157:ニルスの村
ニルスの村は王都から比較的近い場所にある。
朝、王都を出発し、お昼前に到着できた。
村の中央にある広場で私達を迎えてくれたのは、白髪に白い髭がまさに好々爺の村長トマス。そして今回結婚式を挙げる、明るく元気な村長の娘キアラ。その夫となる素朴で真面目そうな青年ニコラほか、村人達全員だ。
キアラはピンクブラウンの艶のある髪、ぱっちりとしたアプリコット色の瞳、小柄で小顔だが、体にはメリハリがある。着ているコスモス色のワンピースもそのスタイルの良さで、よく似合って見えた。
ニコラは、口数は少ないが、キアラのことを優しく見守っている感じだ。茶色の髪に茶色の瞳と、見た目も落ち着いている。
それにしても。
村人は全部で50人ぐらい。
対してアルベルト王太子の一行は……彼本人を入れて、三騎士、アズレーク、私、そして従者三人とメイド二人と、魔法騎士三名と総勢十一名と、実に数が少ない。
王族なのに、こんなに供が少ないことに驚いてしまう。
そのことをアズレークに、馬車の中で指摘した時、彼はこう言っていた。
「ニルスの村の村人は、魔法を日常的に使っている。そのレベルはちょっと使えるというレベルではない。村のあちこちに魔法を使った仕掛けもあるし、魔法を使えない素人が村へ踏み込めば、木に吊るされるか、深さ30センチの落とし穴から出られない……そんな状態になる」
外敵の侵入に反応する魔法がかけられたツタや、落ちたと同時に幻覚の魔法が作用する落とし穴などが、普通にあるというのだ、ニルスの村には。そしてそれらを設置したのは、勿論、村人。つまりアズレークや三騎士がいれば、大勢を連れずとも、ニルスの村の滞在に問題はないというわけだ。
そんなにすごい村が存在していたなんて。私は知らなかったわけだが、それもそのはず。ニルスの村の存在は、地図にものせられていないし、他国にも知らせていない。それがこの村を守ることにもなっていた。
ということでここが乙女ゲームの世界であることを思い出すと、全員モブなのにSSSレベルの村人が住まう村に私達はやってきたわけだった。
「ささやかながら、昼食を用意しました。ぜひ我が家にいらしてください」
村長のトマスに言われ、彼の屋敷に向かった。
アルベルトと三騎士は、王族の滞在用に用意されている、村長の屋敷の離れに滞在している。アズレークと私は、旅人用に用意された、一軒家で滞在だった。
まずはその一軒家に向かい、中の様子を確認し、二人のメイドにトランクの荷解きを頼んだ。
「では村長の家へ向かおうか、パトリシア」
アズレークはレオナルドの姿に変り、服装は、三騎士と同じ、ロイヤルブルーの軍服だ。
目の覚めるようなアイスブルーの髪。そのサラサラとした前髪の下の眉毛と睫毛も、髪色と同じ。瞳の色は紺碧で、きめの細かいシルクのような肌をしており、唇は淡いピンク色。
優美なレオナルドのロイヤルブルーの軍服姿は、実に絵になる。
レオナルドにエスコートされ、訪れた村長の屋敷は、まるでログハウス。
吹き抜けた高い天井に、丸太が並ぶ壁。リビングルームとダイニングルームが一体化したその部屋には、巨大な暖炉が二つあり、ソファセット、テーブルセット、それぞれの下には毛皮の絨毯が敷かれている。
壁には牡鹿のはく製が飾られ、黄金の額縁に収められた絵画も並んでいた。
村長と言えど、その暮らしぶりは中流貴族と変わらない。
それだけこのニルスの村が、魔法により繁栄しているということなのだろう。
着席すると村長は当たり前のように魔法を唱え、テーブルに置かれたロウソクに次々と火が灯る。同時にメイドが料理を並べ、バトラーがグラスに飲み物を注いでいく。
レオナルドの対面に座るアルベルトは、白シャツに明るいシアン色の上衣にズボン、カルトゥーシュを織り出したスモークブルーのベスト、ターコイズの飾りのついたタイという姿。
相変わらず爽やかで洗練されている。
彼の隣に座るルイス、ミゲル、マルクスはレオナルドとお揃いの軍服姿だ。
ちなみに私の隣に、村長の娘とその婚約者が座っている。
焼き立てのパン、たっぷりの豆のサラダ、湯気の立つスープ、出来立ての鹿肉料理が続々並べられ、まさに昼食が始まろうとしたその時。
長身でひょろっとしたヘッドバトラーが早足で部屋に入って来て、村長の耳元で何かを囁く。するとトマスの顔は一瞬曇るが「分かった。仕方あるまい。もう一度。今晩試そう」と手短に答えると、すぐに笑顔を取り戻した。
「では神に感謝し、命の恵みをいただきましょう」
トマスの言葉と共に昼食が始まった。
お読みいただき、ありがとうございました!
【次回予告】
9月16日(土)21時
『いつも以上に彼も気持ちが高揚し』
「確かに懐かしいな」そう言ったアズレークは
私の腰に腕をぐいと回し、自身の胸へと抱き寄せ……
9月17日(日)12時半頃
『ロゼノワールの獣』
「!」アルベルトがじっと私を見ている。
その瞳は郷愁とそして――。
それではまた来週、物語をお楽しみください!
ちなみに。以下作品は続編が本日完結!
『断罪の場で悪役令嬢は
自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~』
https://ncode.syosetu.com/n0370ih/
一気読み派の読者様。お楽しみください!
ページ下部、イラストリンクバナー有ります!



























































