144:私が探る
公園でなぜノエに声をかけなかったのか。その理由をアズレークに問うと……。
「あの場に戻って来たノエの様子は、明らかに普通の状態ではなかった。私自身、ノエと接する機会はそう多くはないが、それでも彼が真面目であると理解している。恩のある相手に頼まれた絵を描いているんだ。声をかけられたとしても、まずあんな風に放置しないだろう。やむを得ず放置することになっても、2時間近くあのままなのはあり得ない」
それはまさにアズレークの言う通りだ。ノエらしからぬ行動だと思えた。
「そうなるとノエの意志に反し、でもそうしなければならない理由がある……。ということだ。もし本人がその理由で悩んでいたり、困っていたりするなら、ロレンソに相談するのでは?と思う反面、自力で解決しようとしている……と思わなくもない」
なるほど。そこはなんというか、私と同じと思える。自分で解決できるなら、自分でなんとかしよう……そう思うことは多々ある。
「干渉した方がいいのか、見守るべきなのか。それを判断するだけの材料が今はない。だから少し、探るようにする。スノーがノエを気に入っているのはよく分かっているから。もし助けを求めるべきことを、独りで抱え込もうとしているなら……ちゃんと干渉し、解決に導く」
「つまりノエの状況を今後探るにあたり、ノエに警戒されたくなかったのですね? 今日みたいにサプライズで私達が来るとノエが知ったら、あの令嬢との接触方法も変わる可能性がある。だから今日はノエに声をかけることなく、屋敷に戻ったのですね」
頷いたアズレークが私を抱き寄せる。つまりこれで話はお終い。
アズレークが探ってくれるのなら。
ノエがどんな状況であり、あの令嬢が何者であるかも必ず分かるだろう。
憂いがなくなり、ノエが絵を心置きなく描けるようになり、スノーとの時間を持てるようになることを、願うばかりだ。
「君がスノーのことを、妹のように可愛がっているのはよく分かっている。自分のためではなく、スノーのことを思い、ノエのことも心配している。……本当に君は優しい。でも大丈夫だ、パトリシア。ちゃんと探るようにするから」
アズレークの唇が私の唇に重なった。
◇
今日のお昼には、シーラから戻ったばかりのグロリアとルカが同席した。軍服姿の二人と昼食を共にするのは、メトルの街のシーフード料理以来だった。
驚いたことにグロリアは、こんがりと日焼けしている。でもそれは溌剌な彼女によくあっていたし、そのグラマラスな体をより魅惑的に見せるのに役立っているとしか思えない。
その一方で、令嬢であれば、まず日焼けはご法度。肌の白さは深窓の令嬢に求められる条件の一つなのだから。でも護衛騎士の経験もあり、今や魔術補佐官という、ある意味何でも屋のような職務についたグロリアには、ご法度など関係ないのかもしれない。
その潔さは嫌いではない。むしろ好ましい。初対面の印象では、ついライバル視してしまった。でも今のグロリアには好感度しかない。
「も~~~っ、本当に、シーラの街は素敵でした! 食べ物は美味しいですし、海は美しいですし、開放的ですし、空気まで美味しく感じてしまって!」
「いいなぁ、グロリアは。ボクもシーラに残りたかったなぁ」
グロリアとルカがシーラ賛歌をしていると、レオナルドが咳払いをして、「ワイズ」の件の報告を求める。グロリアは我に返り、すぐに報告を始めた。
「そうか。多くの『ワイズ』のメンバーが魔法を使える人間を目の敵にしているわけではないと分かり、安心したよ。なんとなくの同調意識、会合に参加すれば無料で食事にありつける、そんな軽い気持ちで名前を連ねていたということだね」
白い軍服姿のレオナルドが、優美な仕草で仔羊肉のキッシュを頬張ると、グロリアは鴨のコンフィをごくりと飲み込み頷いた。
「こんな風に留置所に入れられるとは思っていなかった、二度とこんな活動はしないと、大半のメンバーが言っています。それでも加担したことに違いはないので、犯罪歴として記録されますし、差別問題に関する講習を受け、奉仕活動を行い、半年後ぐらいに解放になるかと」
「そうか。創立メンバーと思想自体に傾倒していた者は実刑だね」
グロリアはピクルスをフォークに刺したまま「はい。国王陛下の権限が行使され、執行猶予なしの実刑判決です」と答えた。
この報告内容は、今日の夕方のニュースペーパーでも明らかになる。反魔法使い組織などという物騒な地下組織を作ると、こんなことになると多くが知ることになるだろう。そうなれば第二の「ワイズ」は生まれないはずだ。
「ところでグロリア、戻って来て早々、申し訳ないけど……」
レオナルドがグロリアに新たな仕事について話しだしたので、私はルカに話しかける。本当に極秘にしたいことは、レオナルドがこの場で話すことはない。だから今、グロリアにレオナルドが話していることも、私が聞いても問題ないことだと思う。
それでも私は部外者なので。極力仕事の話をレオナルドが三人の魔術補佐官としている時は、聞かないようにしていた。
こうして昼食の時間は終わり……。
「さて。みんな、食べ終わったね。午後も頑張ろうか」
レオナルドが笑顔で立ち上がった。
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もうすぐお盆です!
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