160:好奇心旺盛だね
「この季節、この地は急な雨が多いですから」
「降っても未明まででしょう」
「ええ、昼の結婚式までには地面も乾きます」
突然の雷鳴に続き、窓を雨が激しく打ちつけ始めたのに。
新郎新婦の親族は皆、落ち着いている。
「そろそろお開きですかね」
「まだ早いですが、仕方ない」
「また明日がありますから」
そう言うと皆、順番にアルベルトと私のところへ来て、挨拶をすると……。
なるほど。
みんな魔法を使えるから……。
雨合羽など彼らには必要ないのかもしれない。
全員、挨拶を終えると、姿が瞬時に消えていく。
魔法で、転移し、それぞれの家に戻っている。
ここが魔法使いの村であることをかみしめる。
「すごいな。王宮にいても、魔法を使えないのが当たり前なのに。ここでは魔法を使えるのが当たり前なのだから」
マルクスがアルベルトの元へ歩み寄った。
交代で食事をとる時のマルクスは。
あっという間に食事を終えてしまう。
「アルベルト王太子様、外は、車軸を流すような大雨です。離れとはいえ、徒歩で戻るのは無理でしょう」
全身びしょ濡れのルイスが戻ってきた。
エルフを思わせる長いミルキーブロンドも濡れていたが……。
すぐにレオナルドが風の魔法を使い、濡れた服を乾かし、暖炉のそばにルイスを案内した。
「レオナルド、すまないが、離れまで送ってもらってもいいかな?」
「勿論でございます、王太子さま」
レオナルドはアルベルトと三騎士を離れへ戻すと、村長に挨拶をし、私を抱き寄せ、転移の魔法で屋敷へ戻った。
「おかえりなさいませ、レオナルド様、パトリシア様。外はひどい雨でしたが、大丈夫ですか?」
メイドがエントランスに迎えに来てくれた。
「うん。大丈夫だよ。入浴の準備をお願いしていいかな?」
「かしこまりました、レオナルド様」
二人のメイドが慌ただしく動き出す。
その間にレオナルドはドアの外で警備をしている魔法騎士に声をかけ、家の中に入るよう促した。
「この家には魔法をいくつもかけてあるから。今晩はもう、部屋で休んでもらって構わないよ」
「え、レオナルド様、それは」
「こんな大雨だ。人間も獣もさすがに動かないだろう。それにこの家に使っている魔法はただの人間にも魔法使いにも獣にも有効だから。問題ないよ」
魔法騎士は「さすがレオナルド様」と感動し「何かありましたら遠慮なく声をかけてください」とお辞儀し、自室へと向かった。
「ではパトリシア、私たちも村の言い伝えに従い、22時までに休むとしようか」
「ねえ、レオナルド。ロゼノワールの獣ってどんな動物なのですか?」
「そうだね……。その姿は人間では視認できないと言われている」
私をエスコートして歩き出しながら、レオナルドが説明してくれたところによると……。
その体は名前の通りで、ワインのロゼ色とノワールの闇を混ぜ合わせたような靄に包まれているのだという。さらに動きが早く、その靄の中に包まれた姿を、しっかり捉えることはできない。
どんな魔法を使おうと、ロゼノワールの獣には通じず、気づけば新婦の姿が消えているのだという。
「え、魔法が効かないのですか!?」
「そうだね。そう言われているが、そんなことはないと思っている」
「それはどういうことですか……?」
部屋に着くと、すでに入浴の準備が整っている。
「パトリシアは好奇心旺盛だね。でもまずは入浴をして」
そう言ったレオナルドにキスをされ、あまりにも不意打ちで、力が抜けそうになる。
「ダメだよ、パトリシア。ちゃんと入浴をしてからだよ、甘えていいのは」
もう、レオナルドは!
彼のキスで力が抜けそうになり、思わず抱きついてしまったのに。甘えるのは入浴の後だなんて言い方をするのは……。そう、やはりレオナルドは限りなく優美なのに。二人きりで愛を交わす時は、とんでもないSの気質を発揮するから……。
「パトリシア様、ご入浴いただけますよ」
バスルームからメイドが出てきて、今度はそれに驚き、腰が抜けそうになる。そして再びレオナルドに抱きついてしまい……。
「パトリシア、ちゃんと入浴をしないとダメだと言っているだろう?」
レオナルドが耳元で、大変端麗な声で囁く。甘い息が耳にかかり、力を入れたいのに、力が入らない……!
「ほら、パトリシア、メイドもいるのだから。ちゃんと力を入れて」
力を入れろと言っているのに。その声は限りなく甘く、レオナルドの吐息が首筋にかかり、理性を保つのが難しい。
アズレークに戻って!と思いながら、なんとか力を振り絞り、バスルームへ向かった。
お読みいただき、ありがとうございます!
続きは……。
9月24日(日)12時半頃
『焦がれるような顔』
――そこから出てきて。
こっちへ来てほしい。パトリシア。
アルベルトがそう私に呼び掛けている。
【お知らせ】
一気読み派の読者様、お待たせしました!
以下作品が完結です。
『完結●身代わりの悪役令嬢
~断罪希望VS.断罪阻止~』
https://ncode.syosetu.com/n5401ij/
断罪されたい悪役令嬢VS.断罪されないでほしい私の攻防戦。
クセのある悪役令嬢。翻弄される主人公。
性格が男前な兄。ツンデレな殿下。
男性視点からの溺愛展開など、一つの作品でいろいろな味わいを楽しめます。
紅茶やコーヒー片手に秋の夜長の読者タイム。
いかがでしょうか。



























































