151:道具扱い
こうしてエリーゼは常に灰がないとままならない状態になり、ノエを手元に置くことを思いつく。ベレンに命じ、ノエを屋敷に連れてきて、監禁することを思いついたのだ。そうすればいつでも必要な時に、いくらでも灰が手に入ると。
一方のノエはベレンに対し、不信感を募らせていた。涙をこぼしながらベルドゥ男爵について話したベレンは、演技をしていると思えなかった。
でも度重なる灰の要求に、嘘をついているのではないか。もうベルドゥ男爵は元気なのに、灰を使い、何か悪さをしようとしているのではないか。そう疑うようになったのだ。
「私を疑うなら、お父様に会ってみるといいわ。意識が朦朧としているし、あなたに会ったとお父様は認識できないでしょうけど」
ベレンにそう言われたノエは、確かに自身の目で確かめることができるに越したことはないと思った。そこで昨日、ベレンの後についていき、ノエは馬車に乗り込んだのだ。
「屋敷につき、ベルドゥ男爵が眠るという部屋に連れて行かれると、部屋に入った瞬間、後頭部を殴られたそうです。次に意識を取り戻すと、そこは井戸の中。胸の半分が井戸に沈んだ状態で、ロープで吊るされていたそうです。しかも裸も同然の姿で」
ロレンソのこの言葉に驚いたが、ノエはロープに吊るされているだけではなかった。
ベレンはノエが灰を手に入れる様子を見ていた。翼を広げれば逃亡の危険がある。しかもその翼は炎でできていた。ならばと井戸に沈めた訳だ。しかもエリーゼはノエの喉をつぶし、声を出せないようにしていた。つまり、魔法を詠唱できないようにしていたのだ。
魔法が詠唱できなくても、翼を出すことはでき、灰は手に入ると分かった上での、非道なやり方だった。エリーゼの残虐性、それに同調するベレン。
もはやノエは自由を奪われ、エリーゼとベレンの美を保つための道具にさせられそうになっていたのだが……。
そこに現れたのがロレンソだった。
スーツ姿で洗練されたロレンソは、どう見ても上流貴族、もしくは王族のようにしか見えない。突然の貴公子の訪問に、エリーゼとベレンは落ち着きを失う。ベレンはノエを探ったが、それは実際に自分が動いたわけではない。従者に命じていたので、ロレンソのことを名前は知っていたが、姿は把握していなかったのだ。
一方のロレンソはその強い魔力で、既にノエがひどい傷を負い、体を震わせている状況を感じ取っていた。もう手加減するつもりはない。
対してエリーゼはそこにきて灰の効果が失われ、劣化した姿をロレンソにさらしそうになっていた。そこですかさずロレンソは、「美を保つ最高の逸品です」と真珠を一粒差し出す。それを見たエリーゼは無我夢中でその真珠を水と一緒に飲み込む。
するとその体は……赤ん坊へと変わる。
ホワイトドラゴンの治癒の力を究極まで高め、その力を込めた真珠を飲むことで、肌は劣化を知らない、もっとも若々しい状態へ戻った。
そう、老化の真逆にある赤ん坊の姿に、エリーゼの体を変えていた。
驚くベレンにロレンソは、ノエがどこにいるか問う。答えなければベレンも同じように赤ん坊になると伝えると、あっさり井戸へとロレンソのことを案内した。
ロレンソはノエを助け出し、喉を癒し、その体を温め、服を着せる。
その後、ロレンソは、ベレンに一体何をしようとしていたのか、話すように命じた。ロレンソが魔法を使え、その魔法の前で、自分は何もできないとベレンは既に悟っていた。よって知ることすべてを話した。
その話を聞いたロレンソは、ベレンにこの先も生きて行きたいなら自分との約束を守るようにと切り出した。その約束は……。
二度とノエには近づかないこと。今日起きたことは誰にも話さないこと。これまで手に入れたお金で残っている分は、すべて父親のベルドゥ男爵に渡すこと。残っている灰はすべて廃棄すること。父親を手伝い、正しい道を歩むこと。エリーゼ……赤ん坊を善人になるよう育てること。
もしこれらを破った時。ベレンのことを井戸に沈める。
そうロレンソが冷たく言うと、ベレンは分かりましたと何度も頷いた。
約束を破れないように。ロレンソは真珠のついたペンダントをベレンの首につけた。このペンダントにはホワイトドラゴンの治癒の力が込められており、外すことはできない。チェーンは耐えず再生されているので、切断は不可能。首から外すことはできないが、無理に外そうとした時、何が起きるか知りたければ、試すといい――。
これはまさにレオナルドが、カロリーナに使った手法でもあった。具体的に何が起きるか明示しないことで、恐怖心をあおる。その効果は……てきめんで、ベレンは絶対にペンダントを外さない、約束も破らないと誓ったという。
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