魔術師補佐官~ルカ~
彼女が父親と共に爵位を剥奪され、王都から消えたとニュースペーパーで報じられた時。
ニュースペーパーで見た彼女の姿に息を飲んだ。
髪は波打つようなブロンドで瞳は琥珀色。鼻も高く、ぷっくりした唇。胸は大きく腰もくびれ、手足もほっそりして長い。
ニュースペーパーに描かれていた彼女は、まるで女神のようだった。
それはまさに一目惚れ。
でも彼女は王都から姿を消し、行方知れずとなり、ニュースペーパーの話題は別のことへ移って行く。彼女の姿をニュースペーパーで見ることもなくなった。
◇
ルカ・アレバロ。
それがボクの名前。
アレバロ家の本家は伯爵家だが、分家となるボクの実家は男爵家。そしてボクは三男。貴族の令嬢と結婚しないと、ボクは平民になってしまう可能性が高い。
よって舞踏会へ頻繁に足を運ぶことになるが……。
どうも美少年の姿で成長が止まってしまったボクは、美少女からはモテるが、同年代や年上の女性からはお子ちゃま扱い。
その一方でボクが好きな女性のタイプは……。
そう、あの日ニュースペーパーで見たパトリシア・デ・ラ・ベラスケス様のような大人っぽい美女。
でもそういった美女が好むのは、ボクのようなお子ちゃま美少年ではない。
実年齢は22歳なのに。
同年代は勿論、年上の素敵な貴婦人は皆、ボクをお子ちゃま扱いで相手にしてくれない。
もう結婚は無理かな。
貴族の令嬢との結婚は諦め、自分一人がなんとか生きていけるだけのお金を稼ぐ道を選ぶしかないか。現在、宮殿の事務方として仕事をしている。給金は悪くはない。でも実家を出て屋敷を建て、使用人を雇い、生活を維持するには……。足りない。このまま細く長く、仕事を続け、結婚せず、実家に寄生して生きて行くしかないか――。
そんな諦めモードな日々の中で、ボクは自分が魔法を使えることに気づいた。
アレバロ家の一族に魔力が使える人間なんていない。
だから魔法とは無縁と思い、魔法を使うことなんて考えたことがなかった。よって自分に魔力があることにずっと気が付かずにいた。でも屋敷で火事が起きた時、庭園の噴水の水が、あの燃え盛る炎に全部かけることができたらいいのにと思った。その時思ったことを、ボクは口に出していたようだ。
つまり魔力を使うために必要な魔法を詠唱していたことになり、噴水の水が火元の上に降り注いだ。そして火は鎮火される。そこで気づくことになった。どうやらボクには魔力があり、魔法が使えるらしいと。
この世界では一部の人間が魔力を持ち、魔法を使える。魔法を使える人間は重用されていた。ボクが暮らすガレシア王国でも、国王は魔法を使えることが必須で、王族はほとんどが魔力持ち。王宮に仕える魔術師レオナルド様なんて、その魔力の強さゆえに、王族と同格の待遇を受けている。
ちゃんと魔法を覚えれば、宮殿で魔法の関する職に就けるかもしれない。そうなれば実家を離れても、ボクの価値は認められ、独身貴族のまま生きていける……!
そこからは宮殿で事務方の仕事をしながら、魔法を覚える日々が始まった。
それから月日が流れてしばらく、驚きのニュースに出会う。
あのパトリシア様が発見され、代わりにドルレアン公爵の悪事が明らかになった。パトリシア様は公爵令嬢に返り咲き、しかも王宮付き魔術師のレオナルド様と婚約されたのだ!
王太子の婚約者になるのでは?とニュースペーパーはしきりと書き立てていたのに、まさか魔術師を選ぶとは。将来この国の頂点に立つ人間より、パトリシア様は魔術師を選んだ。
これには本当に驚いた。
同時に。
ボクの中で希望の明かりが灯る。
魔術師としてボクも独り立ちができれば、パトリシア様のような大人な女性と結ばれることもできるかもしれない。
さらに今日、宮殿に出勤し、魔術師レオナルド様の部下となる魔術師補佐官の募集が始まることを知った。
これは応募しない手はない。
魔法を覚えるにつれ、ボクは自分の魔力が並以上あることを、確信できたていたのだから。
◇
「ところでグロリア、戻って来て早々、申し訳ないけど……」
レオナルド様に昼食を届けたパトリシア様とスノー、そしてシーラから戻ったばかりのグロリアとボク。五人でパトリシア様の手料理を食べ終え、紅茶を飲んでいると、レオナルド様がグロリアに新たな仕事について話しだした。
するとパトリシア様が「ねえ、ルカ」と話しかけてくれる。
美しいパトリシア様。
ボクの手が届かない永遠の女神。
でもそれで構わない。
例えパトリシア様と結ばれることがなくても、そばで彼女の笑顔を見ることが出来れば、心は幸せで満たされる。
いつか。
いつかきっと。
パトリシア様のような大人な女性と恋に落ちることが出来たら――。
そう願いながら、ボクの魔術師補佐官としての忙しい日々は、続いて行く。
お読みいただき、ありがとうございました!
明日は19時半~20時半で公開いたします。
引き続きよろしくお願いいたします!



























































