149:悪知恵が働く女
そもそもエリーゼという女性は貴族ではなく、商人の娘だった。だがその容姿が美しいと評判になり、ベルドゥ男爵とは別の男爵の愛人として囲われていた。その男爵はエリーゼより30歳年上の老獪の好色家だったが、エリーゼにゾッコン。随分と贅沢な暮らしをさせてもらっていた。
やがてエリーゼは身ごもり、ベレンを産むも、その美貌が衰えることはない。ただ、その頃、エリーゼは若い貴族の男性と関係を持つようになっていた。老獪の好色家は金づるだが、邪魔。するとその好色家は、突然死亡した。
どうやら毒入りのワインを飲んだようだが、それは自殺として処理される。エリーゼはそこで若い貴族の男性との結婚を望んだが……。男性には子爵の令嬢の婚約者がおり、エリーゼとはただの体目当ての遊びだった。結婚を迫ると煙たがれ、エリーゼはベレンを抱え、実家に戻ることになる。
男漁りを始めたエリーゼは舞踏会で、やもめだったベルドゥ男爵と出会う。
自慢の美貌でエリーゼはベルドゥ男爵をいちころにし、後妻の座を射止めた。エリーゼはすぐに身ごもり、男子を産む。そして邪魔者だったノエを、ゴメル地区の娼館に男娼として売り払った。その時得たお金は、ドレス代となって消えている。
それからしばらくすると、美貌を自慢にしていたエリーゼだったが、二度の出産で体型は崩れ、さらに加齢による美貌の劣化は否めない状態。そのため、美容に効くという様々な方法、食べ物を試し、散財するようになった。
ベルドゥ男爵家は次第に困窮し、ついにベルドゥ男爵は夜になると身分を隠し、ノエにとって弟、現在は男爵家の次期当主である長男と共に、ニュースペーパーの印刷工場で働くようになっていた。それでもエリーゼはお構いなしで、自身の美を取り戻すために散在している。
そしてあの日。
ベルドゥ男爵と長男は、工場での仕事があるため、屋敷で早々に仮眠をとっている中。エリーゼは娘のベレンを連れ、劇場などが立ち並ぶ、貴族の利用が多い、レストランで食事をしていた。
ベルドゥ男爵家の家計が苦しくなっていることは、さすがにエリーゼも分かっている。だが、美を取り戻すためには金が必要。そこで、もし羽振りのいい貴族がいれば、乗り換えることを、エリーゼは検討していたのだ。
つまり、新たなる男漁りでレストランに来ていた。
だが、既に劣化したエリーゼに目を向ける男性などいない。声がかかってもそれは娘のベレンに対してだ。焦燥感が募る中、エリーゼはレストランの個室から出てきた人物に、目が釘付けになる。
あの美貌の男は……確か王宮付きの魔術師レオナルドではないか。
しばしそのレオナルドにエリーゼは見惚れていたが、そこで見知った顔を見つける。それが……ノエだ。
なぜ娼館に売り払ったノエが王宮付きの魔術師レオナルドのそばにいるのか? まさか男娼として成功をおさめ、あのレオナルドのお手付きにでもなかったのか?
エリーゼは一瞬、そんなことも考えたが、レオナルドはエリーゼが敗北を認めざる得ない程の美女をエスコートしている。しかもどうやら自身の両親と思われる年配の夫婦も連れていた。
一体どういうことなのか。
エリーゼはレオナルドの後を追うように、店を出る。少し離れた場所で観察していると……。どうやらノエは、レオナルド達と行動をこの後、共にするわけではないと分かった。艶のある黒髪美髪女性と行動していると理解したエリーゼは、「クソガキが生意気に」――そんな気持ちを込め、ノエの方へ近づく。
幸せそうな様子に水を差したいと思ったエリーゼは、わざとスノーにぶつかるようにした。
そう、レストランを出て、馬車に乗る前。
はしゃぐスノーがぶつかりそうになった貴族……それそこがエリーゼだった。
思い返せばあの時、ノエは顔が青ざめていた。
それは……そうだろう。自身を散々いじめ、男娼として売り払った継母が、恐ろしい顔でそこにいたのだから。
でもそんなことを知らない私は、国王陛下がノエの絵を見たいと言ったことをレオナルドから聞き、緊張して青ざめているのかと思っていた。
でも違う。
ノエはエリーゼと再会し、青ざめていたのだ。
そしてこの再会はこれで終わらない。エリーゼはベレンに命じ、ノエの身辺を探るようになる。その結果、ノエがどこで暮らし、誰と一緒にいて、何をしているのか。だいたいのことを把握できるようになる。それどころかノエが魔法を使えることも知り、魔法薬の処方に関わっていることも知った。
エリーゼは悪知恵が働く女だった。
魔法薬の効能を考えた時、それは自身の劣化の回復にも使えるのではないかと思ったのだ。そこでベレンに、その魔法薬を手に入れるよう指示を出す。
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いよいよお盆~!



























































