１５４：国王陛下主催の舞踏会
いよいよスノーの社交界デビューも兼ねた、国王陛下主催の舞踏会の日になった。
この舞踏会は最大規模なもので、三日三晩かけて行われる。
多くの貴族は招待日が決められているが、マルティネス家は日付が指定されていない。その一方で、ロレンソ達街の人間は、最終日で招待状が案内されていた。
最終日は最後に花火も打ち上げられ、ホールを飾る花も終了後、自由に持ち帰っていいとされていた。花は王宮の庭園に咲く珍しいものも含まれており、貴族達の間では最終日の招待を熱望する者も多かった。
提供される料理も今日が最終日だからと奮発され、量も質も最大となる。
ということで舞踏会に向け、準備を始めることになった。
レオナルドとは宮殿で落ち合うことになっている。ロレナも義父のエリヒオとは宮殿で待ち合わせ。よって私とロレナは一緒の馬車で、宮殿へ向かう。
スノーは迎えに来てくれるノエの馬車で、宮殿へ向かうことになっていた。
この馬車の手配も、この舞踏会の開催期間中は大変になる。だがロレンソのおかげで、街で一番の馬車を、ノエは手配してもらえることができた。
スノーの着替えをロレナと私も手伝うため、先に自分達がドレスに着替える必要がある。
そこで私は今日のために選んだドレスに、早速着替えることになった。
当然だが今日の舞踏会は、レオナルドと共に出席することになる。
レオナルドと言えば、アイスブルーの髪に碧い瞳、そして白の軍服に、季節によって髪色と同色のマントをまとう姿が定番。ただ、ロイヤルブルーの軍服を着る日もあった。
確認したところ、今日はスノーが社交界デビューで白のドレスを着る。白を着て目立つのはスノーで十分ということで、自身はロイヤルブルーの軍服を着るという。
ならばと私は、アイスブルーの生地、スカートと見頃にオーガンジーで作られた立体的な花が飾られたドレスを着ることにした。ボリューム感のあるフレアスカートで、裾にはグリッターも施され、動く度に煌めきを放つ。
ウエストにはバックフリルのリボンがついており、白とアイスブルーの生地の重ね合わせがとても美しい。
髪にはドレスと同じ立体的な花飾り、首元にはチョーカーをつけた。彼がプレゼントしてくれたブルーダイヤモンドの指輪との相性も抜群だ。
スノーの部屋に向かうと、リーフグリーンの明るいドレスに着替えたロレナが既に準備を進めてくれていた。
ひとまず下着を身に着けたスノーは、アズレークが用意したドレスに袖を通す。
白のドレスだが、見頃とスカート部分には雪の結晶をモチーフにした細かい刺繍が施されている。さらに粉雪をまとうかのように、煌めくスパンコールが散りばめられていた。上質なシルクの光沢。シャンデリアの明かりを受け、もう全身がキラキラ瞬いているように見えた。
長い髪はアップにし、髪飾りで綺麗にまとめる。いつも髪はおろしているスノーが、アップにしているだけでも新鮮だ。
大粒のダイヤモンドがついたペンダントは、スノーの白い肌をさらに輝かせている。ロレンソの白のオペラグローブを合わせ、私の贈ったパンプスをはき、完成だ。
「もう本当にスノーちゃん、素敵よ！ 今日はノエくん、この姿を見て、感動しちゃうと思うわ」
ロレナはテンションが上がっているようで、声がなんだか若々しく聞こえる。
「ノエのテールコート姿も早くみたいです！」
スノーもまた、いつもよりさらにテンションが高くなっていた。
そこにバトラーから声がかかる。
そう、ノエが間もなく到着するということだ。
スノーを連れ、ロレナと三人でエントランスへ向かう。
ほどなくしてノエが到着した。
ノエは王道の黒のテールコート姿だが、赤髪をきちんとセットし、ピンと背筋を伸ばしたその姿は……。素晴らしい。とても市井の人間とは思えない。ちゃんとした貴族のご子息に見えた。
何より中性的な魅力が強かったノエだが、こうやってテールコートを着ていると、容姿端麗な青年に見える。ゆっくりスノーに近づき、挨拶するその動作は……。
まるでロレンソみたいだ。
きっとロレンソにマナーや礼儀作法を習ったからだろうが、立ち居振る舞いが上品に感じる。
「それではロレナさま、パトリシアさま。本日は僭越ながら、スノーさまをエスコートさせていただきます」
丁寧にロレナと私に挨拶をしたノエは、スノーの手をとった。スノーは頬をぽっとピンクに染め、ロレナと私を見て「いってきます」と微笑む。
「いってらっしゃい、二人とも気を付けて」
「いってらっしゃい。楽しんでね」
ロレナと二人、スノーとノエが馬車に乗り込み、出発するのを見送った。
「ノエくん、本当に素敵ねぇ。なんだか若い頃を思い出しちゃうわ。エリヒオのテールコート姿を初めて見た時は、本当にドキドキしたのよ……」
スノーとノエに触発され、思い出話を始めたロレナと一緒に馬車に乗り、宮殿へ向かうことにした。
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