153:花より団子
エリーゼの傍若無人な事件以降、大きな事件はないものの、様々な出来事は起きている。
まず国王陛下が王都に戻った。
レオナルドによると、久々の海外滞在を国王陛下は満喫したようだが、様々な場所にお忍び訪問をしたがり、同行していたセシリオはかなり大変だったらしい。変身魔法は勿論、国王陛下とバレそうになる度に、様々な魔法を行使して誤魔化したという。
「セシリオにとってはいい経験になったと思うよ。柔軟な対応力と咄嗟の判断力、最適な魔法を選択する力と、いろいろな力も鍛えられたと思う」
そうレオナルドは評していた。
そんな実は茶目っ気もあるらしい国王陛下は、ノエの絵を見ると……。
一目で気に入った。
ノエが描いた庭園には、明るい夏の陽射しが降り注ぎ、見ていて癒しや穏やかな気持ちになれる。その一方で、影に潜む不安な予兆。それは夏が終わり、来る秋の気配を匂わせ、光と闇の対比が実に秀逸と国王陛下は絶賛したという。
当然だが、この風景画は王宮に飾られることになり、ノエは新しい油絵の道具を買うことができるようになった。
「この庭園の風景画を描いている時。ノエは皆に囲まれ、幸せを感じていたと思います。その喜びが溢れるような光となり、キャンバスに投影されていた。その一方で影には、国王陛下も気が付いた通り、何かの予兆が反映されていたと、わたしも思います。不死鳥は、稀に未来を夢に見ると言われていますから。さらに画家の心情は、思いがけない形でキャンバスに表現されるものです」
ロレンソはノエの風景画を見て、こう言っていたが、まさにその通りだろう。画家の詳しい事情を知らないと、光と影は、夏の喜びと秋の寂しさと捉えられる。もしくは生の輝きと死の静寂とか。
ノエの生い立ちやその事情を知れば、光は現在の幸福、影は未来への不安、そんな風に感じ取れたかもしれない。実際、その後、ノエは継母と再会するわけなのだから。
絵画は、見れば見る程、背景を知れば知る程、面白い。
国王陛下は「急ぎはしないが、また絵を見せるように」とレオナルドに伝えたという。これを聞いたノエは、夜、眠る前に絵筆を走らせている。やはり進むべきは医療への道で、絵は趣味の範囲でやっていくようだ。
ちなみに公園で描いていた風景画。こちらは画廊のオーナーが無事受け取り、ギャラリーに飾った。するとノエの新作が登場したと知った上流貴族達は、まさにオークション状態で競り落とすことになる。
王宮にノエの絵が飾られると分かったことから、その価値は大きく高められ……最終的な販売価格はとんでもない金額になったとか。
一方のノエは、その人気とは裏腹に、毎日ロレンソの診療所を手伝い、午後はスノーのダンスの練習を手伝ってくれていた。
ダンスというのはパートナー次第で上手くもなれば、下手にもなると言うが……。
ノエがスノーのパートナーを務めるようになると、ダンスの表現力が格段に向上した。ノエの的確なリードで姿勢も綺麗になり、力むこともなくなっている。ダンスの先生も自分がパートナーになるより、ノエと踊り、そこに改善点を提案するという指導法に変化していた。
さらにセミオーダーしたパンプスも完成し、それを履いた状態で練習も行われることになった。
「パトリシアさま、プレゼントいただいたパンプス、スノーの足にピッタリです! 革もどんどんスノーの足に馴染んでくれている気がします!」
この言葉を聞いて、安心することになる。
革製のパンプスが足にしっかりフィットするのは、少し時間がかかった。体重がかかり、革も少しずつ伸び、やがてその足にしっかりと馴染んでいくからだ。
そして舞踏会の三日前、ダンスを終えたスノーのところへロレンソがやってきた。レオナルドも仕事をいつもより早めに切り上げ、屋敷に戻って来た。
今日は、ロレンソとノエと一緒に夕食を共にすることになっているが、メインの予定はそこではない。
メインの予定、それはスノーのドレスを用意することだ。
スノーの部屋にはレオナルド、ロレンソ、ロレナ、私が集結し、ノエは残念ながら応接室で待機。社交界デビューのスノーのドレス姿は、当日の披露でノエには驚いてもらおうということで、可哀そうだが部屋で待ってもらうことになったのだ。
こうしてスノーのドレスは、レオナルドの魔法で何度も何度も習作を重ね、遂に完成した。
これはもう……実に素晴らしい!
だがこれで終わりではない。このドレスに合わせ、今度はロレンソが白いオペラグローブを用意した。こちらは上質なシルクオーガンジーで、繊細な刺繍やレースが施され、大変秀麗。ドレスにも間違いなくあい、ロレンソの芸術的なまでのセンスの良さに感服してしまう。
念のためで髪飾りやペンダントも合わせてみたが、完璧。
もうスノーがお姫様のように見えてしまう。その一方で、白のドレスだからか、それはまるでウェディングドレスのようにも思えて……。
ロレナがハンカチで目頭を押さえているが、それは私も同様。妹が嫁に行く……そんな気分になっていた。
一方のスノーは自分が完全にお姫様になれたので大満足だったが……。
「お義母さま、パトリシアさま、スノーはお腹がすきました!」
花より団子のこの一言に、その場にいた大人は笑うしかない。急いで私と同じ、アクアグリーンのドレスに着替えさせ、ダイニングルームへ向かうことになった。
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