私に対して使ったのは……。
――「思索に耽ると、その道は、逢魔が時に出会う」
これだ。
教訓的だが違う。
魔法を詠唱していたんだわ!
ヒルだと思った生き物は、幻覚? 魔物か魔獣だった?
ともかく私は左手の指から自分で婚約指輪を外してしまったのだと気づく。ヒルだと指摘したリオンの言葉を信じて。
せっかくアズレークが私を守るために、魔法をかけてくれた婚約指輪だったのに!
リオンの目的は何!?
ハッキリ言葉で言われたわけではない。
けれどさっき「あなたを愛しています」と彼の目が告げていた。
私はアズレークの番だ。
既にアズレークと深く結ばれているし、この気持ちが揺らぐことはない。
睨むように彼の目を見ると、神々しい笑顔を返され、目に力を入れ続けることが難しい。
「パトリシア様、もうあなたの心を守る鍵はない。最初は仕方ないでしょう。力を使い、あなたに受け入れてもらうしかない。でも一度受け入れていただければ、すぐに忘れますよ、彼のことは」
!
魔法で私を従わせるつもり!?
ヒドイ!
でもどうして?
初対面なのに。
いや、昨晩、アルベルトの姿で現れたのがリオンだった……ということ?
気づくと一面に霧が立ち込めている。
もうすぐ滞在している一軒家に着くと思っていたのに。
霧の中に見えるのは沢山の木々。
森の中を歩いていると自覚する。
だが。
またもや薔薇の香りが強く漂い、意識を保つのが難しくなってきた。
ここで意識が飛ぶようなことがあってはいけない。
そう思うが……。
鼻孔は薔薇の香りで満たされ、瞼が重くなり、体は完全に動かなくなる。
◇
「……ようやく見つけた」
耳に心地よいテノールの声。
「アズレーク!」
抱きつこうとすると、彼の体は消えてしまい、代わりに後ろから抱きしめられていた。
「アズレーク……」
耳元で「深い眠りの中へ」そう囁かれた瞬間、意識が遠のく。
いや、ダメだ!
眠ってはいけない。
強く思った瞬間、目が覚めた。
眩しい……。
天蓋付きのベッドに自分が寝かされていることに気づく。白で統一されたリネン類。私も白いネグリジェを着ているが……。
何これ……?
シルクなのだろうか? とても触り心地がいい。銀糸でもないのに、光の粒子が閉じ込められているかのように、糸の一本一本が輝いているように見えた。
起き上がり、部屋の様子を見てデジャヴを感じる。
この部屋を……知っている。
このベッド。入口の扉。そのそばにある調度品……。
起き上がり、窓に向かい、見える景色に息を呑む。
見たことのある庭園だ。
あの青い塔も知っている。
そしてあれは……初代プラサナス城の領主イシドロの像。
この部屋は……アルベルトの寝室として使っていた部屋だわ!
どうして? なぜプラサナス城にいるの、私……?
しばし考え、頭の中を整理する。
ここに私を連れてきたのは……。
そうだ。
そう、リオン!
彼はニルスの村の森のはずれに住んでいると言っていた。
それなのにどうしてプラサナス城に?
……ニルスの村の周りの森は広い。
村人により手入れされている範囲は決まっていたが、その先も森が広がっていた。
もしかするとリオンの住む場所は限りなくプラサナス城に近い場所だったのだろうか?
というかプラサナス城に住んでいる……?
リオンを見た時。
その品のある姿に、貴族ではないかと思った。
今、プラサナス城にいるということは。
領主ヘラルドの親族……?
いや、そんなことはどうでもいい。
着替えをして、ここから逃げ出すのみだ。
何せ眠らされたとはいえ、体も動かせる。
声は?
声はダメだ。まだ出すことができない。
でも!
逆鱗に触れる。
アズレークのことを考え、ここにいると思い込めた。
次は……。
着替えをしよう。
クローゼットの中を見ると、そこは空っぽだ。
扉を開けると、そこは応接室につながっている。当然だが、そこに服があるようには思えない。
この時代のネグリジェは、前世のものとは違い、生地も厚く、透けてはいない。レースや刺繍もきちんと施され、この姿で人と会っても問題ない。でもそれも建物内に限る。さすがにこれで外に出るのは無理だ。でも逃げ出したいのだから……。
あ! せめてローブがあれば。
バスルームに向かうと……。
ウール生地のボディスが置いてある。優しいローズピンク色で襟元と袖口に、ペイズリー模様が刺繍されていた。スカートとオーバースカートも同じ色で、裾にペイズリー模様が刺繍されている。共布のウエストベルトもあるのだが……。
これはプラサナス城にいた時、実際に私が着ていたものと全く同じデザインのドレスだ。しかもそれはアルベルトが用意してくれたもので、廃太子計画を遂行した後、気を失い、目覚めた私が着替えたドレスだった。
どうして、これがここに……?
分からないが、ともかくこれを着れば外に出られる。
ゴースト退治でプラサナス城の隅々まで歩き回ったので、裏口も含め、どこに何があるかは把握できていた。
というかリオンが私をさらった件は、領主ヘラルドは把握しているのかしら?
そんなことを考えながら、ドレスに着替えると、バスルームを出る。
ドレスだけではなく、パンプスがあったことにも安堵できた。それまで裸足でウロウロしていたから。
パンプスをはき、寝室から応接室へ向かい、ついに部屋から出ると……。
お読みいただき、ありがとうございました!
【次回予告】
10月28日(土)21時
『?????』
「そのドレス、よく似合っているよ、パトリシア」
碧眼の瞳を細め、微笑んだのは……。
10月29日(日)12時半頃
『何を言っているの?』
?????
夢?
結婚式もロゼノワールの獣も全部、夢?
それではまた来週、物語をお楽しみください!



























































