147:謎の人物、その正体は?
チーズケーキを既に食べ終えていたレオナルドが、グロリアに代わり話を続ける。
「グロリアから報告をもらった僕は、彼女にはベルドゥ男爵について調べるようお願いした。同時にロレンソに、ベルドゥ男爵の屋敷にノエが向かったことを知らせたんだ。するとロレンソからすぐに返事が来た。ロレンソはベルドゥ男爵のことを知っていたんだよ」
……!
ということは、ロレンソの診療所の患者だったということ……?
もしくは例の魔法薬の……?
「ベルドゥ男爵は、ノエの父親だとロレンソが教えてくれた」
ノエは、魔法薬事件でレオナルド達に捕えられ、話をすることになった時、自分の父親の名を明かすことはなかった。それは自分がしでかしたことが原因で、父親がお咎めを受けたり、爵位を剥奪されたりするようなことがあってはいけないと思ったからだと、後にノエはロレンソに明かしていた。
つまりレオナルド達には、ゴメル地区に売り払われたショック、また幼かったこともあり、自分の名はなんとか覚えていたが、ファミリーネームは思い出せないと弁明していたのだ。当時、ノエは捜査に協力的だったし、嘘をついていると思わず、深く追及されずに終わっていた。
なお、ゴメル地区にノエを売り払ったのは、ベルドゥ男爵の後妻。彼女はハッキリ、ノエに対し「お前が古巣に戻り、そこで男娼をしているなんて、父親は知る由もない。よかったわねぇ。恥をさらさずに済んで。お前は高い志を持ち、苦しむ人を助ける道を選んで屋敷を出た。そう、話しておいてやるから。誰もあんたを探すことはないよ」こう言っていたのだ。
ベルドゥ男爵は、娼婦をしていたノエの母親を身請けするぐらい優しい人物だった。後妻の魔性の性格を見抜けなかったのは、良くも悪くも人を疑わない人間だったからだ。それが分かっていたので、ノエ自身、ベルドゥ男爵を恨むことはなかった。
そして魔法を使えると覚醒したノエは、ベルドゥ男爵の元に戻ることはしなかった。継母と対立し、父親を、ベルドゥ男爵を困らせたくないと考えたのだ。何より魔法があれば、一人でも生きていけるとノエは悟ることができた。無理して家に戻ることはない。
どこか父親譲りの優しさを持つノエは、だからこそ魔法薬事件で逮捕された時も、ベルドゥ男爵の名を出さなかったわけだ。
それでもロレンソと打ち解け、話をしている時、その名を明かすことになったのだという。
「そのベルドゥ男爵の長女であるベレン・ベルドゥ。彼女は……後妻の娘だ。なぜベレン嬢が今さらノエに接触したのかね。そのきっかけは、まだよくわかっていない。それを突き止めようと、グロリアを連れ、ベルドゥ男爵のところまで向かったのだけど……」
レオナルドが優雅な手付きで紅茶を口に運ぶ。
「ロレンソもその場に駆け付けた。そして彼は僕にこう言ったんだ。『自分はノエの保護者であるのに、その責任を怠り、ノエは自身のことを捨てた継母がいる屋敷へ向かうことになってしまった。ここは、自分が状況を確認するので、一旦手を引いてもらえないだろうか』と」
今の言葉を受け、クッキーを食べたグロリアが口を開く。
「それはつまり、あの屋敷へ導いたのは後妻の娘。つまり娘の背後には母親がいる。裏で継母が手を引いている可能性があり、ベルドゥ男爵の屋敷に向かったノエは、危険な状態にある――そうロレンソ先生は考えたようです」
危険な状態にノエがあるなら、それこそレオナルドの協力を得て、助け出した方がいいのではないか。そう思ってしまうが……。
「もしグロリアと僕が動いたとしよう。それはどうしたって立場的に国が干渉したことになる。もし後妻がなんらかの悪さをしていたら、その罪は彼女だけでは終わらない。当然、ベルドゥ男爵も責任を問われることになる」
レオナルドの言葉で理解することになる。
ロレンソはノエの気持ちを知っていた。父親であるベルドゥ男爵のことを彼が嫌っているわけではないことを。できれば迷惑をかけたくないと思っていることを知っていたのだ。だから、レオナルドに待ったをかけた。ロレンソの方で対処できるなら、対処したいと考えたということだ。
やはりロレンソは善性が強いし、ノエが傷つかないで済む最善の方法をとろうとしている。そしてそのロレンソの気持ちを汲んだレオナルドもまた……とても優しいと思う。
「今、ロレンソがベルドゥ男爵の屋敷で何をしているのか。それは……僕にも分からない。でも彼なら間違ったことはしないだろう。きっと正しい行動をしていると思うよ。それに明日にはちゃんと報告をすると言われているからね。今日は静観して待とうと思う」
そこでレオナルドは、こんな風にロレンソの行動を擁護する。
「それにそもそもノエについて監視したのは……行き過ぎの行為だったからね。王宮付きの魔術師として動く必要はなかったのに、部下まで動かしてしまった。負い目もあるから、僕は大人しくしているよ」
そんなことはないはずだ。
レオナルドが動いたということは、そこに何か悪事が行われていると判断したからに違いない。でもこの言い方をすることで、ロレンソが間違ったことをしていないとなるわけであり……。
「グロリア、今日は遅くまで付き合わせて悪かったね。馬車で送らせるよ」
「いえ、レオナルド様、おかげで美味しい夕食をいただけました。シーラから戻り、平和ボケしている私には、丁度いい肩慣らしになりました」
グロリアは笑顔で応じ、これでひとまず解散となった。
お読みいただき、ありがとうございました!
明日はお昼に公開します~
引き続きよろしくお願いいたします!



























































