143:気になる……!
どういうことなのか、理由が分からないまま、時間が過ぎていく。
何度か、ノエが放置したキャンバスや道具一式に人が近づきそうになり、ドキリとする。だが多くが、キャンバスを見て「ほう」という感じになり、周囲をキョロキョロする。でも画家がそこにいないと分かると、そのまま立ち去ってくれた。
ここが貴族の邸宅に囲まれた公園であり、利用しているのが貴族であることに安堵する。
「ノエは絵が売れているとはいえ、まだまだ知名度は低い。彼の絵を知る人は少ない。素晴らしい絵だと思い、足を止めるが、サインもなく、誰の絵か分からない。加えて、ここは貴族が多いからね。盗まれずに済んでいる」
「そうですが、人が近づく度にドキッとしますよね。それにせっかく絵を描くためにここにきているのに……。もう二時間近く経ちませんか?」
私が尋ねると、レオナルドは自身の懐中時計を確認し「パトリシア、正解だよ。もう二時間経つ。そろそろ僕達も帰らないと。スノーはダンスの練習だろう?」そう言うと、スノーと私を見た。
本当にもう、そんな時間だった。
一体ノエは何をしているのだろうか?
お世話になっている画廊のオーナーの依頼で絵を描いているのに。早く絵を仕上げ、スノーのダンスの練習だって手伝うと言っていたのに。
「ノエにはノエの事情があるのだろう。そろそろ帰るかい?」
まさにレオナルドが腰を浮かしかけた時。
「お戻りになったようです」
騎士の声に視線を向けると、なんだか疲れた顔のノエが歩いてくるのが見えた。
その姿にいくつか違和感を覚える。
この場所でノエを見つけた時。
彼は白シャツの裾をズボンの中にいれていたはずだ。でも今、そのシャツはズボンから出ている。さらに、少し髪が乱れ、シャツのボタンが3つほど留められていない。
なんというか、脱いでいたシャツを取り急ぎ羽織り、ボタンは途中まで留めた。もしくは熱いから、風を少しでも通したいと思い、ボタンを首元まで留めてない……?
よく見ると、頬が上気しているようにも見える。
え、舞台横の扉の向こうで、ノエは何をしていたというの?
離れているので当然だが、ノエは私達に気が付くことなく、そのまま絵がおかれている場所に戻り、急ぎ、パレットと筆をとる。つまりは絵を描くことを再開させた。
「時間切れだね。帰ろうか。ノエもロスタイムした分を取り戻し、絵を描きたいはずだよ。邪魔をしない方がいい。……スノー、そんなにガッカリする必要はないよ。また明日、会えるのだから」
レオナルドに優しい口調で言われたスノーは「はぁい」としょんぼり返事をするしかない。その姿があまりにも可哀そうで、私が口を開きかけると、レオナルドは自身の細い指を唇に当てる。
その仕草が実に優雅で、開きかけた口をつぐんでしまう。
「帰ろう」
再度レオナルドに促され、私もベンチから腰をあげ、屋敷に戻ることになった。
◇
「アズレーク、どうしてノエに声をかけなかったのですか……? スノーがとてもガッカリしていたわ……」
公園での一件について、アズレークと話す時間はなかなかおとずれなかった。何せ屋敷に戻ると、夕食まであまり時間がない。継続は力なりで、ダンスも毎日少しの時間でいいから、ステップを踏み、動くことで、体が踊りを覚えてくれる。ということで、帰宅すると早速、レオナルドとスノーはダンスの練習となった。
二人がダンスする姿を見て、アズレークとダンスはしたが、レオナルドとダンスをしたことがないことに気づいた。気づくと同時にレオナルドとも、ダンスをしたい……という気持ちがわいてくる。
というのもアズレークと違い、レオナルドのダンスはとても美しいのだ。アズレークは男性らしくリードし、力強さがあり、動きにきれがある。対するレオナルドは、なんというかエアリー。優しくリードし、ふわりと抱き寄せ、動きが柔らかい。
同じ人物のダンスとは思えない程、違う。
そんなレオナルドとスノーのダンスの練習の後は、夕食。食後はスノーとおしゃべりをしながら、寝るための準備となる。それが終わりようやく……。
自分自身の入浴を終え、今日もレオナルドが私の部屋に来たが、その姿は瞬時にアズレークに変わった。今日は休日で一日中一緒にいたが、その姿はずっとレオナルド。アズレークの姿で会えたことが嬉しくなり、ソファに座る彼に自分から抱きついていた。
アズレークはそんな私を抱きしめ、しばらくキスを繰り返している。私もこのままベッドに……となりかけたが、アズレークは一旦クールダウンしてくれた。つまり、話をすることになった。
そこでようやく、今日の公園の件についてアズレークと話せる状態になったのだ。
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続きは明日の夜に公開します。
今年は猛暑ですねー。
睡眠中の熱中症に気をつけてください!
引き続きよろしくお願いいたします。



























































