28:目の前でイチャイチャされたら……。
この屋敷にきて今日で一週間だ。
間もなくプラサナス城に、ガレシア王国王太子アルベルトがやってくる。
アズレークによると、今回アルベルトは、自身の護衛の三騎士と五十名ほどの騎士のみを連れ、プラサナス城を訪れるのだという。
つまり、婚約者であるカロリーナは同行していない。
ちなみに私が聖杯に海水を満たす呪文を参考にさせてもらった魔術師は、外遊で、もう一年以上ガレシア王国自体を離れているらしい。
今回、アズレークの魔法で髪や瞳の色を変えるわけだが。王宮にいるような、まさにSSクラスの魔術師であれば、魔法で変身していると見抜くだろう。だから魔術師が同行していないのは……作戦を決行する上で、ついていたと思う。
何より、カロリーナが同行していなくて良かった。
もしアルベルトと目の前でイチャイチャされたら……。
とてもジェラシーを抱く……と思う。
いや、ジェラシーを抱くのだろうか……?
断罪されたと分かり、修道院に入ると決まった瞬間から、アルベルトに対する熱は……冷めていった気もする。
何より前世の記憶に気づき、覚醒すると、自分の『戦う公爵令嬢』という乙女ゲーへの向き合い方を、思い出してしまったのだ。私はアルベルト命というわけではなかった。アルベルトも好きだったが、攻略対象である他の男性……三騎士も魔術師のことも好きだった。だからなんというか「そうか。アルベルトとはダメだったのか、私……」と、あきらめの境地に至ったというか……。
もし目の前でアルベルトとカロリーナがイチャイチャしていたら……。
ジェラシーというより、普通に煙たく思うだけかもしれない。
イチャイチャは家でやってくれと。
「オリビアさま、お着替えなさらないのですか?」
スノーの声に我に返り、私は手にしていた紺色のコタルディに着替える。ベルベッド生地のこのコタルディは、触り心地がいい。胸元の銀糸の刺繍も、腰の銀糸を編み込んだリボンも、一目で気に入った。
髪は左右で編み込みを作り、それを後頭部でクロスさせてまとめる。
なんだか貴族の令嬢っぽい髪型にできた。
って、元公爵令嬢だよね、私。
そんなことを思いながら、朝食をとるため部屋を出た。
◇
「おはようございます。アズレークさま」
「おはよう、オリビア」
共に過ごして一週間。
魔力を送ってもらうために。
唇こそ触れていないが、キスをするような距離の近さを、毎日実感していた。魔法を教えてもらい、聖女がゴーストを撃退する方法も、彼から学んだ。
私は彼にとっての標的であり、廃太子計画のために動く、彼の駒に過ぎない。
それなのに。
日々、彼の言動を目の当たりにして、嫌いになるどころか、なんというか……。
そう。
好ましく感じてしまっている。
だから。
今朝もいつもと変わらぬ黒ずくめの装いで、紅茶を口に運ぶアズレークを見て、心から安心していた。安心するだけではなく、一緒に朝食をとれることを、嬉しく感じていた。
「聖女については十分に学べたと思う。だから今日は短剣を使い、魔法を発動させる練習をしよう。食事を終え、準備ができたらスノーを呼びに行かせるから」
朝食をとりながら、そうアズレークに言われた時。
どこでその練習をするのだろうとぼんやり思っていた。
昨日、アズレークが言っていた通り、夜の間に雪が降った。
でも今日は晴天であり、おそらく昼を過ぎれば雪も消えるかもしれないが、今、外は白銀の世界だ。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日8時に「少しワクワクしながら」を公開します♪



























































