146:有言実行
ノエがどうなっているのか。
アズレークの追跡の状況はどんな感じなのか。
それはとても気になることだった。でもアズレークが動いているのなら、彼に任せるのが一番だ。余計なことをして、足手まといになったり、足を引っ張ったりするようなことは、避けないといけない。
呑気に夕食をとっている場合なのかという気持ちはあるが――。
「いざとなった時。腹が減っては軍ができぬだ。レオナルドは勿論、ノエはロレンソ先生が保護者でもある。ということはロレンソ先生も動いているのだろう。さらにロレンソ先生が動けば、街の人間も手を貸すはず。今は彼らに任せ、いざその時が来たら、すぐに動けるよう、食事をしよう」
義父のエリヒオの言葉に励まされ、夕食をとった。
食後の紅茶を飲んでいると、なんとアズレークが戻って来ると、先触れが知らせてくれた。エリヒオの言う通り、ちゃんと食事をしておいてよかった。皆、残っていた紅茶を飲み干し、エントランスへと移動する。
ほどなくしてアズレークが……レオナルドが帰宅した。するとそこにはグロリアも一緒だった。
これはどういうことかと今すぐにでも話を聞きたいが、私達に挨拶をしている最中。グロリアからは、可哀そうなぐらい盛大なお腹の虫がなっている。つまり、夕ご飯を食べずに仕事をしていたというわけだ。それはレオナルドも同じ。
すぐにエリヒオはメイド長に食事の用意を命じ、ロレナは二人をダイニングルームへと案内する。
かくしてレオナルドとグロリアは夕ご飯を取りながら、何が起きたのかを私達に教えてくれることになった。
「私はレオナルド様に命じられ、午後から一人の人物の監視を行うことになりました。その人物は、現在直接国に仕えているわけではありません。でも有益な薬を提供している人間として、国がロレンソ先生に委託し、保護し、育成している人物でした。つまりはノエのことです」
グロリアは豆のサラダを食べながら、午後からノエの監視をしていたことを明かした。同時に私は昼食をレオナルド達と共にしていた時に、グロリアがこの監視任務を受けたのだと気づくことになる。
遠慮して話を聞かなかったが、もしこのことが事前に分かっていれば、ノエが戻らないことでやきもきした時間が少しは減ったかもしれなかった。
「ノエは一人で公園にやってくると、それはもう物凄い集中力で絵を描いていました。何かに憑りつかれているというぐらいの集中力で。犬を散歩させる貴族が通り過ぎて、犬が吠えても無反応。紳士が声をかけても、その声はまったくノエに届いていないような状態でした」
その様子を聞く限り、ノエは本気で今日、絵を仕上げるつもりだったのだと分かる。
「監視。正直、暇でした。ノエは本当に絵だけ描き続け、途中、何度か飲み物を口に運び、焼き菓子を食べていました。でもそれ以外はもう、本当に筆を動かしていて……」
グロリアは、野菜とハーブでじっくり煮込み、とろとろになった子羊の肩肉を、嬉しそうに食べながら話を続ける。
「陽射しが陰り、そろそろ夕方が近づくと、ノエの手が止まりました。それまでは目の前の景色とキャンバスを交互に見るようにしながら筆を動かしていたのですが、その時はキャンバスとにらめっこして。なんだか微調整をしている感じでした。そしてサインをいれたのです。多分、絵が完成したのだと思います」
有言実行。
ノエは今日、ちゃんと絵を完成させたのだ。
「その後は絵を描いていた時の勢いで、片づけをしていました。次に予定があり、早くそこに行かないといけない――そんな風に見えました。時々、懐中時計を見ていたので」
つまりノエは絵を描き終え、約束通りマルティネス家の屋敷に来るつもりだった。
「片づけを終え、道具箱とイーゼルとキャンバスを持ち、まさにその場から立ち去ろうとしていました。ああ、暇だったけど、楽勝な監視任務だったと私も思っていたのですが……。目にも鮮やかなピンク色のドレスを着た、茶色の巻き毛の令嬢が、従者らしき男性を連れ、現れたのです。そしてノエに話しかけました」
二人が会話している様子は、最初は普通だったが、後半は少し口論にもなっていた。だがノエは、なんというか大きく肩を落とし「分かった」という感じで返事をすると、その令嬢と並んで……一歩後ろを行く感じで歩き出したという。
「慌てて後を追うことになりました。怪しまれないため、街の女に見えるよう魔法で変身をして。すると公園の外で待機していた馬車を、二人が目指していると分かりました。そこで私は転移魔法で先回りし、馬車の御者に魔法を使い、行き先を聞き出しました」
そう言って、グロリアはレオナルドを見る。
レオナルドはデザートのチーズケーキを食べ、頷いた。
「グロリアはよくやってくれたよ。御者はベルドゥ男爵の屋敷から来て、そこへ戻るよう指示を受けていた。そして馬車に乗っているのは、ベルドゥ男爵の長女ベレン・ベルドゥであることが判明した」
レオナルドに褒められ、グロリアは照れながらチーズケーキにかぶりついている。
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