142:発見!
メルヘンな橋から少し距離をおいた場所に、ノエがいた。
イーゼルにキャンパスをおき、パレットを手に、熱心に絵を描いている。
「スノー、ノエがいるわ。声をかけてみる?」
私が尋ねると、スノーは頬をピンク色に染め、「はい!」と頷く。
レモン色のワンピース姿のスノーはとてもフレッシュで初々しく感じる。そこで頬をポッと染めると、とても愛らしい。ノエに会えることに胸を高鳴らせていると伝わってくる。それでも駆け出すことなく、ゆっくりとスノーはノエの元に向かおうとしていた。
ところが。
マゼンタ色のドレスを着た、茶色の巻き毛の令嬢が従者らしき男性を連れ、現れた。少し早歩きで、その令嬢は……ノエの方に向かっているように思える。スノーが立ち止まり、私も歩みを止めることになった。
ツカツカとノエの元に歩み寄った令嬢は……ノエに話しかけた。
描くことに集中していたノエは、完全に不意打ちのように声をかけられたと思う。でも驚くこともなく、その令嬢と会話しているように思える。
「あの令嬢は……ノエの知り合いなのかな?」
私達に追いついたレオナルドも横並びで立ち止まり、二人の様子を見ている。
知り合い……。
ゴメル地区で暮らしていたノエに、貴族の知り合いはいないと思う。魔法薬の売買で貴族と接触はしたろうが、素顔は晒していないはずだ。それにあくまで売り手と買い手。慣れ合うことはなかったはずだ。
ただ、ロレンソと暮らすようになり、貴族の知り合いができた……。それは無きにしも非ず。ロレンソの診療所に、貴族は絶対に尋ねないわけではないのだから。魔法薬の件でロレンソにお世話になり、その腕を見込み、引き続きロレンソを頼る可能性だってある。
そうなると……知り合いなのだろうか。
でも診療所で知り合っても、それまたあくまで患者と職員という関係。顔見知りであっても、知り合いではないように思える。会釈はするが、あんなに風に話すだろうか……?
そう、そうなのだ。
二人は結構、しっかり話しており、立ち話という感じではない。
そう思っていると、ノエが道具箱にパレットと筆を置いた。一方の令嬢は、待っている従者の方へと歩き出す。そしてその令嬢の後を……ノエが追っている。
キャンバスや絵の道具一式は、そこにそのままだ。
ということは、どこかに向かっているが、また戻って来る……ということだろう。
「……知り合いに声をかけられ、どこかに向かっている。でも戻るつもりがあるから、絵はそのままにしてあると。うーん。状況は分かるけど、ノエの表情が気になるね。すまいないけど君、彼らがどこに向かっているか、確認してもらってもいいかな? ひとまず確認だけで。よほどのことでなければ、手出しはしないでいいよ」
レオナルドが声をかけると、同行してくれていた騎士は「かしこまりました」と返事をし、音もなく移動を開始する。公園への散歩ということで、スーツ姿であり、剣も短剣を所持ししているだけ。ただ魔法も使える騎士なので、今回同行してもらっていた。
「レオナルド、ノエの表情が気になったとは、どいうことですか?」
「うん。本人としては絵を描きたい、ただ声をかけられたからには、ついていくしかない――そんな表情をしているように思えたよ」
なるほど。そうなのね。
一瞬、年齢も近そうなので、もしや女友達か何かと思ったけれど、そうではなさそうだ。
スノーもしゅんとしていたが、今の言葉に表情が落ち着いた。
「そこにベンチがある。丁度、あの素敵なアーチ型の橋も見えるよ」
レオナルドが振り返って見る方向を見ると、確かに木の下にベンチがある。日陰になっており、見晴らしもいい。さらにレオナルドの言う通り、ノエが戻ってきたらすぐ分かるだろう。
レオナルド、スノー、私と並んでベンチに腰をかけた。
すると。
盛大にセミの鳴き声が聞こえてくる。
「なるほど。ここはセミのお気に入りの木なのか。どうして木陰で快適そうなのに、このベンチには誰もいないのかと思ったら……。この大音量の鳴き声のせいだったのだね」
これにはもう、スノーと二人で苦笑してしまう。
どこかに飛んでいってくれないかしら?と思ってはいけない。先客はセミなのだから。
セミの豪快な鳴き声を聞きながら、スノーに今日の外出はどうだったのかと話を聞いていると。
騎士がようやく戻って来た。
なんだかんだで30分以上は過ぎている。
公園は広いし、往復でそれぐらいの時間がかかったのかと思ったが……。
レオナルドが「追跡ありがとう」と御礼を言い、どこへ向かったのかと騎士に尋ねる。するとその騎士からは思いがけない報告が上がった。
「野外ステージの舞台横の扉から中へ入っていった……? その扉の前を従者が見張っていると。それで出てくる様子はないのかな?」
レオナルドに問われた騎士は頷いた。
公園の野外ステージは、夏は陽が落ちてから、冬は昼間に利用されることがある。演劇やコンサートが行われるのだ。
ただ、その回数は少ない。
何せ貴族の邸宅に囲まれた場所に公園はある。騒音であるとか、夜間の余計な人出を周辺の貴族が嫌うので、せっかくの素敵なステージだが、宝の持ち腐れになっていると、レオナルドから聞いていた。
舞台横にある扉となれば、おそらくそれは舞台セットにつながっていたり、控え室につながっているように思えるが、なぜそんな場所に? しかも中に入ったのは令嬢とノエで、従者は扉の前で見張っている……。
これはどういうことかしら?
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