魔術師補佐官～グロリア～
「グロリア魔術師補佐官、尋問の準備が整いました」
騎士の一人が私の部屋を訪ね、報告してくれる。
「了解しました。今から向かいます」
これから反魔法使いを謳う地下組織『ワイズ』の創設メンバー、イラーナ・ニムリの尋問となる。魔術師レオナルド様が用意してくれた尋問薬――見た目は砂金のような粒――を引き出しから取り出す。
この薬を見ると……レオナルド様のSの気質を認識し、思わずぐふふと笑いそうになってしまう。
だって。
レオナルド様は常に優美で、その歩く姿を見た貴婦人は、それだけで失神すると言われている。
でも。
間違いない。
上品で優雅なレオナルド様。
だがそこには普段見せることのない一面があるはず。
そう。
レオナルド様はSの気質を持っている！
それはこの魔法で作った尋問薬がそう。
嘘をつくと黄金の砂粒が拳ぐらいの大きさに変わるなんて。しかも嘘をつくとさらに大きくなるなんて！ 地味だけど実に恐ろしい尋問薬を作るレオナルド様は、絶対にSの気質を持っている。そんなレオナルド様がパトリシア様にどんな愛情を注いでいるのか……。
想像すると……たまらない……。
そのS的な偏愛を想像するのも面白いけど、普段、優美なレオナルド様がデレる姿というのも……。
先日、その姿をこの目で見ることができた。
あれは……たまらなかった。
私が想像していた以上のデレっぷりだったわ。
あのデレっぷりとS的傾向を同時発動されたら……。
しかもそれがベッドの上だとしたら!?
ヤバ～イ！
パトリシア様はどうなってしまうのかしら!?
たえられる!? 無理よね？
陥落してしまいそう！
通路にいる警備の騎士が困惑した顔で私を見ていることに気づいた。
そこで咳ばらいをして、顔を普段の魔術師補佐官としてのものに戻す。
すると警備の騎士の頬がポッと赤くなる。
その様子に私はため息をつきそうになり、慌て息を止めた。
私はロマンス小説や恋愛ものの演劇が大好きで、ニュースペーパーでレオナルド様とパトリシア様のことを知ってからは、この二人のいろいろな姿を妄想して楽しんでいる。そんな妄想をしている時の私は完全に頬が緩み、口から涎が垂れそうになることも。
でもこんな姿、誰にも見せることができない。
ちょっと妄想し、気が緩んだ私の姿を見ると、男性はみんな「え」という顔をするから。
それは昔からそう。
私の見た目は、私の中身と真逆。
黒みがかったストレートの紅い髪。炎のような赤い瞳。血色のいい白い肌。間違いなく食べ過ぎで胸は大きく成長し、それでいて騎士になるため鍛えたところ、ウエストはシェイプされた。
その結果、社交界デビュー後、舞踏会に足を運ぶたびに、男性が寄ってくる。口元のほくろ、それも男性達の余計な感情を助長しているように思えた。気づくと多くの男性達に取り囲まれてしまう。
私はこの事態に辟易しているのに、この様子を見た女性達は……。
男好きする好色女と意図しないレッテルを貼られ、嫌がらせを受けることも多かった。
もうそれが嫌で。
ドレスを着ないで済む護衛騎士の道に進んだ。
でも護衛騎士って女性はまだ数が少なく、やはり男社会だから……。
それはそれで面倒だった。
でも。
自分の魔力の強さを生かし、魔術師補佐官の募集を知り、手を挙げた結果……。
新しくできた同僚のセシリオとルカ。
ルカは人懐っこく、私の本性にもすぐ気づいた。でもどんなに私がデレ顔変化顔になろうが、動じることなく、その様子を受け入れてくれる。むしろ面白おかしくツッコみを入れてくれた。
セシリオは、私が妄想を繰り広げていると、現実に戻るよういつも促す。ピシャリ、ピシャリと注意をするけど、妄想を批難することはない。妄想する私を、ありのままの私を受け入れてくれた。
そんな二人といると、とても心地いい……。
レオナルド様もパトリシア様も、私の妄想を聞いて驚いても、それで白い目で見ることはなかった。
魔術師補佐官になって、本当に良かったと今は思えている。
５階の廊下の窓からは、街の様子がよく見えた。
南国を思わせるここシーラの街は、明るい太陽と海に面した素晴らしい場所だ。
シーフードは美味しいし、特産品のレモンのお酒とも良く合う。
街の人々も開放的な気質で、とても楽しい。
一瞬、ここでずっと暮らしてもいいかも、なんて思ってしまうが。
私の居場所はここではない。
上司である魔術師レオナルド様、お昼に王宮へ来るパトリシア様。
同僚のセシリオとルカ。
レオナルド様を取り巻くロレンソ先生など街の人々。
うん、やっぱり王都がいい。
とっと悪者の尋問を終え、みんなのところへ帰ろう。
私は、イラーナ・ニムリがいる部屋の扉を開けた。
お読みいただき、ありがとうございました！
番外編はこれで終了です。
さらなる続編は読者様のニーズを見て考えたいと思います！
更新を再開する場合は、この後書きや活動報告でお知らせします。
9月6日加筆：
応援いただき、ありがとうございます！
続編、9月10日（日）にまずは1話を公開します。
今朝書き始めたばかりなのでしばらくは週末更新ですが、頑張ります！
【お知らせ】
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