魔術師補佐官~セシリオ(1)~
「セシリオ魔術師補佐官、そろそろ昼食のお時間です」
警備の騎士が、国王陛下が滞在する部屋に報告に来てくれた。
「分かりました。国王陛下に伝えます」
ガレシア王国のフェルナンド・ロドルゴ・ヴィレット国王陛下は、友好国であるホエール王国の戴冠式に参列するため、同国の宮殿に滞在していた。
戴冠式は明後日のため、国王陛下はホエール王国の王都を散策したいと言っているが……。
明後日の戴冠式を控え、王都は厳戒体制になっている。各国から王族や皇族もやってきているからだ。ホエール王国側からはできれば宮殿内で過ごしてほしいと要請されている。ゆえに国王陛下には「王都の散策は戴冠式後にいたしませんか」と提言したのだが……。
国王陛下は子供のように口をへの字に曲げ「もうよい。わしは寝る!」と寝室に籠ってしまった。
それが朝の8時。
そして間もなくお昼の12時。
さすがに4時間経つし、昼食の時間だ。
機嫌が直っていることを願い、寝室の扉をノックする。
「国王陛下、セシリオです。そろそろ昼食の時間です。起きていただけませんか」
反応がない。
まだ寝ているのだろうか。
もう一度ノックし、声をかけるが、ダメだ。うんともすんとも言わない。
今日の昼食は、ホエール王国やその他の国の王族や皇族との昼食会、というわけではなかった。ゆえに警備の騎士に「国王陛下はまだお休みになっている。一時間したら再度声をかけるので、それまで昼食は待機で頼む」と伝える。
警備の騎士が「かしこまりました」と返事をして出て行くと、私はソファに座り、魔術書を開く。
レオナルド様によると、王太子の頃は、外交で他国へ足を運ぶこともそれなりにあった国王陛下だったが、即位後は王都でいる時間が圧倒的に増えていた。よって少し窮屈に感じていた国王陛下は、今回の外交で羽を伸ばすつもりらしいと教えてくれていたが……。
滞在は二週間あるのだから、戴冠式が終わる迄は、この宮殿内の見学で我慢いただけたらよいのに。
ホエール王国はガレシア王国と違い、国土が海沿いに存在していた。
海で発見された珍しい貝殻を展示した施設や、鯨という巨大な哺乳類の骨格標本も見ることができる。そう言ったものや、王宮美術館を見るだけでも、一日が過ぎるだろう。
目覚めた国王陛下には、これらを見学しないか、提案してみよう。
そう決めて一時間後。
再びドアをノックするが、反応がない。
まだ寝ているのだろうか……?
仕方なく、あと30分待つことにする。
30分後。
ドアをノックし、反応がないことに、さすがに疑問になる。
もう5時間以上経つ。
このままでは夜の睡眠に支障が出る。
「国王陛下、このままでは、身支度を整えているうちに、ティータイムの時間になってしまいます。大変申し訳ございませんが、寝室に入らせていただきます」
ここまで言っても反応がないということは。
相当ご立腹なのだろうか。
でも仕方ない。
もう一度ノックの上で、ドアを開ける。
天蓋付きのベッドを見ると、こんもり膨らんでおり、まだ国王陛下が寝ていることが一目で分かった。
もしや具合が悪いのだろうか……?
心配になりベッドに駆け寄ると……。
枕に国王陛下の頭がない。
掛け布の中に潜り込んでいるのだろうか?
そう思い、遠慮がちに国王陛下の肩と思われる場所に、掛け布の上から触れ、声をかける。
「国王陛下、国王陛……」
掛け布がずれ、そこに見えたのは枕だ。
「え、まさか」
掛け布をめくりあげると、そこに国王陛下の姿はなく、枕が人の形になるようにうまいこと置かれていた。
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